7-6 拠点探し
俺達は、とりあえず代金を支払い、愛鳥に跨ったまま外に出た。ヘルメットは加工して、少し変わった帽子にしか見えないようにしてある。
外で、軽く試運転としゃれこんだ。ラオは面白そうについてくる。さすがに全開走行したらラオはついてこれないだろう。
スタミナが切れるはずだ。魔法でなんとかなるかもしれないが、そこまで無理をするのもな。場合によってはラオの力を借りたい時もあるだろう。
もし連れていくのなら諦めて車を出す。コースターの商用車版、ビッグバンあたりでいけそうだ。猫だから丸くなっていれば居心地いいんじゃないかな。
大きな籠に入れると、中で丸くなるのも確認済みだ。パレットに積むような業務用の大型団ボール箱を与えたら、中にピッチリ収まっていたし。
生あくびして寛ぎまくりだった。問題は、猫に車がどうかだが。自動車が大丈夫な猫もいるしな。いつか試すとしよう。
「山崎、とりあえず安全に移動できるかの確認だ。みんなペアになって脱落者がいないよう相互に見張ってくれ。あとペアが同時に脱落しないか、チーフが他のチームの監視をしてくれ。時折入れ替わって、最後尾でペアごと脱落していないか確認したい。鳥から落ちた場合に怪我は必至だ。早めに回復魔法をかければ助かるからな」
俺は、持ち込んだ通信機のインカムでハンズフリーの通信を試みた。あまり距離が離れると駄目だが、通常はこれで大丈夫だろう。
これが持ち込んだ新兵器の一つだ。今回は、車やヘリを使用しない前提なので、離別した場合の連絡手段を強化した。
他に信号弾や、軍用の背負うタイプの通信機も持っている。緊急集合地点は今のところ、探索者ギルドのみだ。
宿を決めないといけない。直接こいつで乗り付けて、世話をしてもらえる宿に決めよう。どうせなら長期預かりができるところがいい。買った店で頼んでもいいけどな。
俺は宿を物色するために、あたりを見回した。伊達にこの世界を1人で放浪してきたわけではないのだ。大体、宿の具合はわかる。
「アーラ、降ろしてくれ」
アーラはゆっくりと座り込み、俺が降り易いように配慮してくれる。
「へえ、エブルムって賢いのねえ」
ピーちゃんの頭を撫ぜながら、川島が感慨深げに述べた。
「ちょっと、この宿で聞いてみよう。ある程度のランクの宿でないと、エブルムの世話はできないだろう。それに安全面や設備の関係もある」
俺は宿に入ると、受付の人間に声をかけた。茶髪で、やや色っぽい感じの20代後半くらいの女性だ。俺はカウンターに右腕を肘から置いて凭れると、話を切り出した。
「すいません、こちらはエブルムと一緒に泊まれるでしょうか? 全部で8人と8頭なんですが。女性が2人です」
『ええ、大丈夫です。お部屋のランクはどういたしましょうか』
彼女は、俺達をエブルム連れの上客とみたのか、髪をかきあげたりして少し艶かしい感じの対応をしてくれる。まあ、上客なのは間違ってはいない。
「一番いい部屋を4つ御願いします。部屋は風呂付です?」
『かしこまりました。ええ、風呂はついていますよ。何日お泊りでしょうか?』
「えー、とりあえず、3泊で御願いいたします。あと、エブルムにはいい待遇でお願いいたします。なるべく広めのスペースで」
『わかりました。では、そのように。VIPルーム4室8名のエブルムVIP待遇で、金貨18枚になります」
地球で180万円相当か。金の価値の差を考えると、240万円ともいえる。この大所帯だし、あまり変な部屋にするとセキュリティがな。
まだ勝手がわからないのだ。今まででは、一番油断ができない感じだ。そのために、金は多めに用意しておいた。金目の物は山ほど持っているのだし。
「あ、すみません。あと、パイラオンを1匹連れているのですが、置けますか?」
『パ、パイラオンですか!?』
「あ、これ探索者ギルドで発行してくれた従魔証です。エブルムと一緒にしておいてもらえれば問題ないかと」
『わかりました。追加で金貨3枚御願いします。さすがにパイラオンを預かるとなると、それくらい頂きませんと。お客様は貴族関係の方で?』
