7-9 捜索依頼
俺は、一通り向こうの世界の事、この世界で起きた事などを話していった。
『すると、お前達はそれを防ぐために旅をしているというのか』
「そうであるとも言えなくも無いが、俺達は基本的に日本人の救出をメインにした部隊だ。ただ情報の収集は必要だし、もし本当になんとかしないと世界が滅ぶというのなら、その使命とやらに邁進しない訳にはいかないだろう。俺達には向こうの世界に守るべき大切な者達がいる。阿呆の邪神派などの好きにさせるわけにはいかん」
そうさ。そして、この世界にも守るべき者、守りたい人達はいる。
『面白い。私は力になってやろう。だが、あくまで私はだ。第7王女などには、何の権限も権力もない。兄上達は、お前らに対して心を開きはすまい。父も同様だろう。私は、いずれ話が出れば国の道具として他国に売られる身。それまでの話ではあるがな。他にお前達に手を貸してくれる者といえば、そこの爺くらいのものよ。それもお前達が、探索者なればこそ。そういう話だ』
「へえへえ。第7王女殿下、ありがたくて涙が出るさ。ところでギルマス。この紙面を各方面に配って見てもらうのは無理か?」
俺達は、グニガム用に印刷された専用パンフレットを見せた。彼は珍しそうに弄り回していたが、やがて駄目出しをくれた。
『ふむ。これは目立つな。やめた方がいいだろう』
俺達はがっかりしたが、彼は言葉を続けた。
『これを模写させて、ただの人探しとしてやらせよう。済まぬが費用は払ってもらうぞ。王国から補助金をもらえる訳ではないからな。あと、邪神派については調べさせよう』
「充分だ。1枚模写してもらえば、後は複製できる。あと、念のため、信用できる情報屋を教えておいてくれると助かる」
俺はとりあえずの費用として金貨100枚を先渡しにした。
『複製とな。まあいいじゃろう。後は情報屋か、そうじゃの。姫様、案内してやってくださいますか』
『わかった』
頷くバネッサ。まあ当てにしてもいいだろう。探索者としては、それなりの腕前のようだしな。
俺達はギルマスの元からお暇し、バネッサに連れられて情報屋のところへと向かった。街中なので、エブルムも走ったりはしない。
大柄な生物なので、それなりのスピードは出ている。彼らは人を乗せる時は、視界を塞がないように頭は下げてくれる。
元々、走る時には頭は低くする習性があるそうだが。そしてバネッサは、俺のアーラに相席した。今日は探索者スタイルなのが残念だ。キャミだったら素敵なのに。
高さ2mもあるエブルムの、鳥上の人になり街を闊歩すると、中々に気分のいい眺めだ。ちょっとしたパレード気分とでもいうのか。
川島など、普通に観光気分だ。本来ならお前がお姫様の警護なんだからな。だが、せっかくの女の子との2人乗りは譲るつもりないけどね。
一通り、街を見物しおえた俺達は、少しうらぶれた横丁へと足を踏み入れた。本来ならお姫様が出入りするような場所ではない。
アーラから降りたバネッサは、頑丈そうな木の扉を拳で叩き、小声で囁いた。
『いるか、バルドック』
『どうぞ、バネッサ様』
応えに従い、俺達は中へと進んだ。
『おや。これは大勢のお客様ですな』
バネッサが連れてきたせいか、彼は初対面の俺達にもそれほど警戒は見せない。
だが、全員が黒髪黒目という、この世界ではそれなりに珍しい風貌にチラっと目をやっていた。この手の人物に敵に回られるとやっかいだ。あっという間に情報が敵方に回っちまう。
『この者達については、極秘にしてもらいたい。やや面倒ごとだ』
『そうでございますか。では、そのように取り計らいましょう』
おお、バネッサの言う事は聞いてくれる関係らしい。
『で、ご用件は』
「ある人達を探してもらいたい。俺達と同じ黒髪黒目の男女だ。バネッサ、さっきのパンフレットは見せたら駄目なんだよな」
『ここでだけならいい』
俺はパンフレットを取り出して彼に見せた。
『ふむ。これは珍しい物だ。少し変わった服装をしていますな』
「その格好をしているとは限らない。こちらで衣服を調達しているだろう。もう随分と時が経つのでね」
『姫様。これを預からせていただきたいのですが。後でご返却いたしますので。さすがに、何も無しで探すのは厳しい』
『どうだ? 肇』
「それは構わない。とにかく藁にも縋りたい気持ちなんだ」
『わかり申した。それでは前金として金貨50枚を』
俺は黙って金貨を数えて、袋に入れて手渡した。
男は遠慮なく数えると『確かに』と答え懐にしまいこんだ。俺達は外に出ると、軽く相談した。
「で、どうする肇。捜索は御願いしてみたものの、先行きは見えないしな」
「もう少し情報を収集していこう。このまま帰っても、報告書には不足なんじゃないか?」
「そうだな。宿は3日とってあるんだったな。その間留まるか」
「俺はその間に少し商品を集めるとしよう」
山崎が方針を固めたので、俺もやる事を決めた。
「城戸さんも、偉いさん向けの御土産が必要でしょう。一緒に来てください。あと、川島も駐屯地向けの土産がいるよな」
「そうしてくださると助かりますわ。まったく、あの爺達と来たら。土産なら自分で買いにくればいいのよ」
ははは。それをしないのが爺ってものさ。霞ヶ関の妖怪爺集団の中じゃ、さすがの姐御も子ども扱いだな。
「よっし。掘り出し物を探すぞー」
川島が妙に張り切っていた。
「バネッサ、いい店があったら案内してくれよ」
『よかろう。では街の中心に戻るぞ。王都の方に行けば品揃えはいいが、お前達はあまり行かないほうがいいだろうな』
確かにな。それは言えるかもしれない。
「山崎と青山はついてきてくれ。池田と佐藤は合田の手伝いを頼む」
「あいよ。じゃあこっちの組は頑張ろうぜ」
女性陣の護衛に腕っ節に自信のある組を残し、残りは事務仕事だ。ここでは、車をあまり使用しないので、こういう組み合わせが多くなるかもしれない。
とりあえず、ここまで収拾した映像や、新言語の資料の整理だろう。報告書も書かねばならない。
俺達買い物組は、はしゃぐ女性陣と共に、エブルムを乗り回しながら異世界の町を巡っていった。




