表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/232

6-17 食後のパイラオン

 俺は、宝石店からそう離れていないあたりにある、大通りに面した横丁に店を構えた食い物屋に入った。お洒落な感じの店構えが少し気に入った。


 ここの街の作りは、サイズ的にはグラヴァスあたりとそう変わらない。アレイラのスケールが、少しおかしいのだ。デザインが少し凝っているだけだ。


「やあ、こんにちは。今日のお勧めはなんだい?」

『それなら、この本日のセットでどうだい?』

 おお、日替わりランチあるのか。そいつに決めた。


「じゃ、それを一つくれ」

『はいよ。前金で銀貨1枚だ。飲み物も付くよ』


 俺は頷いて、銀貨を手渡した。店主は陶器と思われる器に、果実水を入れてくれた。

「お、冷たい!」

「はは。いいでしょう。私の魔法ですよ」


 店主は少し自慢そうに、そのややいかつい顔立ちで微笑んだ。さては、元探索者だな。飲み物を冷やすような魔道具は案外と高くて、こんな店では普通は置いていない。


 水も魔法で出しているのかもしれない。何かこう、無性に美味い。羨ましい。俺は水を作る魔法は持ち合わせていないからな。いいな、この店は覚えておこう。


 やがて、出てきた食事も絶品だった。柔らかいパン! どうやら良い小麦から発酵させて作っている感じだ。この世界では、なかなかお眼にかかれない。さすがに王城とかでは、そういうものが出てくるが。これで、この値段で出せるとは。やるな、店主!


 シチューもなかなかだ。この蕩けるような肉は美味い。まだ食った事が無いな。この値段ならば、そう高い肉じゃないんだろう。店主が調理の腕で実現しているのだ。薄切り肉も美味いわ。もう、あっというまにペロリと平らげてしまった。


 俺は、この界隈にある街中の広場みたいなところで休憩する事にした。なんか、木製のお洒落なベンチが置いてあった。


 普通に地球の外国みたいな感じだな。この街は、異世界風味なところと、そういう部分が嫌味でなくミキシングされている感じだ。個人的には、かなり好感が持てる。


 街中なので、そう広くはないが、圧迫感を受けるほど狭くはない。下は土ではなくて、石畳になっている。ここは、少し黒っぽい石を使って、道とは差別が図られている。


 うっかり寝こけてしまった。ハッと気がついたら、30分が経っていた。異世界の初めて訪れる街で無用心な事だ。いかんな、警戒心が足りないぞ。


 俺は、んーっと伸びをして、ダンジョンまで歩こうとした、まさにその時。入り口付近のベンチに座っていたので、そのすぐ近くにある石造りの建物を構成する壁をぶち破って、何かが飛び出してきた。石の破片や構造材を撒き散らしながら。まだ体が寝ていたので、一瞬反応が遅れてしまった。


『伏せろ!』

 誰かの声が響いた。だが、俺は少し違う反応を示してしまった。何故だかわからない。寝起きのせいなのかもしれない。


 そいつが俺の右手の方向から突っ込んで来た時、その猛々しい咆哮を上げている奴に向き直り、石畳の上で思いっきり踏ん張って、その鼻面にカウンターパンチを強烈に食らわした。


 結構もふっとしたぜ。体長約4mはあるのではないかと思われるそいつ、黄色を基調とした派手な色合いの4足獣の魔物らしきモノは、もんどりうって転がっていった。あれま!


 目の前には、唖然とした様子のイエローダイヤモンドの髪をした女が唖然とした表情で突っ立っていた。

「なんだ~?」


 俺は思わず間抜けな台詞を呟いてしまったが、奴はムクリっと起き上がってきた。そして、そいつは迷わず逃走した。勝負付けは済んでいたようだ。


『あーーっ』

 なんなんだよ。さて、迷宮行くか。物騒なものを飼ってるんだな、この女。首輪くらい付けておけよな。


『待てっ! お前のせいだぞ。責任を取れっ』

無茶を言う奴だな。


「何の話だ。俺は向かってきた、あいつを撲り倒しただけだが」

『ふざけるな。どういう神経していやがるんだ。あの獰猛なパイラオンを撲り倒すなんて。とにかく、あれを街に放つなんて絶対に駄目だ』


 そんな事は俺の知った事じゃないぞ。無視して歩き出そうとしたが、そいつに手を引っ掴まれた。うわ、また面倒な事を。


 そして、俺は奴の手を振り払い、ファストの重ねがけをして早歩きで立ち去ったが、奴も同じ真似をして追いついてきた。


 ぐぬぬ、このストーカー女め。かつてない、しつこさだな。俺はその状態で走り出したが、奴も走り出す。うわ、足速いな、こいつ。元陸上部か何かか?


 構わずに突っ走る俺。そのスピードは軽く時速120kmを越えただろう。これでも、まだ控えめなほうだ。あまり無闇な事をすると、足元の石畳が砕ける。


そして、さっきのあいつにあっさりと追いついてしまう。俺は勢いで、そのまま奴に飛び乗ってしまった。

「うおおお!?」


 俺も驚いたが、後ろから飛び乗られて更に驚いたそいつは、勢いを増して走りだした。

『おい、ちょっと待て、お前~』


 だが、奴あの女は息を切らし、立ち止まった。やったぜ。しかし、こいつはどうしたらいいんだ。俺は困惑したが、奴がリズムよく疾走しているため、降りるに降りられない。


 石畳の目が凄まじく走っている。人々が逃げ惑う中、どうしたものか非常に困っていたが、やがて魔物は速度を緩めて、走るのをやめて歩き出し、ついには立ち止まった。


 そして、首をこちらへ向けて不満そうに俺を見る。

 まるで、「降りろ」と言っているかのようだ。


 むう、こっちだって好きで乗ったんじゃないわい。俺はスルリっと右足から滑るように降り立った。


 なんというか、巨大なトラのようでもある。顔は猫よりは少し長い感じだが、やはり猫科だろうな。耳は尖っていて格好がいい。爪は物凄いし、牙も猫科の猛獣の比ではない。


 もふもふで、乗り心地は悪くはなかった。毛並みもなかなかだ。全身の模様が、まるでマダラだ。あいつは毒蜘蛛みたいに派手だからな。


 いや、こいつの場合それよりも、もっと激しい彩色か。真っ赤な瞳と、サイケデリックな、まるでオウムのような鬣っぽい感じの冠毛。この街の色合いには合っている気がせんでもない。


 こうしてみると、結構可愛いな。思わず、その美しいフォルムに見惚れてしまった。狼じゃないから、長時間走るのはどうなんだろう。実際に足が止まってしまったし。そして、あの女が追いついてきた。


『こいつめー。魔物に乗って逃げるとは、なんて奴だ』

「別に逃げちゃおらんが。なあ?」


 俺に話を振られて、こいつも困ったとみえて、軽くグルと唸り声を上げて、のそっと俺の後ろに隠れた。いや、隠れ切れてはいないわけだが。背中に当たる鼻息がなんだかな。


 俺は、そいつの頭をもふってやり、喉をさすってやった。奴は目を細めて、俺の手をペロッと舐めた。

 あ、何か懐いた。


新作です。

https://ncode.syosetu.com/n9336el/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