5-20 不吉の使者
大急ぎで王宮に戻って、すぐにジェイクに面会を求めた。俺の血相を変えた様子から、門兵に呼ばれてやってきた案内の女性も最短コースで案内してくれた。
『お、神殿で話は聞けたか、こっちは……』
ジェイクが按配を説明しようとしてくれたが、俺は上から被せた。
「すまん、緊急事態だ、すぐ国に戻らないといけなくなった」
『それはまた、急だな』
さすがにジェイクも、驚いたらしく眼を見開いた。多分商談の話を用意してくれてあったのだ。
「用意しておいた商品は置いていく。代金は今度頼む」
『あ、ああ。わかった。よっぽど緊急のようだな。わかった。係の者に渡しておいてくれ』
俺は案内してくれた係の人に促されて、大きな部屋というか、広間のような場所にいったので、遠慮なくぶちまけていった。ありとあらゆる、交易想定品を。係の人が目をひん剥いていたが、お構いなしに部屋中に広げていく。
あまりものを考えている余裕がない。とりあえず、置ければいい。なるべく出す時に類別してまとめておいた。あまり、ひっくり返して混ぜたりしないように言っておいた。
後には呆然と立ち尽くす担当者がいたが、俺はさっさとジェイクのところへ戻って、挨拶を済ませた。
「またすぐに来ると思う。その時には協力を要請する事になるはずだ」
『わかった。我が国は、お前に力を貸そう。どの道、あれこれと、ただでは済みそうに無い雲行きだな』
池田が帰りの道順は覚えているので、俺達は案内も待たずに早足で王宮内を退出した。体力の回復とファストをかけてあるので、素晴らしい速度で突き進んでいった。
「じゃ帰るぞ、みんな」
そそくさとランドクルーザーに乗り込んで、出発早々に、佐藤に申し付けた。
「飛ばせ」
「あいよ!」
ガンガンに加速して、大通りを爆走した。広すぎるほど広いので、そんなには困らない。途中で騎兵が追いかけてきたが、千切り捨てた。
事故もなく、あっさりダンジョンに到達する事ができた。さすがは佐藤と池田のコンビだ。もう石畳の走り方を完璧にものにしている。
ダンジョンに飛び込むなり、俺は叫んだ。
「マダラー!」
奴も心得たもので、間髪入れずに現れて、そのままサッカーのダイレクトパスのように、俺達を地球へとスパっと送ってくれた。
俺達は第5ダンジョンを飛び出すと、警備の人間に手で挨拶しながら、そのまま米軍地上駐屯地へと駆け込んだ。
「どうしたスズキ」
エバートソン中将は、のんびりお茶にしていたが、俺の話を聞いて、さすがに思うところがあったようだ。
制服のまま御茶を飲む手つきが、明治時代の日本軍人みたい感じがした。一廉の男って奴だろうか。
俺達はかいつまんで事情を説明した。
「そういうわけなんで、ちょっとしばらくこの問題にかかりきりになります。今回の交易品はエルスカイムの王子に預けてきましたので、エルスカイム産の品については、また今度にでも。それでは失礼します」
俺のそんな様子を見て、中将も危機感を感じたようだ。
「わかった。そのへんは、どの道、入荷次第という事なのだからな。アメリカの民間人がそんな事になっていたのなら、アメリカなら軍を上げて突入するところだ。まあ、お前達も自衛隊なのだから」
俺は違うけどね。
そこから慌しく、まず練馬に寄った。ヘリで緊急着陸した俺達は、慌しく司令部に駆け込んだ。俺の話を聞いて、第一師団師団長も頭を抱え苦悩した。
「わかった、上には伝えておく。警察や内閣の方にも話が行くようにしておこう。それにしても日本人女性が生贄か! とんでもないな。今から守山に戻るのか?」
俺は無言で頷いた。そこから、速攻で司令部を飛び出していく。この間お披露目したドラゴンのインパクトのせいか、俺達が慌しくしているのを見て、すれ違う人みんなが振り返る。
飛行中も山崎は無言だ。ヘリのブレードスラップ音やエンジン音だけが室内を響き渡った。みんな報告書を作成するなどで、いろいろ忙しい。それぞれ思う事しきりだ。
俺達は守山駐屯地の演習場に、不吉の使者のように舞い降りていった。