「いや、探索者ですよ。まあ凄腕なので、たくさん儲けてはいますがね」
『そうですか。酔狂な貴族様以外で、アレをお飼いになられる方は見た事がありませんので』
案内されて部屋に行くと、なかなかのものだった。部屋のドアからして違う。高級そうな雰囲気を放っている。
多分、地球よりは安く止まれている感じがする。これより上の部屋もありそうだが。多分、この宿で2番目のランクくらいではないか。
ここでも例の魔導キーを渡してくれる。クヌードのような安物ではない。キー自体にも凝った意匠が刻み込まれている。何の文様かはわからないが、高級感のある模様だ。
部屋に落ち着くと、会議をする事にした。部屋の中も素晴らしい丁度で、この街としては比較的落ち着く感じがする。これで飯が上手ければ大当たりの宿といっても過言ではない。
「さて。足は手にいれたし、拠点もなんとか構えた。これから、どうしたものかな。ここでは、あまりおおっぴらには行動できない。まず情報収集といきたいところだが」
「探索者ギルドで頼めないのか?」
合田から至極真っ当な質問が出た。
「うーん。微妙だなあ。ここは、国自体が邪神派に対して危機感をそれほど抱いていない。まあ、例えばマルシェ王国は結構邪神派が暴れているが、アレイラではそうでもなかった。パリでテロがあったからって、東京で危険度最大ですぐ警戒するかっていうとな」
「まあ、そうなんだが。ここは割と排他的な感じだって?」
山崎も考える風で訊いてきた。
「ああ、最初からそんな感じだ。まあ、宿の対応なんかは悪くはないだろう? ここは、ダンジョンの街だからまだいいんだろうが。王都へ行ったら、また別だろう。ここの政府に伝を作るのは難しいかもな。その前に怪しい連中だとかいって捕まっちまいそうだ」
「となると、あの鳥に乗って、この街で捜索する感じかい?」
佐藤も移動や逃走について考えているようだ。池田もいざという時の車両の活用について考える風だ。
「まあ、そうなるのかどうか。また情報屋を探すのも有りだが、あのアレイラでさえ信用できる業者は限られている。誰かに紹介してもらわない限り危なくて使えないわ。とにかく1人で考えていても仕方が無いんで、みんなにも来てもらった訳だ」
「そうですか。今までのようにはいかないという事なのですね」
城戸さんも、やや眉間に皺を寄せる感じで言う。
ここを片付けないと、なかなか他のダンジョンへ行く事ができない。政府としては、小さなダンジョンにも行きたいのはやまやまだが、それでは効率が悪過ぎるのだ。
もっと自由に行き来できるのなら、他の政府関係者や護衛の自衛隊を連れてくる事も可能だし、交渉も進むのだろうが。
そもそも、そんな現状ならとっくの昔に米軍が進駐しているだろう。交渉どころでなく、戦争になっていたはずだ。事情は知り尽くしているだけに彼女の苦悩も深い。
「まあ、考えているだけでも仕方が無い。明日、探索者ギルドに行って、その辺も聞いてみるか。前の時は、どうしたものかと思って、あまりそのへんは突っ込んで訊いていないんだ。慎重に進めないと、何かまずい事になったら困ると思ったしな」
「そうか。さっき言っていた情報屋なんか紹介してもらえないかな」
「うん、バネッサは顔が効くみたいだから、彼女を通すとスムーズかも。その前に、それとなくバネッサに相談してみるか。人を探しに来たという事で。あ、でも前に何をしにこの国に来たとか聞かれたから、そういうのもどうかなあ。警戒心は強いみたいなんだよな」
「まあ、時間も押してきた事だし、とりあえず飯にしないか?」
「そうだな。あと、例の設備の試験をしたい」
そう。今回一番の目玉施設なのだ。たっぷりと金はかけたんだぜ。
「明日にしようぜ。あれの起動を確認してから出かけたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。じゃ飯にするか」




