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7-1 熱い見送り

 アレイラで思ってもみない展開になったので、えらい事だった。グニガムに行くのが凄く遅くなってしまったじゃないか。飼い猫に飼い主の顔を忘れられてしまいそうだ。


 ここ数日の慌しさといったらない。やっとグニガムに出かけられるのでホッとした。守山で師団長のところにも顔を出す。


「おはようございます。今日は、やっとグニガムへ行けます」

「おお、鈴木来たか。どうだ、グニガムでは捜索できそうか?」


 師団長は、机の上で手を組み合わせながら訊いてくる。あちこちから色々言われているのだろう。他の人間を応援に出したいのは山々なのだが、元々異世界での部隊運用に無理があるのだ。人員や装備の運搬を民間人の元隊員に頼っている段階で最早駄目だ。


 向こうへ行くための理屈というかシステムが明らかになってしまっているので、お偉方もあまり無理は言えないようだ。


 強引に自衛隊を少しずつ送り込んでも、撤収を自由に行なえないため、現地駐在部隊がいきなり全滅する可能性がある。


 現場の指揮官もいい顔はしないだろう。通信が途絶しているために指示の仰ぎようもないし。


 俺も正直な所、そういうやり方に全く自信はない。駐屯部隊に顔を出したら全滅していたとか平気でありそうだ。


 あちこちあるので頻繁には顔を出せないのだ。現地の現状は知れ渡っているので、上も捜索が困難なのは理解できている。


 煩いのは政治家連中だ。あいつらには、あいつらの事情もあるわけなのだが、すぐに無茶を言うので用心するに越した事はない。いざとなったら城戸さんや中将を通して調整するしかない。


 今まで通り現地政府や探索者の関係に任せた方がまだ目があるだろう。刑事を送り込んでも、二次遭難が起きそうだし。どうにも自衛隊の手が必要となったら相談の案件だ。


「いやあ、わかりませんね。なんか閉鎖的な土地柄らしくて、いま一つパッとしませんが。探索者ギルドには、なんとか伝ができましたけどね」


「そうか。無理はするなよ。この前の事もある」

 俺は頷いて、みんなと整列……しなかった。


 何しろ全員探索者スタイルなので気分が出ない。他の奴は一応上司の手前整列していたが、迷彩服でないと気分が出ないな。駐屯地内では、この格好で違和感ありまくりだ。


「いってきます」

「ああ、気をつけていってこい」


 探索者ご一行様は指令部の建物を下りていき、通りすがりの自衛隊員を一通りギョっとさせてから出発する事とした。


 まだ課業が始まる前なので、誰もいない演習場からヘリで飛び立った。今日は副操縦席に座り離陸から行なって、ゆっくりと操縦させてもらっている。山崎が丁寧に指導しながらの操縦だ。


「なあ、グニガムの次はどうする?」


「そうだなあ。近郊のダンジョンから行くか? 愛知県内にまだ二個所あるんで、調査だけでもしておきたい気もするな」


 俺は慎重に計器や周りに気を使いながら操縦を続ける。


「ビジネスも滞ってるから、そっちもな。アレイラから商品を受け取ってこないといけないんだが、前に救出した佐藤さんを連れていく約束もあったし。帰ったら、次回はアレイラに顔出しをしたいな」


「ああ、それでもいいぞ。元々はお前のビジネスのために組まれた部隊だ。本末転倒なことになっているが」


 アメリカとの関係もある。そっちもやっておかないといけない。俺の超法規的な活動の後押しや某国を抑えてもらうためにも、その辺は考慮しないとマズイ。


 また、大事な金蔓でもあるのだ。俺も定期的に金を掻き集めておかないと、色々金がかかる展開も想定している。


 入用になったからって、政府が1000億円単位で予算を組んでくれるわけではない。いつ何が入用になるかわからないので、俺も必要な物以外の浪費は避けている。


 今回も大金を払って新装備を用意してあるのだ。税金から拠出される政府の金では、そういう事は絶対にできない。


「そもそもお前らを指定したのは、一緒に向こうで遊ぶのが目的だったんだがな。まさか自衛隊を退官して2年も経ってから、お前らと異世界で一緒にドンパチ始める羽目になるなんてな」


「ああ、あの頃にはこんな事になるなんて想像もつかなかったぜ」

 山崎も感慨深そうだ。


「さあ静岡まで一っ飛びだ。気流の厳しい山岳コースは、今日は無しで行こう」


「ああ、無理しないでゆっくり行ってくれ。いつでも操縦は代われるから」


 教習所の先生付きで、俺はヘリを一路静岡まで飛ばした。


 やがて、第15ダンジョンのバフォメットが見えてきた。無事に降下させるとホッとする。俺の成績表である飛行データをバックアップすると、山崎はヘリを収納した。


 そして、米軍地上駐屯地バフォメットで俺達を待ち構えていたのは、当然あの人だ!

「ハジメちゃあ~ん」


 俺がキュリーの熱い抱擁を受け、俺が両の手を宙に彷徨わせながら、両足で踏ん張っているのを仲間に見守られることとなった。


「キュリー、なんでまた。俺達の予定は知らせてないはずだけど」

「あら、ブラックジャックの連中から連絡をもらったわよ?」


 そうだったのかよ。いささかゲンナリしながらも、他の連中を紹介した。

「こいつらが……」


「山崎3等陸曹、彼が指揮官ね。そして、合田3等陸曹が副指揮官。砲手の青山3等陸曹。運転士の佐藤3等陸曹。車長の池田3等陸曹。それと川島3等陸曹ちゃんね。そして、日本ダンジョン対策委員会の書記長、城戸裕子氏」

 やれやれ。まあ、知っていても当然か。


「うわあ、オネエさんだ!」

 いきなりの川島。ちょっと失礼じゃないか。


「こ、これは聞きしに勝る」

「ええっ」

 絶句する合田と城戸さん。まあ、このへんは少し頭が固めだよな。


 池田は面白そうな顔で見ている。佐藤は目をパチパチさせて。青山はキュリーを値踏みしているようだ。主に筋肉を!


「お初にお目にかかります。ホースキン大佐。山崎です」

 ちょっと面白そうな顔で見ていた山崎なのだが。


「まあ。山崎、いや真吾ちゃん。他人行儀ねえ、キュリーと呼んでちょうだい!」

「うわわわわ」


 そして、奴もまた抱きしめ&頬ずりの計に処せられて、目を白黒していた。最後には熱いベーゼをいただいて、魂が半分抜けかかっていた。


 どこかで見たような風景だ。馬鹿だな、山崎。お前は色男なんだから、こういうのは自然の成り行きだよ。


 まだキュリーの衝撃から立ち直れない山崎を引き連れて、俺達はバフォメットを後にした。


「あの大佐、なんだってああなんだろうなあ」

 青山の不思議そうな呟きに合田が答えた。


「ああ、あれも由縁が無い話じゃないらしい。まあ個人情報の話だから、コメントは差し控えさせてもらうが」


 そうだったのか。まあ普通は訳有りでなかったら、駐屯地責任者があんな状態の訳はないよなあ。

「と、とにかく行くぞ」


 山崎が悪夢を振り払うように首を振り振り、号令をかける。グーパーが来てくれてから俺達は車から降りた。


 グーパーは、俺達が徒歩なので「おやまあ、皆様いかがなされたので?」というような顔でこちらを見ていたので、俺は話しかけた。


「ああ、このグニガム行きはとりあえず車を出さない事にしたので、このまま送ってくれ」

「グー」


 奴は丸くなり、その体で俺達を守るような格好で送ってくれた。


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