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6-11 先のお話

 その後は、ラスベガスやニューヨークなどで良くあるような、和食を取り入れた感じの創作料理が提供された。あちこち探検し終わって、船中のスタッフと仲良くなって帰還した川島が、御機嫌でビールグラスを振り回していた。それ、とっても高い奴なんだが。幸せな奴だ。


 みんな、初めて来る場所だったが、我が家のように寛いでいた。そういう事を可能にするのが、彼ら一流のスーパーヨットチームが持つ力量なのだ。


 まあ、俺の別荘みたいな場所だから気兼ねもねえんだろうが。キャプテンは、このヨット限定の家宰みたいなものだ。お金の弾丸を与えてさえおけば、最高のサービスを提供してくれる。


 とりあえず、食後には解散して各自好きにやる事にした。俺はシャワーを浴びて、ウイスキーで一杯やり始めた。同じくシャワーを浴びてきた山崎も、付き合いでグラスを取った。


「なあ、この先どうなっていくと思う?」

 俺はグラスの中のアイスボールをコロコロと回しながら訊いてみた。


「わからんな。ただ、あっちの世界には行方不明になっている人達がいて、日本政府に捜索が依頼されている。俺達は行かないといけない。だが、お前は別だ。もう民間人なんだからな。嫌だって言ってもいいんだぜ」


 相変わらず、優しい奴だな。俺の答えは知っていても、あえてそう言ってくれる。

「バーカ。可愛い女の子達が、異世界で俺の助けを待っているんだぜ。ババ-ンと助けに行くに決まってるだろ。男なんて、ついでだ。俺達は『英雄部隊』なんだぜ。しっかり頼まあ、隊長さんよ」


 俺達はグラスを鳴らして、世界一のウイスキーをクイっと飲み干した。向こうの世界の王様達も絶賛してくれた日本の酒だ。


 それから、もう1度上のセカンドデッキに上がると、ピアノの置いてあるセカンドサロンで船員さんが演奏してくれていた。


 川島が、またもや出来上がって大騒ぎだ。こいつも、どこに行っても変わらないな。それがまたクルーには大うけだ。


 よし、俺達も騒ぐか。みんなに合図を出すと、各々得意な楽器をアイテムボックスから取り出して演奏を始めた。


 アイテムボックスから出された物に、クルーも驚いたようだが、すぐにピアノを合わせてくれる。踊りだすクルーもいて、川島も一緒に踊りだす。

 楽しい夜が深けていった。


 翌朝、アッパーデッキで、バイキングの朝食を楽しんだ。眺めはいいので最高だ。天気も最高だった。夕べは伊勢湾内で停泊した。このあたりは、まだ潮流は激しくないので快適に過ごせる。


 伊勢湾は外へ向かって、いわば逆V字に広がっていく感じで、湾内に限れば穏やかに過ごせるだろう。台風がここを通ったら、地元は恐怖なのであるが。


 隣の三河湾は、2つの半島に囲まれ島や複雑な地形があり、大きな船の出入りは要注意だ。漁業もそれなりに盛んだから、大型のスーパーヨットを置くには不向きだし、置く場所もない。


 だが、伊勢湾や三河湾から太平洋に出るには、難所の伊良湖水道を抜けなければならない。昔から事故が多く、その交通量を考えれば日本で3本指に入る難所であろう。全長200m以上の巨大船は航行規制を受けるという。


 今日は、ここでゆっくりして、夕方前には皆は駐屯地に帰還する予定だ。

「さあ、今日は外湯巡りよ~」

 川島の暢気な台詞が潮風に流れていく。


「外湯って言うなー」

 せっかくの高級なジャクジーも、こいつにかかったら台無しだ。もう、しっかり水着に着替えてるし。上からパーカーを羽織って、1人だけリゾート気分だ。


 何故だろう。水着の美女、しかも露出の多いビキニの水着美女を俺のプライベートヨットに迎えているというのに、あまり心が浮き立ってこないのだが。勝ち組感が全く沸きあがってこない。


 こいつだって、豊川では結構モテていたのだ。駐屯地という閉鎖空間において、男性に比べて圧倒的に数の少ない女性自衛官の特権というか。


 しかも、こいつは駐屯地では、相当有名な美人だった。残念なところもそれ以上に有名だったのが、玉に瑕だが。それでも紹介してくれと頼まれた事だって何度もあるのだ。


 よく知らない人が見たら、確かに普通の美人にしか見えない。こうしてみるとスタイルだって悪くない。生憎とベッドの中以外を舞台とする、剣呑な寝技が得意な奴なのだが。


「飲みすぎて、溺れてるなよ。城戸さん、お願いしますね」

 もう、前回とはすっかり立場が逆転している。いや、初めから無理だったのだろう。城戸さんは菩薩のような表情を浮かべている。


「いや、若い子はいいわね。私は紫外線が苦になるから遠慮しておくわ。あなたが見てあげればいいじゃないの。せっかく水着の可愛いお嬢さんがいるんだから」


 あ、逃げた。この人の中でも川島は、既に残念な人物扱いなのだろう。まあ、年齢的に真夏の紫外線は嫌なんだろうけどさ。


「よっし、鈴木。特別に、この川島様が帯同を許してあげよう~」

 おい。調子こいてんな、こいつ。いや、元からだ。今更言っても始まらんか。


「はいはい、姫様。不肖、この鈴木めが、お供させていただきますよ」

「よし! ついてまいれ!」

 こいつ、朝から一杯入っているんじゃねえの。


 なんだかんだ言いながら、俺達は結構楽しんでいた。「休日に酔っ払いの相手か!」と文句を言いながら山崎も付き合ったので、3人であちこち回って子供のように、プール遊びに興じた。


 こういうところが、このプライベートヨットのいいところかもしれないな。まあ、それなりに眼の保養ではあったし。

 

 城戸さんは、でっかいパラソルの下で、厳重装備で読書を嗜んでいた。優雅なもんだ。 

 プールには、他の連中も合流して、夏の海? を堪能した。昼はプール脇のマットの上でランチを楽しんだ。夕食は中華風ディナーで、早めに済ませて18:30、お開きの時間だ。


 俺達の特権で、ヘリでトップデッキのヘリポートから、守山へと直接送り出した。またちょっと、へべれけな川島をヘリに押し込んで、みんなと挨拶を済ませた。


「じゃあまたな。さ来週の月曜には一度、静岡の第15ダンジョンへ行ってくるよ」

「おう、またな」

「第15ねえ。なんだか波乱の予感がするな」

「うひゃひゃひゃあ、まったねー、鈴木―」

「おい、この酔っ払い、身を乗り出すな」

 連中は、ヘリの騒音とはまた別に、賑やかに飛び立っていった。



 俺は連中を乗せたヘリの去った、すっかり日も傾いた空をそのまま見送っていたが、電話が鳴った。

「ねー、兄ちゃん。今、例の船? 明日、美希ちゃんと2人で行ってもいい?」

 淳からだった。


「ああ、いいぞ。俺は今週一杯、ここでのんびりする予定だ」

「どうやっていったらいい?」


「空港までバスに乗っておいで。それで、名古屋第3航空へ行ってヘリを出してもらいな。今から頼んでやるから。神野さんという人を訪ねてくれ。パイロットさんだ」

「んー、わかった~」


 もう夏休みだからな。後は身内とのんびりやるか。俺はスマホを取り出して、神野さんに直電を入れた。


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