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6-27 生贄の胸間

 一応、女性にも聞いてみたが、持っている人はいなさそうだ。2人共というか、特に年少の10代の方の女性も落ち着いたようだ。「お母さん付き」だからな。姐御の意外なスキルに驚きだぜ。


「それでは、これから日本に帰還いたしましょう」

 俺はにこやかに、皆さんに告げた。


「おい、肇。正さんのとこはどうする? それとグラヴァスとマルシェは」


「今日、とんぼ帰りでマサへ。そして朝、グラヴァスへと向かう。もしかすると向こうにも日本人がいないとは限らん。先にこっちから回ろう」

「わかった。予定1日ずらしだな」


 2人の女性は寄り添うようにしていて、10代の女の子の隣に城戸さんがつき、彼女は城戸さんにしがみ付くようにしていた。反対側から川島がサポートに入る。城戸さんがいてくれて良かったな。川島1人じゃ手に余る。


「スクード、ありがとう。助かったぜ」

『ああ。肇、ちょっとこっちへ』

 俺はスクードに手招きされて、別室へ赴いた。ちょっと嫌な予感がする。


「なんだい?」

『あの女性には、しっかりケアをしておけ。彼女は生贄にされる寸前に、探索者ギルドの捜索メンバーにより救出された』

 な、何~。


『半裸で鎖に繋がれ、もう生贄の仕度が整っていた。生贄にされる事もわざわざ念話で伝えられていたようだ。彼女の絶望は理解できるだろう? そちらの世界では、そういう目に遭う事など滅多には無いだろうからな』


 実は地球でも無い事はないんだが、日本で遭うのは確かに珍しいかもな。救出の際にやり合った戦闘も見たわけだ。トラウマものだろう。


「そうか、ありがとう。もう1人の方は?」

『あちらは普通に市中で保護した。生贄だから、性的な暴行を受けたりはしていないはずだが、物凄く怯えている。男性と同じにしておけないので、あの通りだ。日本人女性がいてくれて良かったぞ』


 なんてこった。だが感謝だ。彼女は生きて日本に帰れる。

 俺は部屋に戻ると、務めて明るい声で笑いかけた。


「さあ、皆さん参りましょう。シャワートイレのある日本へ!」

 他の連中には気付かれているだろう。


 スクードに連れていかれた後で、こんな芝居じみた喋り方をしているんだからな。あの女性の怯えようを見たら察しはつく。


「じゃあ、出発しましょうかあ」

 察した川島も務めて明るい声で皆を促した。


 そして、探索者ギルドの中を、如何にも無関係とわかる日本人の団体がゾロゾロと歩いていった。ちょっと異様な雰囲気だったが、少し注目を浴びただけで済んだ。


 これまでも日本人が集められてきていたので、今更だろう。ただ、俺達みたいな雰囲気でなく一般の人なので不思議がっているような感じだ。俺達は、探索者の中に入ってもそう違和感はない。服装は違和感ありまくりだが。


 表に出ると、佐藤がコースターを出したので客達から大きな歓声が上がった。


「マイクロバスだ」

「コースターだよ、トヨタだ」

「はあ、なんか日本って感じがする」

「さあ、帰ろうか」


 皆、コースターを見て、一気に里心がついたようだ。

 外国人が、トヨタの車を指して「畳が敷いてあるのかと思うくらい日本的」と称する事はあるが、確かにこんな時には落ち着くかもしれないな。


 女性達も日本で見慣れたマイクロバスに少し心が休まったようだった。本当に帰れるという実感が沸いてきたのだろう。


「さあさ、レディーファーストで!」

 男性達も、ただならぬ女性たちの様子に気を使っているようだ。


 すでに池田と佐藤は乗り込んでエンジンをかけている。城戸さんが付き添って、若い女性を乗せる。川島も同年代の女性に同伴する。


 続いて男性達が次々と乗り込んで、総勢15名を乗せたコースターはゆっくりとその車体を異世界の大地に滑らせた。


 バスは軽やかに石畳を駆け抜けて、ほどなくダンジョンの入り口へと向かった。他の探索者もいるので、最徐行だ。


 門を抜ける際には、青山と合田が下りて誘導する。ここは大きいダンジョンなので、バスが通っても問題がない。


 今日の警備隊長はアランでないので、俺も降りて挨拶をする。

「やあ、お疲れ様です。これから帰りますので」


『そうか。お仲間が見つかったそうだな。良かったことだ』

『ダーシャ』


 ありがとうの意味だ。ダーシャベーンで、「どうもありがとう」とかになる。

 そのまま、ダンジョンの大広間に入り、試しにここで魔物を呼んでみることにする。俺達も乗り込んでから、乗客に話しかける。


「皆さん。これから日本を目指すわけですが、実は魔物に送り迎えしてもらってましてね。そうしないと行き来できないんですよ。大型車並みの奴を呼びますので、びっくりしないでくださいね」


「ええーっ」

「なんですか、そりゃあ」

「はあ!?」

 まあそう思うわね、普通は。


「じゃあ、呼びますねー。マダラー」

 マダラがポンっと車の横に現れて、乗客がどよめいた。


「ま、魔物だ」

「本当に魔物が現れたぞ」


 そして、2本足で立ち上がり、マダラは踊った。前足で手を叩き合わせ、ホッて感じに両手を体ごと左へ盆踊りのように流し、そしてハアって感じで今度は逆に向けた。


 次に回りながら、えらやっちゃ、えらやっちゃという感じで踊りまくると、踊るようにコースターを押してくれた。


 川島はリズムを取って体を揺らしていた。一緒に踊りたかったのに違いない。さすがに仕事中なので自粛したようだったが。ポカンとする乗客の表情と、呆れたような顔の大広間の探索者達を置き去りにして。


 気がつくと、第21ダンジョンの出口付近にコースターはいた。あの怯えていた少女もキョトンとした顔で呆けていた。


「皆さん~、第21ダンジョンに戻ってまいりました~。これから、当バスは自衛隊守山駐屯地へ向かいまーす。で、いいよね? 城戸さん」


「ええ、とりあえず私もあそこにいますので、やってちょうだい」

「じゃ、佐藤。頼んだ」


「あいよ」

 城戸さんが警察に電話しているようだ。女性警察官の派遣を要請している。捜索願が出ているので、色々事情聴取などもあるようだ。


「鈴木さん、また向こうに戻るんですよね」

「ああ、一応。マサへの補給と、他都市へと参りますので」

 とりあえず、今回は確認だけしておかないと、しばらく行きそこないそうだ。後がつかえている。


「じゃあ、私はこの子についていますから残ります。川島さんは行ってくださいね」

 少女を軽く抱きしめながら、城戸さんが宣言する。少女も俯きながら、そっと「お母さん」に寄り添った。


「わかりました。川島もそれでいいなー」

「おっけー」

 マイクロバスは名2環へと入り、守山を目指していった。


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