7-14 異世界からのお客様
「ただいまー」
「ただいま!」
サリアがもう挨拶を覚えてしまって、可愛らしく真似をした。
「お帰り。って、肇。その女の子は一体誰だい?」
「ああ、この子はサリア。訳ありだから家で預かる事になったんで、よろしく。実は、向こうの世界の子なんだ」
お袋が目を丸くしていたが、サリアが挨拶した。
『サリアです。よろしく、お母さん』
「よろしくね。ええっ!」
なんとサリアは念話が使えたのだ。お袋は、外人の子供が流暢に日本語を使っているようにしか聞こえなくて、びっくりしている。
「へえ、サリアは念話が使えたんだな」
『はい。だから、みんなともお話できてたよ』
気がつかなかった。うちの女性陣は念話使えるしな。俺が主体になって相手していたし。そういや、この子は山崎を「お兄ちゃん」呼ばわりしないんだな。珍しい事もあるもんだ。
「ただいま~。あれ。その外人の子はだあれ」
淳が帰ってきて、ポケっとしている。
「こいつは弟の淳だ。淳、この子はサリア。しばらく預かるから」
『よろしく、淳』
「よ、よろしく、え?」
淳も驚いている。まあサリアなら日常会話くらいすぐに覚えるだろう。
「亜里沙は?」
「友達とカラオケみたいよ」
あいつも最近、ようやく船には飽きが来たようだ。1か月はいたような気がするぞ。
「さあ、御飯はもうちょっと待ってね。2人分増えたから。今日はカレーよ」
「カレー!」
お気に入りメニューなので、サリアもカレーはもう覚えたようだ。
「あらあら。もうカレーが好物なの? さすがお子様メニュー、ナンバーワンねえ」
いやハンバーグとかラーメンもあると思うが、母親から見たら野菜とかたっぷりで子供に食べさせたいメニューなのかもな。
うちの母親は、いきなり連れて帰った異世界の子供になんなく順応した。まあ、長男が異世界に行きまくっている現状を受け入れた段階でなあ。
幸いにしてサリアも、あっさり日本に適応しているので有り難い。トイレも問題なく覚えてしまった。
『日本のトイレ、凄い!』
「フジヤマ、ゲイシャ・スシ・スキヤキ・テンプラ」
川島が変な教え方をしたので、何か外人さんみたいな事を言っている。
いや、外人さんだったわ。それどころか、異世界人だ。見た目も西洋の子供そのものだが。俺の管轄なので、不法入国扱いにはならないはずだが。
正式に入国許可を求められてもお役所も困るだろう。異世界からの入国手続きなど用意していないし。現地政府と国交すらないのだから。
待っている間に、家の中を案内してやることにした。まあ、そうたいしたものじゃないんだが。一通り回ってから、俺の部屋を見せてやり、PCをつけてやると夢中だった。
『肇! これ、面白いよ~』
それからサリアの部屋を用意した。まあ、ただの客間だ。ベッドがないので、お布団だな。そういう習慣は馴染みが無いのか、面白がっていた。
『この畳って面白い。この家も、靴は脱いで上がるんだね』
「世界的にも珍しいほうじゃないのかな。西洋では、靴のままだよ。でも家の中が汚れちゃうよな」
『確かにー』
「御飯よ~」
サリアは頬ずりしていた畳から飛び上がって、駆けていった。ダイニングで、カレーにパクついたサリアが叫んだ。
「カレー、タルシー!」
「肇、なんだって?」
「タルシーは、この子が暮しているあたりで『美味しい』の意味さ」
「そうかい、タルシーだったかい。良かったわね」
「うん、お袋のカレーは世界一さ。お代わり!」
育ち盛りの弟が、もりもりカレーを食っていた。そして、ここにも育ち盛りが。
「お代わり」
もうこの言葉は覚えてしまったようだ。彼女にとっては、大変重要な単語だろう。ホームステイは、異世界言語習得にも有効なようだ。
結局、この2人が食い尽くす感じで、カレー鍋の中身は掃討された。お袋は、父と亜里沙の分のカレーを追加で作っていた。
「次回からは、寸胴鍋で作ったほうがいいね」
「あはは。それで御願い。サリアが、こんなにカレーを食うとは思わなかったよ。つい俺も、お代わりしてしまった」
「じゃ、お前達。順繰りに御風呂片付けておくれ」
「あ、お袋。サリアは一緒に入れてやってくれ。トイレは女性陣が教えてくれたから大丈夫だと思うけど、御風呂はね。向こうはシャンプーも無いからな。あ、でもトイレの大きい方は心許ないかも。一応、面倒見てやってくれる?」
「わかったよ」
「ただいま~」
俺が風呂から上がったあたりで亜里沙が帰ってきた。
「ありゃりゃ。なんか外人さんの子がいるー」
「正確に言うと、異世界人だな」
「マジで!?」
『サリアだよ。お姉ちゃん、よろしくー』
「おお、日本語を話すの? 可愛いね」
「残念ながら、異世界語だ。念話という能力を使っているんだ。共通言語じゃないんで、何語なのかはわからない。その子が話しているのが多分、もっとも広く使われている言葉だろう。でも英語みたいに世界中に普及しているわけじゃなくてな」
「へ、へー。そうなんだ。日本語にしか聞こえないけどなあ」
「俺もそうだったよ。最初は戸惑ったもんさ」
初めてスクードに出会った時の事を思いだした。
サリアは思いの他懐っこい性格で、うちの家族にもすぐ慣れた。母親が死んでそう経っていなそうだから、寂しいと思っているのかもしれない。
サリアは、お風呂上りにジュースを飲んで、それから歯磨きを習っていた。
「おやすみ、肇お兄ちゃん」
どうやら、可愛い妹ができてしまったようだ。妹否定派から転換してみてもいいかな?




