6-1 悪党どもの真実
俺達は、グラヴァス経由でクヌードに帰還する事にした。ゴルディス家に設営したヘリポートから、ばたばたとヘリで飛び立った。ヘリの管理は山崎が行なっている。データの管理は合田がチェックする。バックアップしておかないと、貴重な飛行データが消えてしまう。
グラヴァスへ向かうヘリの中は重苦しい空気に満ちていた。聞けば聞くほど、知れば知るほどに、重い事実が次々と浮かび上がって来る。
誰も口を開こうとする人間がいない。漏れ出るのは溜め息だけだ。
長く、気が遠くなかのような永久の時間が経ったような気がするが、ほんの1時間足らずの時の刻みに過ぎなかった。
ゴルディス家へと降り立った俺達を迎えてくれたエルシアちゃんも、俺達の様子がおかしいのにすぐに気づいて、いつものように、はしゃいだりしなかった。
館の中へと赴いた俺達に、『お前達どうした。何かあったのか』と、辺境伯は心配して声をかけてくれたが、俺は重々しく切り出した。
「実は……」
生贄の話、聖魔法による石の開放、スタンピードの話などをかいつまんで聞かせた。
辺境伯も厳しい顔をして聞いていたが、重々しく口を開いた。
『そうか、また難儀な話じゃの。して、これからどうする』
俺は溜め息を付くと、当座の予定について打ち明けた。
「とりあえず1回あちらへ戻って報告します。どうせまた、お偉方がバタバタするのに決まっている。それと、クヌードでの儀式場捜索を依頼しておかないと。雲を掴むような話ですが。とりあえず、このダンジョンだけでもなんとか。向こう側のすぐ近くに俺の家もあるんで」
また比重の重い空気が立ち込めてきたが、それを振り払い立ち上がった。
『ああ、待て待て。置いていった品の対価がある。持って行くように。それとクヌードへ、その件で手紙を認めるので待っておれ。生贄の儀式や生贄にされそうな日本人女性の捜索費用は、ゴルディス家で全額持つ。それにしても、ほんに困った事よ』
「はい、ありがとうございます。参りましたよ、本当」
品物と書状を受け取り、館を辞して、俺達は1時間後に再び空へと舞い上がった。こんな時に飛行魔物でも出て戦闘にでもなれば、まだ士気も上がろうというものだが、こんな時に限って奴らは現れない。
クヌードの探索者ギルドに降下すると、ヘリを収納し、スクードの元へと向かった。
『ラーイ』 こちらの言葉で、ただいま、の意味だ。なんとなくで、使ってみた。そんな気分だった。
『おかえり。これはまた浮かない顔だな』
「お仕事を持ってきてやったぜ。はい、これ辺境伯から」
そう言って差し出した手紙を、こっちが食いつかれるのではないかというような顔でスクードは受け取った。中を読んで大きな溜め息をついたが、こちらへバイオレットの瞳を向けると、重そうに口を開いた。
『話は聞かせてもらえるのだろうな』
俺はコーヒーを用意しながら、また例の話を一通り聞かせてやった。
つーっ、とでもいうような感じで、右手の甲で鼻の付け根から額にかけて擦っていたが、奴は諦めたように口を開いた。
『また、とんでもない話になっているな。で、とりあえず、ここからというわけか?』
「そうだ。なあ、まさかあの連中が関係あったりしないか?」
『ん? どの連中だ』
「ほら、この前、お前の娘にちょっかいをかけた、あの連中さ」
『なんだと!?』
「だって、なんでいきなり、あの場所を奴ら欲しがったんだい? 生贄の儀式にはぴったりだと思うけどね。あの場所ってさ、確か」
『ああ、東西南北の線上にあるはずだ』
「奴らは?」
『まだ、牢にぶち込んだままだ』
俺達はスクードの後について、ギルド、正確には迷宮都市クヌードの留置場へと向かっていった。それはギルドの隣にある建物に設けられていた。その一角を占める石牢に、奴らはふてぶてしい顔をして居座っていた。
