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6-16 両替

 探索者ではなさそうな、ギルドの職員さんらしき人が立っていたので、呼び止めて訊ねてみた。

「ここで両替はしてもらえるのでしょうか?」


『ああ、そこの一番左に並んでくれ』

「ありがとうございます」


『馬鹿丁寧な奴だな。どこから流れて来た?』

「東の方からですよ」


 俺は笑顔で手を上げて、列に向かって歩いていった。大きなダンジョンは、結構並ぶな。クヌードは、そんなに並んでいなかったが。まあ、あそこは規模の割に人が少ないからだろうな。これが普通なんだ。


 俺はギルドの中を観察しながら、支持された列に並んでいた。5人ほど並んでいて、パッと見に服装というか装備的には、そう変わったところはない。だが、今まで行った場所とは異なるので、服装的には違いが見られる。


 クヌードのあるパルミア王国のあたりでは、割と普通というか、標準的な探索者スタイルが多い。日本人の想像する、いわゆる冒険者といった趣だ。エルスカイム王国では、探索者も割と洗練された装いというか、言い換えれば気取った感じに見受けられる。


 そして、このアーダラ王国はグニガム迷宮では、少し変り種のようなスタイルが多い。色使いが奇抜だったり、なるべく人と違う個性的なデザインを心がけたりと。まあ、どれがいいとは一概には言えない訳で、所変われば品変わるといった感じだ。


 ギルドの中も少し独特で、なんというか前衛的なアートを心がけて建築しましたという趣がある。なんというか、無駄に手をかけているというか。クヌードなんかはシンプルだが居心地はよい感じで、アレイラでは高級感を押し出す感じだ。


 ここは、「何故、こうした」というような雰囲気に満ちていた。壁のデザインもバッサリと斜めに線が入っており、それが原色っぽい感じのツートンで分けられている。まるで、ジャポニズムの影響を受けたヨーロッパのリトグラフのポスターかなんかみたいに。


 デザイン的にも、「別にこうする必要はなかったよね」的な、余分な要素に満ちている。そういうデザインを社内のロビーやホールに採用している新進の大企業や、美術館のような佇まいだ。なんか、地球的な不思議な要素に溢れていた。また、なんというか「アレ」なとこだな。


 だが、列はすぐに片付き俺の番になった。俺の後ろに人はいないので、少々手間がかかっても大丈夫だろう。


「こんにちは」

 そう声をかけて、探索者証を差し出した。


『まあ、遠くから来たものね』

 クヌードの地名を見て、受付の女性は少し目を見開いた。この人は普通に人族の人だ。美人だが、俺と同じくらいの年頃か。結婚したとかで、探索者を引退した人かもしれないな。


「ええ、少し換金したいのですが、これ大丈夫ですか?」

 そう言って渡したものは大きめサイズの、1kgの金板だった。


『まあ、すごく整った形をしているのね。ちょっと待ってちょうだい』

 彼女は脇に置かれている、50cm四方くらいの板が載った、量りのような道具に金板を載せた。


『ま、まあ。凄い純度ね! まるで金そのものの塊だわ。こんな物を一体どこで』

 あらっ。まずかったかしら。いや買ったのは、近所の宝石屋さんなんだけどね。どっかの工場で作ってくれたものさ。だが、俺の面の皮は厚かった。


「なあに! こう見えて腕のいい探索者なんだ。出所は内緒さ。俺の冒険談を聞きたいのなら、ベッドの上でね!」

『ほほほ。人妻を口説くなんて、命知らずね』


 そう言いながら彼女は、左手の中指に付けた、迷宮宝石らしき物が嵌った指輪を目の前で見せてくれた。この世界では、こうやって見せるのに目立つ、真ん中の指に付けておくものらしい。

「命知らずとは?」


『だって、旦那に喧嘩売っているのも同然でしょう?』


 また一つ、この世界の命の安さを思い知った気がするなあ。

「それより、早く換金してくださいよー。御飯が食べられない」


『ええ、ちょっと待っていてね』

「それで、幾らくらいになります?」


 彼女は、量り? の数値を読みながら教えてくれる。

「約、金貨30枚ね」


 むう、地球の相場から言えば、多分40枚くらい貰わないと割に合わないが、まあいいか。

「じゃあ、全部で金板20枚分を交換してください。金貨10枚分は銀貨、金貨50枚分は大銀貨でお願いします」


 俺は、もう19枚を差し出して、確認と計算並びに貨幣の勘定が終わるのを待った。


 比較的短期間で、彼女は仕事を追えてくれた。合計で金貨540枚、大銀貨500枚、銀貨1062枚を手にした。端数の銅貨とかは切り捨てらしい。少し面倒をかけてしまったが、少額コインも必要なものだ。


 金を手に入れたので、街へと繰り出した。街はやっぱりサイケな雰囲気が漂っていたが、さほどカオスという風ではなかった。まあ調和が取れているといえば、それまでなのだが。


 何故か石畳も白とグレーで交互になっており、子供が飛び石して遊んでいる。スーパーの床ですか。こ、これは材料の確保が大変なんで、他にやっているとこは無いのでは。産出地の都合で、材質や色が変わっているとこはあるやもしれんが。なんで、そこまでデザインに拘る!


 とりあえず、宝石店を目指した。やはり初めての土地では、高額初値を目当てで、迷宮宝石探索には力が入る。ここは、なんというかモダンな感じがする。壁には絵のように数色のタイルがはめ込まれていて、アーティスティックな出来栄えとなっている。


 薄い衣を纏った男女が地平線をバックに並んでいる絵だ。伸ばした女性の手を、上手に艶かしく表現してあって中々秀逸なものだ。


『いらっしゃいませ。本日は、どのような物をお求めで?』

 壮年の店員さんが、卒なく声をかけてくれる。


「ええ、このあたりで取れる目ぼしい宝石をいくらかと思いまして。他の土地に無いような物が良いのですがね」


『そうですか、これなど如何でしょう』


 そう言って見せてくれたのは金貨50枚の値段のついた、深い輝きをその中心から放つ、イエローダイヤモンドのような色合いを持つ水晶みたいな風情を持つものだった。


 直径3cm長さ9cmくらいの、先が少し細まった葉巻型をした宝石だ。カットもされていないのに、中で反射された光がキラキラして、不思議な輝きを放っている。


「へえ」

 値段の割に大きなサイズで、面白い感じの物なので、食指が動いた。


『如何なものでしょう。このあたりではそう珍しい物ではありませんので、この大きさでも御値打ちになっております。ですが、美しく人気はある商品です』


 うん、地球のオークションでも人気だといいな。最近、ちょっと値の付きようが渋い傾向にある。まあ、結構持ち込んだしね。とはいえ、まだまだ需要はある。これは、良い値が付くだろう。


「わかった、そいつは貰おう。他には?」

『そうでございますね。この真紅の輝きを放つ、竜目石など如何でありましょう。こちらは、このサイズではございますが、高級品で、特に彫像の眼などに入れるため、人気になっている商品です』


 人差し指の先ほどしかないが、なんとも言えずに目が吸い寄せられるようなすばらしい輝きを放っている。迷宮宝石は魔力から生み出され、結晶構造そのものが地球とは異なるために、同じ物は地球では絶対に産出しないそうだ。


 俺は色々見せてもらい、金貨50枚のものを4個、金貨20枚の物を5個、サンプルとして仕入れておいた。あとは迷宮に潜ってみるか。車は出せないな。


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