7-12 初めての訪問者
「じゃあ、ラオ。元気でなあ」
「ぐるう」
嬉しそうに俺の手に鼻面を伸ばして擦り寄るこいつを見ると、少し後ろ髪を引かれる気持ちだが、熱心に世話をしてくれる奴がいるので安心だ。
「アーラ、お前達もな。戻ってきたら、また活躍してもらうからな」
「ギャア」
「ピーちゃん、元気でねー」
「ピー」
「鳥吉~、またなー」
「ポウ」
皆、それぞれの愛鳥と別れを惜しみ、帰還する事にした。一応はダンジョンまではエブルムに乗せていってもらったのだ。ラオも、お見送り猫をしにやってきた。可愛いものよ。
ダンジョンの中に入ると、人目が無いのを確認して、マダラを呼んだ。サリアが声を上げそうになったが、慌てて口を押さえていた。前もって言ってはあったが、まあ驚くよな。
マダラも、こそーっと現れて、そっと送ってくれた。なんか、昔のマンガに出てくる泥棒みたいに、ほっかむりをさせてやりたいような感じだったぜ!
そして真っ先に確認したが、サリアは無事にこの世界、日本にやって来れていた。
「ウエルカムトゥージャパン。日本へようこそ、サリア」
向こうの世界の人間が始めて日本にやってきたのだ。無論、魔法で検疫は済ませてある。
サリアはきょときょとしながら、あたりを見回していたが、訊いてきた。
『ここが異世界なの?』
「ああ、そうだ。ここはまだダンジョンの中だから」
佐藤がコースターを取り出した。総勢9人の大所帯だからな。
『え? 魔物?』
慌てて、俺の背に隠れるサリア。
「心配しなくていいよ。これは、俺達の国の乗り物だ」
『これは一体なあに? 馬車なの?』
「これは自動車というものだよ。マイクロバスだ」
一つだけ懸念がある。この子は、大気汚染などがある、この世界で大丈夫だろうか。
今まで触れなかった病原菌やウイルスもいるだろうしな。健康に問題がありそうなら、元の世界にすぐに帰そう。環境不適応とかだと困る。
よくはわからないようだが、子供特有の好奇心で彼女は果敢に乗り込んだ。そして、出発してからは窓にべったりだった。
『ねえ、肇。あれはなあにー?』
『おおー!!』
『わああ!』
なんかもう賑やかしい。クヌードの子供達を思い出すぜ。もう随分会っていない気がする。一応、バフォメットには寄っていく。
『やあ。キュリー、いやマーキュリー大佐はいるかい?』
警備の米兵に尋ねたが、不在のようだった。残念、サリアに是非見せたかったのに。あの化け物だけは異世界にいなかったな。
「じゃあ、守山に帰るか」
山崎が、キュリーがいなかったのでホッとしたように言った。
「ああ、そうしよう。どうせだから、ドライブして帰らないか? サリアに色々見せてやりたいよ」
「それもいいかもな。まだ13時を回ったくらいだし」
青山も、のんびりと賛同する。あっちじゃドタバタしちまったしな。まったく無事に済んだ試しがねえや。
「まあいいだろう。いつものヘリの定員を超えているし。ここは静岡だ。俺も少し疲れたから、慣れない機種に乗りたくないな」
ここしばらくは佐藤達が出番無かったし、頼むとするか。
俺達は、そのまま東名高速に乗り帰還する事とした。清水I・Cから入り、少し行くと海が見えた。
『わあ。あの青くて大きいのはなんですか?』
「あれは海だ。陸地以外を満たしている広大な水域だ。グニガムも、そう海から離れてはいないと思うが、行った事はないのかい?」
『はい、無いです。へえ、そうなのかあ。綺麗だなあ』
うっとりと海を眺めていたが、すぐに見えなくなって残念そうにしていた。
「お腹空いていないか?」
さっき、少しお菓子を食べさせただけだったのを思い出した。
『あ、ちょっと空いてます』
サリアのお腹が可愛く鳴った。
『あう』
あはは。可愛いな。まだ亜里沙が小さかった昔の頃を思い出した。
「佐藤、次のサービスエリアで降りてくれ」
「あいよ」
次は牧の原S・Aだな。何が美味いのかな。サリアは何が食えるだろうか。今まで日本の食い物を異世界の人間に食わせた様子だと、そう食えない物はなさそうだが、まだ子供だし好みによるだろうしな。
『わあ、綺麗な建物。大きいし、広くて、色んな自動車? がいっぱい』
当の本人は、また新しく目にする珍しい景色に夢中なようだが。
「さあ、サリアちゃん。御飯よー」
本人も食う気満々の川島が手を繋いでいく。
「何食べようかー。色々試してみようねー」
シェアして、色んな物を食うつもりだな。まあ、その方がサリアもいいか。
「じゃあ、お店でお勧めの牧の原ラーメンはどうだい? 前にネットで見たら、なかなか評判良さそうだったし」
「あとカレーの小さいのもあるなあ。子供の定番メニューだったし」
「ピザは分け合いに向いてるな」
「豚汁も良さそうだぜ」
「私は久々に海鮮丼でもいただきたいですね。異世界の食事はお肉に偏っていますので」
「いいね、城戸さん。俺も乗った。やっぱり魚だよねー」
今度行く時は、猫用に魚でも持っていくか。鳥ちゃん達は雑食で、なんでもいけるらしい。
食券を買って色々頼んだが、まず豚汁とカレーが来た。サリアがじっと見ている。未知の食べ物だから勇気がいるよな。でもいい匂いがするのだから。まず、豚汁をすくって飲んでみた。
『美味しい~』
お味噌汁はいけたようだった。次に果敢にカレーに挑戦してみる。スプーンで掬って、一口パクっ。
『これも美味しい。ちょっと辛いけれど』
パクパクと食っていた。次にラーメンが来たので、小碗によそって食べさせてみた。
『美味しいー。これラーメンっていうんだ。ここは、どれもこれもご飯が美味しいねー』
あとはピザを齧ったり、海鮮丼を一口頬張ってみたり。
それから出発前の儀式がある。
「城戸さん、川島。この子にトイレの使い方を教えておいてあげてくれ」
「ああそうか、しばらくこっちにいるものね」
「いらっしゃい、サリアちゃん」
女性陣が、2人とも念話使いなんで助かるぜ。




