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6-6 芸人魂

 それから、姫様方のご友人だの、親族の女性達だのがやってきて、王太子の部屋はバーゲン会場と化した。ジェイクの野郎が「ちょっと失敗したな」みたいな顔をしているのが笑いを誘う。


 女の欲望を甘く見るからだ。こいつも、どう見ても女の買い物に付き合うより、迷宮で魔物と、どつきあいでもしている方が似合いそうだ。


 今回は城戸さんと王様との顔合わせは無しになった。まあ、いきなり王様を説教されても困るがな~。

 王宮を辞して外に出た時に、城戸さんは大きく伸びをしていた。


「んーっ、いやあ異世界って、結構歩くわねえ」

「あはは。ここは広いですからね。まだ車を使ってるからいいけど。多分使えないところもあるから、覚悟しといてくださいな」


「車が使えない?」

 城戸さんは、少し怪訝そうな顔をしてこちらを見た。


「なんていうかな、俺の正体を知られると、命を狙われるかもしれないって事ですよ。例の敵さん達にね」


 城戸先生は顔を顰めたが、すぐに首を竦めて、おっしゃった。

「まあその時には、あなたの暴れっぷりに期待しておきますわ。ところで、これからどうするのです?」


「一応、今回はここまでで。ここまで捜索を依頼して、一週間ほど休息を取ります。それから、俺が単独で第15ダンジョンの様子を見てきますから。その次に、全員で第15ダンジョンの予定です。目標は、そこでの日本人捜索願いを出すところまで」


「あら、せっかく異世界冒険物語が始まると思ったのに残念ね。うちの爺達が、今度は土産話を持って帰れって、それはもう煩くって。まったく、そんなに言うんなら自分たちでくればいいのよ」


 辟易といった感じで腰に手を当てて仁王立ちの城戸さんがいた。委員会とやらも、なかなか大変だな。きっと宴会の時なんかには、爺達が城戸さんから説教されまくりなのであろう。


「じゃあ、新しい土地での御土産でも買っていきますか」

 俺の提案に乗り、土産物を見繕うことになった。


 王宮付近の賑やかな市街地では、観光客相手のそういう店も多くて、冷やかし甲斐がある。なんていうか、浅草雷門の辺りに並ぶ店が連なった通りに近いイメージだろうか。あそこまで、歩けないほどの混雑ではないが。


 川島がまた、禄でもないような土産物ばかり欲しがる。新しく引っ越した駐屯地でも、あっという間に知り合いを増やしまくって、御土産をねだられているらしい。まあ、この手のネタ土産漁りほど楽しい物はないが。


 魔物革で出来ているが、どうみてもイロモノのデザインをした飾りのようなもの。見ていると、こちらの世界の住人にも、あまり売れているようには見えない。


 子供向けなのか、変な形をした置物のようなもの。素材も不明な代物だし、形も何を表しているかもよくわからない。魔物骨で出来ていると思しき、訳のわからない道具のようなもの。


 俺もガラクタ集めは大好きなので、人の事は言えないが。最初の頃って、こういうのが1億円でも売れたんだよなあ。あのブームが、もう一度戻ってこないものだろうか。最近は顧客の、品物を見定める眼も肥えてきてるし。


 散々店を冷やかして、戦利品を獲得した川島は満足そうだ。城戸さんも、今回の土産は確保できたようだ。俺も、それなりには集めてみた。合田も、かなりの資料を手にできたのでウハウハなようだ。


 城戸さんに至っては、念話を使う店の人間と会話するうちに、なんと念話をマスターしてしまった。さすがは東大出の官僚だ。


 だが、必ずしも頭がよければ覚わるというものではない。俺なんかが比較的さっさと覚えたかと思えば、合田のような超頭のいい奴が、未だに覚えられない。


 川島が覚えて、うちの他の人間が山崎以外は覚えていないしな。杏だって、さっと覚えちまってるんだ。これで、メンバーの念話持ちが4名、50%だから悪くない。城戸さんが収納を持っていないのが惜しまれるな。


