6-25 久し振りの異世界
翌日、俺はアリサとその友人を連れて、名古屋空港へと向かった。やっぱり、また船で遊びたいらしい。よく飽きないもんだ。
ああいうのは、たまに行くからいいのであって、いずっぱりにするようなものじゃない。クルーに交替で休暇も与えないといけないのだ。
キャプテンには、こういうような場合に休暇を取るときは、遠慮なくチャーターヘリを使っていいと言ってある。うちの機体は、主に俺の活動専用だ。使える時には使ってもらうが、緊急で使いたい時もあるからな。
空港のヘリ運行会社の駐車場につけて、事務所へ顔を出す。
「じゃあ、神野さん。宜しくお願いします。帰りは、守山までお願いします」
「わかりました」
女の子達が、きゃあきゃあ言いながらヘリに乗り込んでいく。
華やかな風景と言えない事もないが、妹とその友達だからなあ。小さい頃から知っている妹同然のような子もいるし、そんな気分に全くなれない。
後ろの席は満員なので、俺は副操縦席へ座る。
「亜理紗から連絡があったら、すいません。迎えに行って空港まで送ってやってください。多分船が戻るまで、あいつの場合は帰ってこない気もしますが」
「わかりました。また異世界へ行かれるのですね」
「そうです。日本人の捜索を頼んでおいた所では、定期的に見て回らないといけないし、静岡の方はこれからですからね」
それから港に停泊中のダッタブーダのヘリデッキに、着陸すると乗客を降ろした。出迎えのキャプテンに、挨拶をして出発する。船の方も、処理が必要な排水を引き取らせたり、水や食料などを積み込んだり、充分な補給を済ませたようだ。
「また、異世界へ行かれるのですな。どうか御武運を」
「ありがとう、キャプテン。明日明後日と日帰りで、明後日からは、帰りがいつになるのかなといった按配です」
退役軍人の立派な挙手に送られて、俺は守山へ目指すことになった。いつもの如く演習場に着陸すると、さっさと指令部へと目指す。
もう全員迷彩服姿で指令部に揃っていて、俺もヘリの中で迷彩服に着替え終わっていた。
「よお、久し振り~」
俺は皆の衆に挨拶をくれて、列に加わった。
「よおっす」
「元気してたか~」
「おお、来たか、鈴木。今日はクヌードへ行くのだな」
師団長の挨拶に俺も含みを持たせておいた。
「そうです。出来れば、他のラプシア王国の都市も回ってきたいのですが、早めに第15ダンジョンの方にも顔を出したいので。猫も預けてありますので」
「ん? おう、そうなのか」
その会話を、合田が少し聞きとがめた様子だったが、俺はいたずらっぽい光を目に湛えて唇に指を当てた。奴も軽く首を竦めて、見逃がしてくれた。
「それでは行ってきますね」
俺達は演習場に集まって、山崎がヘリを出した。
「山崎、先に第5の駐屯地へ向かってくれ。中将にグニガムで手に入れたサンプルを渡しておきたいんだ」
「あいよ」
ヘリは一気に、千葉県は房総半島の先を目指した。ここでは魔物は出ないだろうから、当然俺が副操縦席だ。
「なあ、これ以上メンバー増えたらどうする?」
「そうだなあ。大型機に機種を変更するのが現実的だが。パイロットを呼んで2機にするのもいいが、お前の魔法の支援が無いと向こうでは命取りになる。これ以上は人員交替をしないといけなくなる」
「そいつは願い下げだな。政府の人間はもう1人連れてきているんだ。これ以上の妥協はありえないよ」
第5ダンジョンへ到着して、さっそくエバートソン准将を呼び出した。
「おお、今回は初物の迷宮宝石か。お、ミスリルもあるな。これは嬉しい。あと第5ダンジョンで取引用の物品を仕入れてくれるとありがたいな」
こういった物品を売買した手数料でミスリルの代金を浮かすのも、彼の仕事のうちだ。
それから、第21ダンジョンに向かった。入り口手前のスペースに、そのまま着陸してランクルに乗り込み出発する。
「久し振りだなあ、クヌード」
「おう、まずはチビどものところでいいんだよな」
「おお、頼むわ」
佐藤は慣れた感じで車を徐行で大広間へと進める。他の探索者もいたが、誰も気にも留めない。
「おっす、アラン」
『お、久し振りじゃないか鈴木。どうしていたんだい』
「俺だって暇じゃないんだよ。遊んでばっかりいられるか。こっちは特に変わりはないか?」
『ああ、そう変わった事はないな。そうそう。スクードに、お前が来ていないか何度も聞かれたぞ。何か用事があるんじゃないか? 後でギルドに顔を出せよ』
「そうか、そうするわ。正さんとこに、ビールも届けないといかんからな」
マサかあ、後で行ってこないとな。
「今夜は、こっちに泊まって、マサで騒がないか?」
「そうだな、それも悪くない」
「賛成~、久し振りだしねー」
他の連中も概ね賛成だ。城戸さんも、もうお堅い事は言わないつもりのようだ。
「いいだろ、山崎隊長」
「ん? まあ、そうだなあ」
師団長に「日帰り」と言ってしまったので、本当はよくないのだが。そこはそれ。
「まあ、そうしてもいいか。ちょっと迷宮に寄っていってもいいかもしれないな。ウルボスがいたら、是非狩りたい」
そう、金はあるので無理に狩る必要は無いのだが、あの子達の大好物だからなあ。
久し振りに解体場へと顔を出した。御馴染みのエンジン音に一斉に飛び出してくる子供達。
「お兄ちゃあん」
「お兄ちゃんだ」
「お兄ちゃん~」
見事なまでの、お兄ちゃんコールの嵐だ。もう、俺の名を呼ぶ奴らなど1人もいない有様だ。
むしゃぶりついてくるチビ達の群を、山崎の懐っこい笑顔が受け止める。まあ、子供達が元気で良かった。
この前、変な奴等が来ていたんで少し心配だったのだが。探索者ギルドに目を付けられたので、ここは連中も諦めただろう。そもそも、この土地建物も本来はギルド所有の物件なのだが。




