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6-10 ハーバーライフ

 オーナールームは、女性2人で使ってもらおう。この手の欧米のスーパーヨットは、欧米式の入浴に対する考え方から、バスタブが付いていない部屋も多い。


 6部屋あっても、2部屋しか風呂が無くて、後はシャワーだけとか。小さい船だと水供給の都合もあるのかもしれない。幸いにも、この船は全室風呂付だ。ただ、日本式でないので使いにくい。トイレだけは、シャワートイレに切り替えてある。


 お次はメインデッキの下にあるゲストルームフロアへ降りていく。残りは5部屋だが、広いVIPルームが2つあるので、俺と山崎で使う事にした。エクストラベッドを2部屋に運べばOKなのだ。本日は既に頼んである。


 陸上の倉庫に、必要なオプションを格納しておけるようになっているから出航前に頼んでおけばやってくれる。地下には、映画を上映する超大型テレビの視聴部屋もある。ボート類の格納庫も覗いてみた。色々揃っているな、また楽しむとしよう。


 途中で出会うスタッフ達は、皆笑顔で会釈してくれる。皆英語を話してくれるので、言葉には困らない。それでも、「こんにちは皆様」「オーナー、楽しんでいただけますか」などと簡単だが丁寧な日本語で声がかかる。ここへ来る航海の途中で勉強会を開いてくれてあるのだ。


 新船などの立ち上げまでは、不具合の修正も含めた訓練航海の嵐だ。オーナーさんの下へ届くまでに最高のチームを作り上げるのは、マネージャーたるキャプテンの腕の見せ所だ。


 この船も、キャプテン率いるメンバーに、この新しい編成の船に必要な人員を補充して、更に「日本人オーナーに相応しい一流チーム」として、新しく召集・教育されたものだ。


 欧州からここへの航海中に、それを成し遂げた。教育係として、マナー接客講習専門である日本の会社から、日本人が12人「客役」として派遣されている。俺が出したオファーだ。それをクリヤしたものが、このチーム・ロバートなのだ。


 訓練の3分の1は、「非常時」に備えた内容だ。金に糸目をつけずに、作り上げられたスペシャルチームだ。敵の襲撃にも備えて、洗濯係のおばちゃんとかを除いて全員が「軍関係者」だったりする。


 戦うコックさんもいるというか、キッチンスタッフが全員そうだ。包丁持った笑顔がこええよ。ちょっと人件費が高額になったけど、気にしない。何、ほんの3~5倍程度の高騰だ。それでも見合うだけの「部隊」を手にしたのだ。


 全員、交替で定期的にグアムとかで射撃訓練を受けてもらう予定だ。自衛隊の日野射撃場とかを借りてもいいな。


 そんな引き締まった武闘派集団の真っ只中で、サロンのソファにもたれて大口開けて寝こけているお気楽な現役自衛官がいた。まあ、今日は休日なんだけれど。


「あー、知らない天井だー」

 このとてつもなく高価なスーパーヨットの中で、第一声にそんな間抜けなセリフを吐いている大馬鹿者がいる。


「ようやっと眼が覚めたか。あのホテルに次回は行きづらいな」

 そう、ホテルの中でも結構な醜態だったのだ。


「ええっ!? というか、ここはどこ? なんか揺れてるんだけど」

 俺は手招きすると、後方の自動ドアを通りデッキへと差し招いた。そこには伊勢湾の深い色合いの海があった。


「ええーっ、海の上ー?」

「そうだ。ここはスーパーヨット、俺の船ダッタブーダの艦上だ」

 艦上っていうほど、大げさなものではないのだが。まあ、普通に船上だな。


「何それー」

「何って、俺の船に決まってるじゃないか。お前は寝こけてたから、ヘリからの風景を見ていないだろ」


「そうかあ。よーし、探検しよう~」

 元気に飛びはねて、1人で船の探検に出かけた。やれやれ子供か。


「デッキにプールあるから落ちるなよー」

 声かけって大事だよな。入れ替わりに城戸さんがやってきた。


「それにしても、ものすごいものねえ。私の給料では、一生かかっても無理だわ」

 うん。俺の給料でも無理ですから。


「まあ、のんびりやってください。これくらいの余禄が無かったら、やっていられないです」

「それもそうね。ありがたく、そうさせていただくわ。でも、こうしていると、異世界の出来事が夢のようね」

 城戸さんは、夢みるようにスーパーヨットの広いサロンを見渡した。


「生憎と、俺が異世界で一杯稼いできたので、この船が今ここに存在するのですよ」

 ある意味、ここは悪夢の続きの空間なのだ。乗組員を金に飽かせて戦闘員で固めてしまうほどには。


「そう言ってしまえば、そうなのですけどね」

 のんびり、品のある上等なソファに腰掛ける腰掛ける俺達に、インテリアスタッフの人が日本語で声をかけてくれる。もちろん、向こうのイントネーションで。


「おチャは、いかがですか?」

「ありがとう。じゃあ、俺は冷たい麦茶で」

「じゃあ、私もそれを」

「かしこまりました」


 俺がリクエストしてあるので、この船には冷たい麦茶も熱いほうじ茶も常備され、日本語で注文できる。全ては、オーナーとその客のためにある。それが、このスーパーヨットというものなのだ。


 俺は城戸さんを誘って、頂上のアッパーデッキへと向かった。ヘリポートの回りに設けられた、鉄パイプの柵にもたれながら、少し話をしてみた。


「この先は、どうなっていくんでしょうねえ。行方不明の日本人達。拡張するかもしれないダンジョン達。そして、彼らがスタンピードに追い込まれたなら。

 大昔の選ばれし者達。彼らもまた、故郷の世界を救うべく、奮闘したのでしょうか」


 後ろに立つ城戸さんの顔は見れなかったが、どんな顔で聞いているかわかるような気がする。

「そうね。誰にもわからないかもしれないわね。あなたにもわからないのでは。それでも、日本政府としては何もしないでは済まされないのです。多くの国民の命を預かる身とすれば」


「それと、政治のお話的にもですよね?」

「わかってるんなら、いちいち聞かないの! 馬鹿な子ね」

 あっはっは。まあ、城戸さんから見たら、俺達なんか子供も同然かもな。


「じゃあ、お母さん。そろそろ御飯に参りましょうか」

「誰が、あんたのお母さんですか~」


 俺は城戸さんと追いかけっこをするようにして、4階のアッパーデッキから1階のダイニングまで駆け下りた。


「あ、ゴメン。母ちゃん、許して」

「まだ、言うかあ」

 ちょっと折檻され気味にダイニングに辿り着いた俺に、キャプテン・ロバートが笑顔で声をかけてくれる。


『はっはっは、さすが選ばれし者、元気が余ってますね』「仲良き事はよき事かな」

 後半は日本語か。うーん、この人って日本通っぽいな。この手の人材にはありがちなパターンらしい。インテリアスタッフのチーフを勤める奥さんは日本人だ。


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