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5-23 お弁当

 翌朝、朝飯をかっこんで、さあ出発と思ったら、お袋に呼び止められた。

 何かと思ったら、お弁当を渡してくれた。


 こんな事は高校以来じゃないだろうか。でかい弁当箱だが、今も充分これくらいは食べる。俺もちょっと顔を綻ばせた。


「ありがと。いってきます」

 お袋の脳裏に、学生服を着て家を出る俺の姿が浮かんだんじゃないかな。


 ただ母親から数年ぶりに弁当をもらっただけ。それだけなのに、心は随分軽くなった。行方不明の人達にも親はいる。彼らが帰る日を待ち望み、祈るばかりの人達が。


 なんか気合が入ってきた。俺は自転車を引っ張り出して、跨った。魔法で強化されたシティサイクルは、俺の異常な脚力に耐え、時速60~80キロで疾走した。止まるときは足ブレーキ併用だ。


 有り得ない光景だが、それを実現できる力を持つのが「選ばれし者」って奴なのだろう。わずか10分足らずで会社についてしまった。


「おはようございまーす」

「あら、肇ちゃん、おはよう。今日は元気いいわね」


 早苗さんから声がかかった。ここのとこ、会社の人から見ても元気なかったのかな?

「あはは。頑張らないと。今日は6年以上ぶりにお袋から、お弁当を貰っちゃったっすよ」


 おばちゃんも、楽しそうに笑ってくれた。息子が2人自衛隊に行っていて、長男の方は、最近、孫の顔を見せてくれたそうだ。


「今から、またダンジョンかい?」

「ええ、先に千葉の第5ダンジョンの方へ。あっちは王国首都へ直通ですから。明日は、この21ダンジョンかな。子供達、可愛いっすよ」


 チビどもの写真は早苗さんにも見せてあげてある。あと事務の女の子も、ケモミミの可愛い子達にはしゃいでいた。


 今日、小山田さんは出張でいない。用件は電話で済ませておいた。

 ヘリの音が近づいてきて、下降してきている。うちの機体だ。


「おはようございます。神野さん」

「おはようございます、オーナー。助手席空いていますよ」


 なるべく助手席には免許持ちの山崎を乗せるのだが、奴がいない時には、こうやってなるべく助手席に乗せるようにしてくれている。神野さんは、万が一の場合、俺が自分でヘリを操縦しないといけなくなる事を知っているのだ。


 ヘリはあっという間に大空へ飛び立ち、見送りの早苗さんも、みるみるうちに小さくなった。

 見慣れた名古屋の町を眼下に、あっという間に守山に降り立った。みんな、もうグラウンドに集合している。普通に出動する自衛官と違い、彼らは小さなバッグ一つ持っていない。


「おっはー。じゃ、出発だぜ、みんな!」

 ちょっといい笑顔が帰ってきた。おれの気分の軽さを、感じてくれたんだろう。


「おう、異世界で俺達の救出を待ってくれている人達もいるんだからな」

「じゃあ、いっちょ行くか」


「シャンパン・ブランチ~」

 いっけね、レストラン予約していたんだったぜ。よし、今日はクヌードに先に行くか。明後日に、千葉に帰ってこられるようにしよう。それから、また来週はクヌードだな。それか、うちでのんびりするか。


 神野さんに、こそっと囁いた。

「御免、フライトプラン変更。今日21ダンジョンで、明日が千葉の第5へ」


 神野さんは笑って、運行プランの変更をヘリ運行会社とヘリ管制に伝えてくれた。こんな事はよくある事なのだ。俺の事情は、ヘリ運行会社や各地のヘリ管制、ビジネスジェット機の運行会社や県営名古屋空港や中部国際空港に至るまで、自衛隊・警察と共に、あちこちに打ち明けてある。


 俺は、来た空を、仲間と共に戻っていった。

 そして、俺達はちょっと久しぶりに、クヌードへとやってきた。何故か今回も、マダラが一緒に来ていた。そして、川島にじゃれついている。恐るべし、川島!


 魔物タクシーまで、手なづけてしまうとは。本人はとても楽しそうだ。俺も、何故か心の荷物が軽くなった気がする。


 俺が笑っているのを見届けて、マダラは消えていった。あ、もしかすると、そういう事だったのかな。


「愛されていて良かったじゃないか。さ、行くぞ」

 ポンっと山崎が俺の肩を叩く。

「仕事、仕事!」

「行くぞ、英雄」

 他の連中も俺の背中をどやしつけていく。


「肉球良かったよ」

 幸せそうな川島を見て、俺も肉球ぷにぷにしたかったなとか、ちょっとだけ思ってしまった。


 俺達は、スクードに正式に依頼した。報酬を支払っての、正式な依頼だ。当然、その金は俺持ちだ。日本国政府並びに、日本警察からの正式な依頼の書類も、こちらの形式と文字でプリントアウトされている。総理大臣と警察庁長官の署名入りのものだ。


『なるほど、お前達が所属する国の人間が、ダンジョンで多数行方不明になって、こちらに来ていると。女性は生贄にされる可能性が高いか。わかった、各所に回しておこう』


 スクードは、行方不明者の顔写真と現地語で書かれた名前が載ったパンフレットの山のような束を受け取り、手配をかけてくれた。


 行方不明の日本人が、この街から出てしまっている可能性はあるだろうか。あるいは連れ出されていたとかだと。そこまでは、誰にもなんとも言えない。とりあえずは捜索してもらうほかはない。


 俺は女性陣に買い込んできた御土産を渡した。居合わせた女性冒険者達にも選んでもらったが、残念な事にミリーはいなかった。仕事でちょっと街を離れているらしい。ああ、俺の天使。アンリさんやアニーさんとも、ゆっくり話している時間が無くて残念だ。


 マサにも先に寄って、物資を渡しておいた。

「そうか。生贄か。お前達も大変だな」


「ええ、女性10箇所、男性24箇所ですよ。眩暈がします。一旦行った場所には定期訪問しないといけませんからね。好意的に協力してもらえるところばっかりではないでしょうから。次回訪れる予定の第15ダンジョンは伝もないし。あそこまでは早めに動かないとね」


 マサも早々にお暇した。チビ達のところも寄っている暇がない。御土産はアンリさんに託した。お兄ちゃんに会えなくて、奴らもがっかりだろう。


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