6-32 魔道具
俺達は、僅か15分で第5ダンジョンの米軍代表駐屯地へと降り立った。その玄関口では、まだ7時半だというのにエバートソン中将自らがお出迎えだった。
俺達がヘリを降ろすと、近寄ってきて声をかけてくれる。
「レポートは読んだよ。なかなか大変な事になっているな」
「え、ええ。自衛隊を大量投入したいところですが、さすがにそこまでの異世界移動は困難でしょう。少々の自衛隊員を投入しても、不慣れな現地で充分な活動ができるとは思いません。むしろ足手まといになります。少数精鋭で、現地の政府筋と協力して事に当たるとします」
「そうだな。頑張ってきたまえ」
激励のために、わざわざ早朝に来て待ってくれていたのだろう。
「ええ、ありがとうございます。申し訳ないのですが、ビジネスはこの任務が終了した時にお願いいたします。アレイラでは、取引物品は預けておきましたので。グラヴァスの分は、その時に一緒にお願いいたします。どの道、時間をかければ我々の負けとなります」
俺達は敬礼して、見送り感謝の気持ちを表した。ランドクルーザーに乗り込み、俺達8名はアレイラを目指した。
気負っていたせいなのか、今日は初めて見るような魔物がきた。体高4mほどか。頭に大きな葉っぱが2枚分かれるように映えており、体中に鱗のように生えた葉っぱが覆っている。
木の枝のような腕が何本も生えており、そこからピュルっと蔓が延びたかと思うと、それに絡められるような感じで異世界へ放られた。
「うわ、ちょっとドキドキしたよ」
「肇、少し力抜けよ」
川島に続き、助手席から振り返った池田が笑って声をかけてくる。
「あ、ああ。ちょっとドッキリしたぜ」
なんか雰囲気がいつもと違うんで、敵性魔物が出たのかと思ったぜ。
とっとと大広間を抜けてアレイラ王宮へと向かう。ここでは、さすがにヘリの王宮への着陸許可は出ていない。
ヘリは、ここでは見せていないし。今日も、門兵がすぐに案内してくれた。王子様のプライベートルームで、情報のやり取りをする。
「あれから、何か情報は?」
「アレイラを出て、街道を北方面に向かったという報告を受けている。おそらくは近郊の大都市ベニュラを目指すのだろう。追跡をかわすために、どこかに身を隠しているかもしれないな。追加の情報は、入り次第に渡そう」
「俺達も出てしまうが、連絡はどうやって?」
ジェイクは、懐から何か道具のような物を出した。
緩やかなT字をした道具だ。金属性でズッシリと重い。丸みを帯びたデザインで、色々突起物のような物が付いているが、どう操作するのかわからない。
「それは、遠くにいる者と会話をする魔道具だ」
なんと、携帯かよ! 性能が気になるな。まずは、距離だ。
「それは声を届けるだけか?」
「それは、どういう意味だ?」
首を捻っているので、画像を送ったり、ネット的な機能をしたりとかはなさそうだ。俺は自分の携帯を見せて、ネットから落としてた映像を見せた。イヤホンもつけてやった。
「これは凄いな。俺にも一つくれよ」
「でも、ここでは通話は出来ないぜ? 支援のためのシステムが必要だ。まあ音楽や映像を見たりする事はできる。中身は入れ替えられるよ。充電は太陽電池で出来ると思うがな。あと衝撃には非常に弱い」
クワガタに咥えられても破壊されるくらいだからな。ジェイクは携帯を矯めつ眇めつ見ながら、返して寄越した。
『その通信の魔道具は、かなり遠くまでは届くが、隣国とかまでは無理だな。使うのに魔力が必要だ。魔力が切れると使えないが、大丈夫そうか?』
「多分、大丈夫だ。魔力量は豊富にあるはずだ」
『では使い方を教えよう。こっちが起動するためのツマミで、通信が届いたらこれを押す。これが音の大きさを調整するツマミだ。相手は登録してある機械ならば通じる。お前の機械は13番だな。私のものは5番、追跡している騎士のリーダーは21番と、副リーダーが22番だ。向こうには連絡は入れておいた。連絡があった場合、機械の持ち主には魔法の信号が届きわかるようになっている』
基本的に、着信音でバレてはマズイ人間が使うものなんだな。密偵とかもいるのか?
とりあえず、目の前の男に向かってかけてみる。えーと、5番5番と。
あ、なんとなく微量な魔力が吸われる感覚がある。ジェイクは自分の魔道具通信機を取り出し、ツマミに触れて応対した。
『アボーイ』
どうしました? くらいの意味らしい。もちろん、この国の言葉でだ。
『アボーイ』
俺も答えながら、音量ツマミを調節する。そして、少し離れて「念話」を試した。
「俺の喋っている日本語がわかるか、ジェイク」
『ああ、わかるぞ。念話での会話も可能だから、安心しろ』
「それは助かる。そうでないと、騎士達と話せないからな」
後は、これが複製できないだろうか。たとえ複製できても【13番】ばかり出来てしまうと、ちゃんと通話できないのだろうが。
やってみたが複製できない。材料が足りないようだ。手持ちに無いものなので、何が足りないのかよくわからない。
おっといけねえ、新品になっちまった。多分大丈夫だろう。スマホなんかと違って、データが入っているわけではないだろうし。
立ち上がったジェイクは、膝まであるトーガのような服装だ。腰のところでベルトで止め、足首まである薄いズボンに、高級そうなサンダルといった装いだ。
優雅な立ち居振る舞いで俺を招くと、騎士達と連絡を取るように促した。
『彼らの名前は、隊長がヨナサン、副隊長がハッサーノだ』
俺はダイヤルを21番に合わせて、交信ツマミをいじる。繋がった感覚が伝わってくる。
「アボーイ。聞こえますか、隊長さん。こちらは5番のスズキです」
『アボーイ。聞こえます。お話は殿下より伺っております。現在、アレイラ北端より北へ20アス移動した地点です。魔法で探査したところ、このあたりにいるはずなのですが。こちらへ来られますか?』
俺は少し考えて答える。
「大きな音を立ててはマズイでしょうか?」
『いや、むしろ潜んでいた奴らが動き出すかもしれませんが、何故そのような事を?』
「早急にそちらへ行こうと思えば、大きな音を立てざるを得ないので」
『それはまた』
彼らは困惑を隠せないようだった。
「バラバラバラというような、訊きなれない大きな音が空から聞こえたら、それが我々の乗り物です」
『よくわかりませんが、お待ちしております』