 俺達は大通りへと戻り、ランクルを走らせダンジョンへと向かった。これで一旦帰還できるので、みんな心も軽いようだ。


 そのままダンジョン内へと進み、魔物を呼び出した。特に指定をしなかったら、よく知らない魔物が現れてしまった。なんと同じ奴が20体ほどいる。


 確か、百鬼夜行の中にいたような気もするが、ちょっとうろ覚えだ。何だか蛙っぽい感じのする魔物で、奴らは何故かラインダンスのように、手を組んで足を上げて踊っている。


 そのひょうきんな様子に、川島の眼がもう釘付けだ。手には動画撮影モードのスマホを握り締めて。そして、その次に、奴等がその場でくるくると回っていたかと思うと、もう第15ダンジョンの入り口に出ていた。


「なあ肇、なんだったのアレ?」

「さ、さあ。最近グーパーとかが芸をしたりするじゃない。出待ちして、うずうずしてたんじゃないか?」


「なんだ、そりゃあ」

「きっと芸人魂が炸裂したのよ~」

 魔物の芸をかぶり付きで見られて嬉しそうな川島が独断で断定した。


 そこからヘリで赤坂ヘリポートへ降り立った。そこから六本木ヒルズにあるホテルへと向かった。城戸さんの分も部屋とレストランは予約済みだ。


 まだ夕方の5時を回ったとこなので、時間はある。女性陣はエステを予約しているので、男共は風呂とマッサージに行く事にした。


 大浴場で、ぐってりしながら、のんびりと会話している。

「これで、次回に第15ダンジョンの件が進んだら、かなり違うな」

 合田がホッとするように言った。


「ああ、ちっと休んだら、行ってくるわ。あんまり、根は詰めるなよ」


 そう、まだ大物が一つ残っているのだ。どこに繋がっているのかわからないが、そこもきっと、無情の【新言語登場】であるのに決まっている。もう合田の奴もギブアップしていて、色々な資料は自衛隊本隊に丸投げにしてある。


 東京の中枢部でも、俺が出したドルクットの脅威に青ざめて、そういう部分の支援に力を入れてくれている。もちろん、城戸さんの報告も大きい。一介の自衛隊員と政府のエリート役人とでは、言葉の重みが違う。


 特に、「スタンピードの脅威」の可能性を示唆されてから、今までのような俺への足引っ張りは無しにする方向へ政治的に動いているようだ。一部の心無いマスコミ関係者も、完全にギブアップしたようだ。何しろ、俺がへそを曲げた段階で何もかもがアウトだからな。


 俺達は風呂上りに大挙して、マッサージに押しかけた。週末だし、もっと混んでいるかと思ったが、全員で見事にマッサージルームを占領した。ガタイのいい奴らばっかりなので、むさ苦しい事この上ない。


「飲もう」

 山崎のシンプルな一言に全員の意見は一致を見た。


 今日は鉄板焼きと川島の奴が勝手に決めやがったのだ。まあ特に反対する理由も無いので、そこに決まった。予約の時間には、まだ早かったのでバーで軽く一杯。


「「「カンパーイ」」」

 ホテルのバーなので控えめに乾杯した。


 特に乾杯する理由はなかったが、何しろ昨日の今日って感じだ。事態のあまりの重さに、ちょっとお通夜ムードが高まっていたのだが、その辺も一区切りついたのだ。ちょっとくらい乾杯したって罪にはならない。


 ただ、そういう事はマスコミ屋さんには通用しないので、見つかってしまったら色々と奥の手を使って黙らせよう。自衛隊や政府には、そんな事はできないが、俺にだけはできる。


 別に、その程度の事でいちいち米軍を頼る必要はない。金さえはずめば、色々仕事をしてくれる人間は、世の中に一杯いるのだ。あちこちで、だいぶ渡りをつけてある。


 俺はけして、お上品な人間ではないのだ。それで大切な人達を守れるというなら、喜んで阿漕な真似に走るタイプだし。


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