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7-15 お出掛け

 今日はサリアを連れて、名古屋の繁華街に出てみる事にした。ちょっと空気が悪いので、そのへんが心配ったが、まあ大丈夫だろう。回復魔法もあるのだ。某国の霞がかったような大気汚染に比べたら、どうって事はない。


『お兄ちゃん、今日はどこに行くの?』

「いいとこさ。はぐれないようにな」


 はぐれても俺の予備用GPS付きスマホを持たせてあるので、後はファクラの力でいくらでも探せるが。可愛い子なので、変なのに連れていかれても敵わない。


 もう、この子は電話のかけ方をマスターした。子供の学習力を舐めていたわ。興味を持った対象については、驚異の習熟をみせる。


 すでにゲーム機能に嵌っているようだ。ネットも接続そのものが楽しいようで弄りまわしている。さすがに字は読めないようだが。やはり、異世界の通信機と同じでスマホを通しても念話は使えたので助かった。


 そして自分の字はカタカナで、あっさりとマスターした。

「カタカナ、サリア!」


 ドヤ顔で高々と掲げた、広告の裏に書かれた文字に、家族から盛大に拍手をもらっていた。なかなか綺麗な字だ。俺よりも上手なんじゃないか。


 父もいきなり来たサリアに驚いていたが、暖かく迎えてくれた。

「そうか。しっかり世話をするんだぞ」


 サリアも父に懐いて、玄関先でお見送りしていた。

「お父さん、いってらっしゃい」


 簡単な言葉など一発で覚えてしまうようだ。頭いいな。父も少し唇の端を緩め加減で出勤していった。亜里沙も、昔はこんな感じだったのだ。最近はとんとさっぱりだが。あいつは、今日はまだ寝てるし。


 俺はサリアを連れて、近所の駅に向かった。駅なんてものを初めて見るサリアは、珍しそうにキョロキョロと見回していた。マナカのカードを持たせて、使い方を教えてみた。


「ピピっ」

 他の人が使っている時の電子音を、自分の口で真似したりしている。可愛いもんだ。自分の分のカードを通すと嬉しそうにしている。


 なんという順応力。案内人がいるとはいえ、こんなに簡単に馴染んでしまえるとは。俺など、向こうで右往左往して頭を抱えていたのだが。


 それとも日本が便利すぎるのか。最近は、こういう事は某国の方がずっと進んでいるらしいが。日本は慎重でお堅いからな。どんどん置いていかれる気がする。大丈夫か、日本。


 ライトを点けた電車がゴーっと近づいてきたら、サリアがビビった。

『お兄ちゃん。魔物が来る! 早く逃げよう』


 うーん、この必死さが可愛いぜ。

「大丈夫だ、サリア。これは乗り物の一種だよ。マイクロバスと同じだ。この線路の上しか走れないから。でも踏み切りの上では電車に撥ねられてしまうから気をつけないとな。また今度教えてあげる」


 まだ電車を懐疑的に見ながら、俺にしがみ付いていたが、ドアが開いて中から人がたくさん出てきたので警戒を解いたようだ。


『異世界は恐ろしいところだわ!』

 まあ紛争地帯なんかへ行ったら、あっちの世界よりも恐ろしいかもしれないな。


 空爆とかあるし。電車には馴染んだようだ。長椅子に窓側に向かって膝立ちになり、熱心に外を眺めていた。


 地下鉄の駅について、1日券を買って渡した。

『これは?』


「えーとな。さっきのと違って、これは機械の中に入れてしまって通さないといけないんだ。さっきのICのマークのある奴じゃなくてな。ここにカードを通すスリットがあるから、ここに入れるのさ。ほら」

 俺が自分の分を通すと、反対側にカードが出てきたのを見せた。


「ほら、自分のカードでやってごらん」

「えい!」


 込められた気合と共に、乗り放題切符のカードは改札に吸い込まれて、無事に通過できた。ああ、あのドヤ顔がたまらんな。


『なんで、さっきのマナカと違うの?』

「えーと、この地下鉄はな。1回乗ると最低で200円かかるのさ。それが今から今日だけは、何回乗ってもいいんだ。4回以上乗ると元が取れるくらいかな。今日みたいにあちこち行く日は、これが便利だな。別にマナカでも乗れるんだよ。このICカードのシステムは一番新しい方式なんだ。あ、帰りの電車は昔ながらの切符を買ってみようか」


 サリアは少し考えていたが、今一つ理解できないようだった。また今度ゆっくり教えよう。

『これから、どこ行くのー』


「今、この鶴舞線という路線に乗ったからなあ。一番大きな東山線というのに乗り換えるから、伏見という駅で降りるよ。そこから栄に行こう」


「サカエ?」

「そう栄だ」


『なんていう意味ー』

「おまえの国の言葉で『ヘニオス(栄光)』かな」


『格好いいー』

「なんていうんだ、街が栄えるという意味かな。名前は大切だぞ。名前に込められた意味は力を持つんだ」


『肇は、どういう意味の名前なの?』

「うーん、始まり。そして一番という意味だ。長男には多い名前だよ。一郎よりかはマシかな」


『悪くない名前だと思うけど』

「まあ、そうだけどな。次郎や三郎だって有名な人はいっぱいいるからね」


『サリアは花、華やかな花。神殿用語では巫女を指したりもするの』

「へえ。いいじゃないか」


『うん。それがあたしの存在意義でもあるのよ』

 俺が、この幼い少女の何気なく発された言葉の重さを思い知るのは、ずっとずっと後の事になるのだった。


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