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5-21 オーバーワーク

 俺達は、仏頂面の守山第10師団師団長の前に整列していた。

「ああ、それでは、日本人女性が向こうにいたら、格好の生贄にされる可能性があると。そういう話なんだな?」


「まあ、そういう事になりますかね。ちょっと事情が重たいので、速攻日帰りいたしました。報告しましたので、後はそちらの責任という事で。第1師団師団長にもお願いしてあります。あそこは、首都圏担当ですので」


「そうか。まあ、よくやったというべきか」

 はあ~っ、という音が聞こえてきそうな顔で司令は考えこんでいた。


 こんな話が自衛隊に舞い込んでくるような事態は想定されていないし、部隊に動員をかけてもどうにもならない。溜め息も吐きたくもなるだろう。


 外でパトカーのサイレンが騒がしい。近くで何かあったのか?

 間もなく、ドタドタと警察が、ここへ乗り込んできた。あー、「何かあった」のは、向こうの件ね。第1師団から警察に連絡がいったわけか。司令も警察が来る話は聞いていたようだ。警官達の挙手に俺達も返した。


「ご苦労様です。どうぞ、そちらにおかけになってください。鈴木、お前も座れ」

 俺は当事者扱いですか。


「ああ、愛知県警本部の山田です。階級は警部です。鈴木さんですね? あー、現地で行方不明の日本人が、なんていうか、その、生贄に、されるというか、そのう……」

 言いにくいわな。扱いにくいよね。


「ちょっと外へ出ませんか?」

「は?」

 この時点で、俺が何を言いたいのか、師団長は察したようだ。他の連中も。


 俺は、いつもの狭い演習場で、にっこり笑ってみせた。

「あのう、鈴木さん、こんなところで一体……」


 そして、その直後に、警部とお付きの人達の悲鳴が木霊した。隣接するマンションの人達とかが、なんと思っただろう。


 ここは開けていて、少し大きめのマンションにまともに音が通る。少なくとも、155ミリ榴弾砲FH70の砲声よりは五月蝿くないはずだが。警察が呼ばれていたら、失笑物だな。


 俺はドラゴンを仕舞い、師団長の部屋に戻ると、話を切り出した。

「百聞は一件にしかずとはよく言ったものですが、あれが異世界というものの一端です。

 ご理解いただけましたでしょうか。現地には、まだ日本人が大勢残っておられるのではないかと思われます。

 今回特に焦点を当てるのは、若い日本人女性です。情報をいただきたい。

 私は、一介の民間人ですが、今の所、異世界に関する案件は全てこの私の管轄です。その点はご理解いただけますよう、お願いいたします」


 警部は汗を拭き拭き、俺が差し出したペットボトルの水を飲んでいた。

「は、はあ。驚きました。あんなのがいる世界に日本人がいると。そ、それで、我々もあちらに行くことは可能でしょうか」


 俺は、まるで菩薩如来のような笑顔を浮かべながら言った。

「それは試してもいいのですが、場合によっては、さっきのアレとタイマン張ってもらう可能性もございますが、それで宜しいのなら」


「そ、それは……」

 目を白黒させながら、さらに汗を垂れ流す警部。

「鈴木!」

「あんたねえ」


 だが、俺とあっちへ行った事のある奴らは、半ば冗談には捉えきれない面持ちだ。川島も突っ込みは入れたものの、この警官達の御守まではちょっと、というような顔をしている。警察というのは、自衛隊から貸与された化学防護服に、安全ピンで腕章を留めてしまうような人達なのだから。

 

「とりあえず、不明者リストはありますか?」

「は、はあ、ここに」


 まず1P目の数字。16歳~25歳の女性ダンジョン内行方不明者総数26名。そんなに!? これ、杏は除いての数字だよな。そして、それが10のダンジョンに渡って、分布していた。北朝鮮の拉致に比べれば、まだ分はいいと言えない事もないかもしれないが……。


「む、無理」

 俺は山崎に書類を流した。

「これは……」


 奴も眩暈がしたようだ。合田も覗き込んで絶句した。女性も緊急だが、それだけではない。男性の部もあるのだ。しかも、女性の4倍の数が24箇所に跨っている。都合130名。未報告の分もあるのかもしれないのだ。絶対に無理だ。


「師団長、正直に言って、これは我々の手には余ります。緊急捜索は、行けて1、2箇所がいいところではないかと。後もう一つ大事な報告が。鈴木が完全にオーバーワークです」

「そうか……そうだろうな」


 俺が現役の自衛隊員だったら、休息を強制的に取らされる状態かもしれない。今日も、師団長が俺の顔をちらちら見ながら、少し難しい顔をしていた。


 本来は俺のビジネスに対してアメリカからの要請に答える形であったものが、いつのまにか自衛隊の仕事が主体のようになってきていて、昔のよしみで俺が手伝っている形になってきている。


 その上、警察の仕事まで上乗せになってくるのは、完全にオーバーワークである。俺が機能しなくなったら何もかも手が付けられない状態で、アメリカからもクレームがつく。


「どうする、鈴木。少し休むか」

 うーん、悩ましいな。だが、その前にできるとこまで手配しておきたい。


「師団長、その前にエルスカイム王国とパルシア王国で、捜索の手配だけさせてください。でないと、俺も安心して休めません」


「わかった。そのようにしてくれ。無理はしないようにな。山崎、合田。お前達は鈴木が無理をしないようにフォローを頼む。その間は調査などの仕事はしなくていい」

「「はっ、了解しました」」


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