『ふん、お前らか。何の用だ。おい、スクード、調子に乗るなよ、俺達は……』
そんな台詞を全部言わせてやるほどアホではない。
俺は殺傷力低めの32口径のサブマシンガンを檻の隙間から捻じ込んで、それ以外を全面イージスで遮蔽した。後はトリガーを引くだけだ。弾倉が空になるまでぶち込んだ。空薬莢が、石の床の上に散乱して澄んだ音を立てた。
内側に無敵のイージスを張り巡らされた石牢の中で兆弾になり、奴らの悲鳴が鳴り響いた。
奴らは血塗れになっていたが、死んだ奴はいなさそうだ。そして訊いた。
「少しは喋る気になったか?」
黙っているので、俺は回復魔法をかけてやった。そして、もう一連射食らわせた。
「お前らも知っているよな? 回復魔法は、使えば使うほど効果が薄くなっていく事くらい。次は、はずさないぞ。早いとこ吐くんだな。まだ口の利けるうちに」
そして、次の奴を食らわせた。今度は回復をかけない。他の連中は何か言いたそうだったが、今までの経緯を思い出して思いとどまったようだ。
苦鳴が牢の中を満たしたが、それでも奴らは吐かなかった。普通のチンピラならば、こんな真似をしなくても、とっくに吐いているだろう。という事は、こいつらは……。
一応回復をかけてやって、退散する事にした。
「あんた、無茶するわねえ」
「無茶の一つもしたくなる」
俺は首を竦めた。
『まあ、あんな感じだ』
スクードも、いささか手に負えないようだ。拷問にかけたとて吐きはすまい。
「あいつらも邪神派の仲間なのか?」
お、合田君、気が合うねえ。
『そうかもな。痛めつけても吐かないだろう。多分、儀式も1か所だけでやっているわけじゃないだろうしな。もう、ここでの儀式はかなり終えている可能性もあるが、まだ拠点が欲しいところをみると、その可能性も薄いかもだが』
「次の朗報を待つしかないか。スクードさん、引き続き日本人の捜索はお願いします。おい肇、日本に帰るぞ」
念話のできる山崎が、話を〆た。
「あいよ」
山崎隊長が発する帰還の号令のもと、俺達はギルドから出る事にした。まだ、明日はアレイラが残っているのだ。ああ、チビ達に会いたいな。今日の報告は出し辛いぜ。スタンピードか。
俺は気の重さを打ち払いたいので、ランクルで解体場へと向かうように頼んだ。まだ時間には少し余裕があった。軽く鳴らすホーン。俺はドアを開けて、子供達を出迎えるべく血の匂いが香る解体場の地面に降り立った。
『よお~、ロミオー』
「あ、ハジメ~」
「おにいちゃあん」
子供達はむしゃぶりついてきた。随分久しぶりな気がするなあ。ロミオやアンジーあたりは、すでに簡単な日本語を話してくれていた。他の子なんかも「おにいちゃん」とか「こんにちは」「ありがとう」くらいは言えるのだ。
俺が現地語で挨拶して、チビどもが日本語で挨拶してくれる。お互いに簡単な奴だけど。今、俺とチビどもの間で流行っているプチブームだ。
「もう~。全然来てくれないんだもん」
主に非難は、お兄ちゃんに向かった。
「はは、悪い悪い。仕事が忙しくてな。みんな元気にしていたか?」
彼らは、全員態度でそれを示した。飛び跳ねたり、くるくる回ったり。尻尾のある子は、まるで子猫のように、それを追い回すかの如くだ。
苦労性の山崎隊長も、表情が少しほぐれたようだ。
みんなで少し、チビどもの空手のお稽古をしてから帰る事にした。
失礼しました。
予約時間が18時になっていました~。次回は9/23(土)更新予定です。
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