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6-34 作戦終了

「お怪我はありませんか? 我々は陸上自衛隊の者です。あなた方が拉致された情報を受け、現地政府の協力の元、追跡してまいりました」


 俺は敬礼して、拉致されていた女性達に挨拶した。


「あう、あふう、じ、自衛隊、来てくれたのね、ありがとう。ありがとう」

「た、助かったのね、う、うわあ」


 2人共へなへなと、その場に崩れ落ちた。涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃだ。結構美人なのに、台無しだなと思いつつ。


 いつの間にか、他のメンバーも走ってきて合流してきていた。青山の手には、性能には定評のある7.62ミリ狙撃銃が握られている。


「さ、2人共これで顔を拭いて」


 城戸さんが川島に出させた熱いタオルを、2人に差し出す。それから俺はよく冷えたペットボトルの水を取り出した。


 2人は顔を拭くのもそこそこに水を飲もうとして、指が強張ってうまく蓋が開けられないので城戸さんと川島が開けてやる。2人は貪るように500ccのペットボトルを飲み干した。


「あ、ああ。水が美味しい」

「い、生き返るわあ~」

 俺はお代わりの水を手渡しながら訊いた。


「ご無事で何よりです。日本へ帰還しようと思いますが、その前に少し休憩なさいますか? 丁度、町の前におりますので」


「は、はい。もう、くたくたで。無理矢理引き立てられて、水1滴飲めずに夜中じゅう歩かされました。す、少しだけ休ませてください」


「に、日本に帰れるんですよね」

「はい、大丈夫ですよ。ご無事で何よりです」

 にっこり笑う、山崎のスマイルが爽やかだ。


 二人の手に血の滲む酷い縄の跡があったので、回復魔法で治す。


「うわ、なんですか、これ」

「ふ、不思議ー」


「あはは。そういう魔法なんですよ。他に痛いとことかは?」


「あ、大丈夫です。歩きすぎて、足が痛いですけど」

「明日は筋肉痛かなあ」


「はは、ご自宅でゆっくり休んでください」

 騎士団が賊をひったてて現れたので2人がぎょっとしたが、説明してあげた。


「ああ。こちらは、エルスカイム王国は王太子エルリオット殿下の騎士団ですよ。あなた方の捜索を行なっていただいていました。おかげですぐ我々も追いつけたのですよ。ヨナサン隊長、ハッサーノ副隊長、お初にお目にかかります。私が鈴木です」


 ヨナサン隊長は細身の体型や顔付きだが、筋骨隆々といった感じで、いかつい顔に立派な口髭を生やし、鋭い眼光を持ったいかにも強面という感じだ。


 ハッサーノ副隊長は全身これ筋肉といった感じで、キュリーといい勝負なんじゃと思うほどだ。膨らんだ頬の肉が、いかつさを和らげる役割を果たしている。


 残りの騎士達も精鋭揃いといった感じだ。2人は左手を足の付け根につけ、右手を曲げて掌を左肩に当てて頭を下げた。


 これが、この世界での「武器を向けるつもりはない、武器は握っておりませんよ」の挨拶らしい。大変立派な所作であった。


 こちらは全員ピシっと敬礼で答えた。2人の女の子も真似ようとしたが、ペットボトルを持ったままだったので、おでこに当たってしまった。


「きゃっ」

「ちべた!」

 軽い笑い声を残して挨拶は終わった。俺達は街を目指すことにした。


『さて、どのようにしてまいりますかな。こいつらを連れていかないといけないし、人質の方はだいぶお疲れのようですが』


「ああ、それなら、これで参りますので」

 俺の言葉を受けて、佐藤がマイクロバスを出した。


「わあ、マイクロバスだあ」

「でも、どこから出したの~」

 女の子達から歓声が上がった。


 夜っぴいて、荒野を連れまわされたんだからな。城戸さんと川島に促されて2人は、マイクロバスへと乗り込んでいく。


『ほほお、これはまた。収納ですか、素晴らしいですな』

『それに、この馬車……ですか? 立派なものだ。して、馬はどちらに?』


「ああ、これは馬無しで走りますので。そして犯人は移動中、この中に入れておきましょう」

 そう言って俺は、ハンヴィー用の武器搬入用の鋼鉄のトレーラーを取り出した。


 下手人の3人は、両手両足を手錠で封印した上で、鎮静剤を打ちトレーラーに封印した。これはバスの後ろに連結できるようにしてある。かなり機密性が高い代物だが、少しの間なら酸素は充分持つはずだ。


「よし。作戦終了」

 指揮官の山崎から、任務が無事終了した事を示す号令がかかった。20名の騎士団は、軽やかに馬を走らせて、その後をマイクロバスでついていった。


「うわあ、バスだ。快適ー」

「エアコンだー、超久し振り~」

 2人は、川島が出したパンとジュースを堪能しながら景色を眺める余裕さえあった。


 この2人は須藤麻紀さんと杉本萌さんで、リストにあった残り女性不明者3人のうちの2人だった。騎士団が門を開けてくれたのでバスも続いて入っていくが、少し騒動があった。


「待ってー、そのバス待ってー!」

 なんと、日本語で叫びながら走ってくる女性がいた。


「と、止まれ佐藤」

「お、おう」

 俺達が想定外に止まったので、騎士団も手綱を緩め馬を止めた。


 町の中に入ったので、徐行していたのが幸いだった。走ってきた女性は、膝に手をついて肩で息をしている。


 俺はバスを降りていき、ペットボトルの水を差し出しながら尋ねた。

「あのう、あなたは日本の方ですか?」


「う、うん。み、水」

 今日は、こんなのばっかりだな。


「うっわあ、ペットボトルだ。つっめた!」


 ゴクゴクと水を飲み下すと、何か溜め込んだものを吐き出すかのように、首を振ってロングヘアーを靡かせた。


「ね、ねえ。自衛隊さんなの? もしかして、お迎え? さっき、ヘリが見えたからさ」

「ははは。そうでしたか。そうです、自衛隊のお迎えですよ。あの、お名前をお聞きしても?」


「あ、近藤沙紀、16歳でーす」

 大人びて見えたが、まだ高校生だったらしい。


 通りで落ち着かないわけだ。確かに、残り1名の女性行方不明者の名前だ。やったぜ、アレイラの女性はこれで全員クリヤした。


「えーと、高校生ですよね?」

「うーうん、中退してバイトしてたら、何故かこんな事に」


「そ、そうでしたか。あの、こちらでは何を?」

「住み込みのバイトー」

 ノリ軽いなー。


「あの……帰りますよね?」

 頼むから駄々捏ねないでくれよ。


「バカねー。当たり前じゃない。ここってさ、スマホ通じないのよ」


 軽っ! この子の脳みそ、うちの妹並みに軽いぞ。この子も顔は凄く可愛いんだけどな。ふと振り向くと、苦笑しているメンバー達がいた。



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