6-3 射撃訓練
俺は、今ちょっとだけ舌を巻いていた。
あれから師団長の部屋で、話し合い? をして、すぐの事だ。
「おい、肇。何から始める? 今日はもう時間が過ぎているが、どうせすぐ異世界に行くんだろう? 早速明日からやれる事はやっておこう」
言い出したのは、青山。案外と意地が悪いな、マイバディ。わかってるから、お前が言い出したんだろう?
「射撃訓練から」
そして翌日、俺達は守山駐屯地の日野射撃場に行った。いつもの如く名二環を通り、名古屋高速を介して東名名神を抜けて、東海北陸自動車道へと進む。岐阜各務原I・Cで降りて国道21号線から、国道156号線に抜けて辿り着く。
この屋内射撃場は、コンクリート製のパーツをを組んで作った珍しい建物だ。幅30m全長340mほどの施設。これだけ大きい施設では珍しいのだそうだ。
着いて早々に、銃の仕度をして弾薬を用意する。これは俺のコピー弾薬ではないので空薬莢を残らず持ち帰らねばならない。
そして、いきなり城戸さんに撃たせてみる事になった。普通は銃の扱いから始めるもんだが。青山がぴったりと付き添い、山崎がフォローする。本来、城戸さんは法律的には銃に触ってはいけないのだが、そこは俺の「治外法権」を活用した。もう彼女は、選ばれし者の仲間なのだから。
早速、89式自動小銃の射撃に入る。いきなり弾丸フル装填の重い自動小銃を渡されて、半泣きだった城戸さんだが、彼女は当てた。当てまくった。射撃はセンスだった。
生まれて初めて銃を握った、ど素人の役人で、しかも30歳を迎えた女性、ややどんくさい印象のあるこのお方が。射撃場の的の、ど真ん中に弾痕を集中させて御覧にいれた。確かに、射撃検定表彰持ちの青山が指導したとはいえ、これはない。ないはずだろ?
彼女は、伏せて撃ったり、膝に肘を乗せて撃ったり、立ち姿勢で撃ったりと、色んなスタイルで撃ちまくる。
彼女は、俺が衝撃で固まるほどの成績を残した。単発射撃で、的のほぼ、ど真ん中を打ち抜くし。的は300m先なんだが。目はいいようだ。本人も、段々ノリノリで撃ちまくっている。楽しくなってきたらしい。俺は魔王を覚醒させてしまったのだろうか。
何故だ。生まれて初めて撃つ、フルオート射撃の自動小銃の弾を、何故あんな遠くにあるターゲットに集中させることが可能なんだ。普通、銃が明後日の方向に跳ね上がるもんだろうが!
貴様、絶対に人間じゃねえ。
だが、俺の肩をポンっと叩く奴がいた。振り返ったら、師団長だった。なんて、いい笑顔をするんだろう。
そして、拳銃の射撃も練習させた。ついでに操作を教えているだけで、これは的に向かって、ぶっぱなすだけだ。そして、1発当たったかのように見えるのは、俺の気のせいなんだろうか。
同じ銃を持つのでも、引き金を引いた事があるのと無いのとでは大きく違う。これは一般的に自衛隊で使われている9ミリオートの物を使わせた。これを自衛隊で使う人はとても少数だ。幕僚とか砲手の人なんかが持つのが一般的だ。普通の隊員は自動小銃を持つ。
本体は830gと軽量なので、女性向きでもある。川島もアイテムボックスには持たせてある。その代わり、弾倉には9発しか入らない。護身用なので、城戸さんには、これを持たせておけばいいだろう。
俺は米軍に貰ったベレッタM92を使っている。15発入りの弾倉とチャンバーにもう1発入るから。当然自衛隊の拳銃よりも重いが、人間重機と化した俺には全く関係ない。
米軍が長年使っている物なんで信頼性は高いだろう。こいつには、ちゃんとマニュアルセーフティもついている。それで米軍に採用されたんだから。
サブが、S&Wの6インチ44マグナムリボルバーだ。昔、イーストウッドの映画で有名になった奴だ。長年使われてきた名銃は頼りになるぜ。他に45口径のガバメントも通常使いの範囲だ。
44マグナム6インチモデルは先が重い分、反動による跳ね上がりが少なく、両手で持って撃てば良く当たる。撃鉄は重く、女性には向かない代物だ。だが、リボルバーは構造上安全性が高く、自動拳銃と違い、作動不良も少ない。
銃というものは落としてはならないものであるが、万が一落とした際の暴発も起きにくい。弾自体が不発になったら仕方が無いから、もう1回引き金を引いて次の弾丸を撃つしかない。
その後、慰労会という事で、自衛隊クラブ(駐屯地内居酒屋)へ向かったが、そこでも姉御は天下無双の三国志状態だった。その場に居合わせた全ての自衛隊員は、伝説を目撃した。
なぜか説教を食らっていたのは、俺ではなく【師団長】その人であった。これは絶対に靴磨きで扱きすぎたね。
俺も楽しいお酒を、お相伴した。その日の払いは、そこに居合わせた全隊員の分まで気分良く俺の奢りだった。あんた最高だぜ、姉御。
翌日、そんな姉御を乗せたまま、俺達は千葉の半島の先にある第5ダンジョンに、ヘリで向かっていた。通常仕様の8人乗りで、山崎が操縦してくれても定員一杯だ。
これ以上メンバーが増えるのなら機種変更が必要だ。新しい機種も一応持ってはいるが、いきなり使うのは山崎が辛すぎる。姉御が結構使えそうなので、本来の予定通り第5ダンジョンへ向かったのだ。とりあえず1日連れて様子を見る。彼女も、もう文句は言わなかった。
全員見事に迷彩服を着込んで、当然城戸さんもお揃いだ。
「鈴木さん、今日はどうするのです?」
「今日は行きがけに商売しながら、向こうへ行きますよ」
「商売……」
「誰も現地通貨で経費なんか払ってくれんから。その金で色々仕入れて、向こうで商売するのさ。悪いかい? その金で現地での、あんたの宿代とか、日本人の捜索費用とか払ったりしているんだが」
「い、いえ。それは別にいいんですが。すぐに行くのかと思いまして」
「まあねえ。そう、お手間は取らせないさ」
今日は城戸さんも、足慣らしってとこかな。今日は、王都直通の第5ダンジョンで慣れてもらおう。どの道、片付け仕事で回るだけだ。明日からは休みで、今日は日帰りだ。
簡単なとこから慣れてもらうぜ。この人って収納を持っていないから、困るんだけどな。下着なんかもあるから、川島に荷物持ちはやらせてあるが。はぐれたりした時とか困るんだ。
俺は第5ダンジョンの、米軍地上駐屯所で、「魔王」を呼び出した。
「やあ、スズキ。今回の獲物は何かな」
にこにこと素晴らしい笑顔を浮かべる、軍服を着た魔王様が姿をお現しになった。この鬼の米軍が常駐する魔王城も、俺にとっては単なるビジネスの場に過ぎない。
「やあ、エバートソン中将。今日は新しい仲間を紹介しますよ。城戸さんです。政府のダンジョン対策委員会の……」
「お久しぶりです、エバートソン中将。とうとう、このメンバーと冒険する羽目になったようですわ。お手柔らかにお願いします。この唐変木の書いた発狂したレポートはもうお読みになりましたか?」
いきなり人のセリフに被せておいて、なんて事を言うんだ。それにしたって知り合いだったのかよ。そりゃあ、そうかもな。日米の担当者同士、しかもその上の方の人なんだから。
「ははは、ミス城戸。実に羨ましいですな。できるものなら代わってほしいくらいのものです。ええ、読みました。また、とんでもない話になったものだ。だが、現状では、我々には、なんともしようもない。お願いしましたよ」
「できる限りの事は」
2人は握手して、やっと俺のビジネスの出番だ。
他の連中も、これに1枚かましてやりたかったが、公務員なんでそれも難しい。みんな、この仕事に誇りを持っている。自衛隊をやめて、俺と一緒に商売しようなんて奴は1人もいないんだ。
アレイラで物品としてもらった分のうち、前回渡したサンプルの残りと今回渡した物はグラヴァスの辺境伯が用意してくれた、大量の逸品の山だった。ミスリルも奢ってある。
米軍が手にした利益で、アメリカが手にするミスリル代が出て、お釣りがくる。
約2時間かけた査定の後に、約7000億円が俺の口座に振り込まれた。
飛行機2機ヘリ1機の代金などの支払いを除いて、手持ちが約1兆9537億円になった。それで心が軽くなったわけではないが、手持ちの軍資金があるのはいい事だ。
今日、アレイラで貰えるはずの対価が楽しみだ。




