6-5 選ばれし者の実力
2人がかりの指導の中、この世界の人間で初めて銃器を手に取った男は、この世界で一番の王国で次代国王となるエルリオット王太子その人であった。
色々珍しそうにして、弄り回していたが、マガジンが装填され、いざ勝負となった。異世界の美男子王子様が、イヤープロテクターを装着し、アサルトライフルを構えている様は、ちょっとシュールだった。
なかなか様にはなっているのだが、結論から言って、まあ無理かな。
立ち姿勢で構えたエルリオット王太子こと、探索者ジェイクはじっと狙いを定め、おもむろに引き金を引いたが、銃は大きくぶれて弾はどこかへ気まぐれに飛んでいった。
『むう』
不本意ながら、奴も難しさを感じ取ったようだ。
「じゃ、次は城戸さんね」
銃を受け取り、城戸さんは何故かうっとりとしたような表情を見せ、ペロリと下唇の左側を舐めた。妙にその仕草が艶かしい。危ない人だなあ。
そして、彼女は立ち姿勢で見事に的の真ん中を打ちぬいた。
おい姉御! 腕が更に上がっていないか?
2発3発とぶっ放していき、30発全弾を的の真ん中付近に撃ち込んだ。散乱した空薬莢の一発一発が、きらきらと異世界の陽光を反射して彼女の偉業を称えているかのようだ。回収されたターゲットを見比べて、ジェイクも溜め息をついた。
『まあ、彼女の腕前は理解した。お前はどうなんだ?』
「見せてやるぜ! 選ばれし者の【真の実力】を」
俺は、アローブーストを使わずに30発をじっくりと打ち込んだ。当然、数発が的のどこかに当たったのみで、まあジェイクよりはマシだな。それを覗き込んで、ちょっと心配になったらしい。
『いや、大丈夫なのか? お前は本当に選ばれし者なのか?』
「ジェイク。何のために、選ばれし者には仲間がいると思っているんだい?」
『まあ、そうかもな。私とて1人では何も出来はせぬさ』
お、この王子様、なかなかわかっているじゃないか。俺はにっこり笑って付け加えた。
「ちなみに、あの城戸さんも、この銃は1日撃っただけだ。最初から、あの腕前なんだ。射撃はセンスだぜ。彼女、絶対に就く職業を間違えているな」
ジェイクは目を見張り、城戸女史の方に目をやったが、彼女は頬を染めて見返してきた。王子様と目が合っちゃったわ、とか思っているんだろうか。
残念ぶりが半端じゃないな。やっぱり姉御も人の子だったのか。せっかく美人なのに、仕事一筋だったらしいし。
「青山、手本を見せてやれよ」
「はいよ」
そして、青山はマガジンを装填し終えた89式自動小銃を台に置き、薬室に弾丸を送り込んでからセレクターが単発になっているのを確認し、脇に置いてあったアイマスクを装着する。何をやっているかはジェイクにもわかるようだ。
的に向かった。おもむろに他の人間と同じ立ったままの姿勢で、しばらく狙いを定めるようにしていたが、おもむろに撃ち始めた。
タンっタンっ、というような軽快なリズミカルな射撃音を響かせて、30発の弾痕は全て300m先の50cm程度の円形ターゲットの中心部に寄っていた。」
「ちなみに、この腕前は、選ばれし者の仲間である事と何の関係もない。単にこいつが凄いだけだ」
自らの腕と比較して憮然とした表情を作りながらも、この世界一の国の王族は、最高の兵士の腕前を眼で称えていた。
『お前の仲間達がしっかりしているんで、私も安心できそうだ』
ジェイク! それは、一体どういう意味かな!?
むう。勇者様に向かって、なんという言い草だ。まあ、こういう奴なのは知っているんだけど。
「さて、じゃあ今回の主題に入ろうじゃないか」
俺達は王子様の部屋に戻って、話の続きを始める事になった。城戸さんの腕前は見せておいたので、彼女について懸念される事は無いだろう。
『その人を連れてきたという事は、お前の国から何か話があるとみてもよいのか?』
「まあ、そういう事だな。ちょっと、問題が大きくなってきたので、来てもらわないとマズイらしい。本来ならお断りなんだが、まあ姉御ならいいだろうと思ってな」
もう、結構面倒くさい話になってきたので、俺の代わりに説明してくれる人がいるのも悪くない、と思ったからというのは内緒だ。他の連中には、バレているかもしれないが。
「初めまして。日本国ダンジョン対策委員会にて、書記長を務めさせていただいております、城戸裕子と申します。この世界と繋がる地球という世界で、唯一ダンジョンが発生する国、日本。我が国は事態を大変憂慮しており、対応のためにこの委員会を設けました。つまり、この国でいえば、国家を揺るがす危機のために国王陛下の勅命により、設けられるようなものです。私は、そこの№3です」
そんな名前や役職だったのか。そういや、この人の事なんて、何にも知らないわ。
『そうか。やはり、そちらでは大きな問題となっているのだな。それで、お話というのは?』
ジェイク、いやエルリオット王太子は、足を組んだまま両手を腹の上に組み合わせて城戸さんの方に向き直った。
「こちらで行方不明の日本人捜索、並びに邪神派による儀式会場の捜索をお願いしたいのです。あと何か情報があれば共有させていただきたいです。私はそのためにやってきたのです。そこの唐変木の書いたレポートでは、誰も納得してくれないものですから」
なぬっ!? 確かに俺の書いたレポートには偏りがあるのは認めるが、そこまで言われる覚えは無いぞ。
『はっはっはっ。それはスズキのやる事なんだから諦めなさい。わかりました、ご協力しましょう。どの道、このアレイラ・ダンジョンある限りは、我々も係わり合いを避ける事は出来まい』
む、こいつにまで言われてしまったぜ。探索者王子なんかに言われたくないな。
そんな俺には一切構わず、城戸女史は川島に持たせておいた、捜索用のパンフレットの束をテーブルの上に置いた。
ジェイクが片手を上げると、すっと侍女さん達がやってきて、パンフレットを運んでいった。そして、王子がこちらへ向き直るのを待って、話を切り出した。
「さて、ところで商売の話がしたいな。捜索費用は、そこから出す予定なんだ」
『捜索は無償でよい。どうせ、この国にも関わる事なのでな。父もそう言ってくれるだろう。それよりも、異世界の品がもっと欲しい。父もあれこれ気に入ったようでな。それに、あと……』
あー、うん。わかるな。王妃様・お姫様方に、フィアンセ殿か。
「わかった。今回も色々と持ってきたんだ。何か、ここでないと手にいれられないような珍しいものとか欲しいんだけど」
『そうだな。今回用意した物もそれなりだが、次回はそのように取り計らおう。今回は半分ほど通貨にしておいたぞ。その方がお前達も良いだろう』
「ああ、助かるよ。このアレイラは大国だし、ここの通貨はこの周辺では通用するんだろう?」
『そうだ。では今回の品を見せてもらおうか』
俺は、大量の物品を並べて、みんなにも手伝ってもらって店を広げた。
そして、まだ呼ばれていないはずだったのに、いつのまにか王族の女性方がさりげなく品を手にとって、熱心に見ている。
城戸さんが意外と博識で、色々説明を披露してくれた。なかなかのセールスぶりだ。やはりこの方、就く仕事を間違えているのではないだろうか。




