6-24 お迎え
「そうですね。今日は所用があって、伊勢湾を航行中のこの船に、ヘリコプターで船に乗り付けました。丁度、空港島の横手あたりですか。時間は1時間半くらい前ではないですかね」
20歳近くにもなって小学生みたいに遊びまくってて、家に帰ってこない妹を迎えにね。
「上に止まっている機体ですか?」
警官は立ち上がり、パラソルの外からヘリを仰ぎ見た。
「その通りです」
「それから?」
「ええ、そうしたら、漂流中の子供の気配を感じたものですから」
「は?」
警官は素っ頓狂な声を出した。まあ、わからんでもないが。
「ああ、私は鈴木肇です。知りませんか? 異世界へ行く元自衛官の。この船は、異世界の王族貴族と、この地球にいる大富豪達との取引で稼いだお金で買ったものです」
「は、はあ、あなたが……」
「私には、そういう力がありますので」
「な、なるほど」
相手は、その事実を受け入れるのに必死なようだ。まあ、この船がある意味、その証みたいなものだけれど。
「それで、発見したのはいいのですが、運悪くそこに大きなホオジロザメが現れましてね。それで、子供達のビニールボートがひっくり返ってしまいまして。仕方が無いので私、ヘリから飛び降りて魔法で鮫を退治しました」
警官は眉の間を、手で何度も揉んでいた。ああっ、相変わらず、俺は説明がへただなあ。
よし、実物を見せようじゃないか。
「ちょっと、こちらへどうぞ」
俺はデッキの開いた場所に、でかいブルーシートを2枚敷いて、ズドンとホオジロ君を出した。
「うわああ」
いきなり、でかい鮫をドンっと出されて、警官も大きな声を出した。
「どうです、脂が乗っているでしょう。この脳天に魔法の矢を打ち込みましてね。1撃で仕留めましたよ。じゃあ、痛むといけないので、仕舞っておきますねえ」
「そ、そうですね」
もう半分話についてこれなくなっているみたいだが、構わず鮫をアイテムボックスに仕舞い込む。警官も、のろのろとテーブルに戻り、話に戻った。
「それから、子供達を救助して、アイテムボックスから取り出したゴムボートに乗せまして。クルーがボートで救援に来てくれましたので船に戻りました。この船も、進行方向でしたので、すぐに追いつきましたし」
「えーと、わかりました。では、事情徴収はこれで終了です。お疲れ様でした」
本当にわかっただろうか? まあ、別にそう大事な事ではないのでいいか。
そして今丁度、港に車を飛ばしてきた人がいる。多分、あの子達の親だろう。港の係の人と、もう1人の警官が埠頭の入り口でやり取りをして、埠頭の中へ車ごと通されている。
さらに豪華客船やスーパーヨットは関係者以外が通れないように、乗船口には立ち入り禁止区域が設けられている。これも、面積によって、ちゃんと費用が徴収される。
警官がパトカーで先導してきているので、警備の人もそのまま通してくれる。
「あ、あのう、うちの子達は、どこに」
「ああ、船内の部屋で休んでいますよ。中川由貴ちゃんと中川麻衣ちゃんで間違いないですね?」
「はい、はい。うちの子です。あ、あの、本当にありがとうございました」
必死に頭を下げて礼を言ってくれるご両親に、俺は見事な敬礼でそれに答えると、彼らを船内に案内した。
「タラップは急ですから、御気をつけて」
少し気もそぞろのようだから、一応は声をかけておく。
メインデッキの後部から、透明ガラスの壁に設けられた自動ドアをくぐって、船内に入る。優雅なサロンとダイニングを通り、船内の階段へと案内する。初めて目にするスーパーヨットの豪華過ぎるインテリアに、ご両親も思わず周りを見渡していた。
デラックスルームへと入り、ベッドルームに行くと、付き添いのインテリアスタッフ以外に、妹と友人が数名付き添ってくれていた。
「あ、お母さん!」
スタッフや女の子達の気配りで、子供達はもうかなり元気を取り戻していた。
「ああ、由貴ちゃん、麻衣ちゃん。よかった、本当によかった」
「お母さ~ん」
「おかあさんー」
母親に抱きしめられて、また2人はまた泣きじゃくっていた。いやはや、亜理紗のやる阿呆な事が、こんな形で人様のお役に立つとはなあ!
両親と一緒に帰っていく子供達を見送りながら、亜理紗に言った。
「というわけで、お前も一回母親に顔を見せに来い」
「はーい。明日からまた遊びに来てもいいでしょ」
「いや、お前って一旦気に入ると、本当に飽きないよな」
子供にはありがちな事で、小さい頃から妙にお気に入りになったものには拘りまくるタイプだったけど。この年になっても治ってないもんだな。
「いや、それはいいけど。他の子も、1回おうちに帰ってねー。また来てもいいから」
「はーい」
「しょうがないなー、1回帰ろうか」
「また来ようねー」
まだ名残惜しそうな妹を引き連れて、俺はヘリと共に蒼穹の住人となった。うちの近所の子も一緒だ。他の子は地下鉄バス1日券を渡して、地下鉄から帰させた。
それにしても、水着の女の子で一杯だったな、主不在の超豪華クルーザーが。これが本来なら、夏という季節の醍醐味といえなくもない。
だが、俺は明日から、また異世界に行くのだ。まあいいか、明日はまた解体場のチビ達や、アンリさんに会えるのだから。久し振りにアニーさんの素敵な狐耳を拝みたいなー。
俺は県営名古屋空港から、車を出して我が家へと向かった。近所の子達を送って行きながら、帰路につく。
もう、うちの家族はアイテムボックスの能力は当たり前のように受け止めている。いきなり、血塗れのホオジロザメを出したりとかされなければ。




