表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/232

5―18 愛のニクキュウ

 そして、俺は今マダラに弄ばれていた。大勢の探索者の見守る中で。

「わははは。やめろ、こいつ。やめろってばさ」


 そんな俺を生暖かく見守っている、みんながいた。

 最初はなんとなく、今日のタクシー運転手にマダラを呼んだのだ。あの肉球いいよなあ。癒されそうだなあ。とか不毛な事を考えて。


 向こうについて、車を仕舞い、何気に振り返ったら、そこにマダラがいたのだ。俺はちょっと驚いたが、少し興味が湧いた。今までに、こんな事は無かった。


 すると、マダラは、俺に近づいてきて、掌を差し出した。俺はちょっと驚いた。

「いいのか?」

 いつもは嫌がるのに。


 なんか、マダラがにっこりと笑ったような気がした。じゃ、お言葉に甘えて。ぷにっ。


 おおっ、これは肉球ですわ。紛れもなく。かなりの上物だった。大きいからって、大味なわけではなく、まさにぷにぷに。

 

俺が夢中になっているので、川島が我慢できなくなって、

「お願い、私も!」


 強引に混ざるも、なんとか肉球ぷにぷに権を獲得した川島は攻めた。俺も負けじと、ぷにぷにする。

 何故だろう。ただ、魔物のでっかい肉球をぷにぷにしているだけなのに、なんで涙が溢れてくるのか。


 そうか、俺は癒されたかったんだな。ここのところ、ちょっと厳しかった。本当は一杯一杯だったんだ。


 マダラは、2番目の足で、そっと俺の涙をぬぐってくれた。でかい図体で器用な奴だな。そして、俺をそっと押し倒すと、猫のように揉み揉み攻撃を始めた。

「うひゃひゃひゃ、おい止せマダラ」


 だが、止めないマダラ。端っこの4本の足で踏ん張り、真ん中の4本の足で、俺をもふる。手を変え、足を変え、各方面からもふりまくり、俺を攻めまくった。


 器用にもみまくった。なんか洗濯されているみたいだ。心の洗濯かな。ついには、マダラは仰向けになり、俺を腹の上で「あやして」いた。


 大広間に俺の絶叫的笑い声が、響き渡った。

 やがて頃合を見て、マダラは俺を降ろすと、起き上がる。そして猫のように、んーっと体を折り曲げるような感じで大きく伸びをした。それから、いつものように消えていった。


「うーん、何だったの……」

 川島の呟きだけを残して。


 だが、俺のスッキリした顔を見て、山崎も少し笑みを浮かべて、号令をかけた。  

「さあ、行くぞ。俺達の仕事はまだ終わっちゃいない」


 宮殿で、ジェイクこと王太子エルリオットが出迎えてくれた。

『迷宮の大広間でお楽しみだったそうじゃないか』

「なんで、知っている! 早馬でも飛ばしたのかよ」


 やれやれ。なんかの魔道具で通信したのかな。いつかこの王子、マダラにもふらせてやろう。10匹がかりはどうだ? 癖になるぜえ。


『今日の用件はなんだい?』

 意外と優雅に、王子様スタイルで足を組んだまま聞いてくる。


 こいつも、こうやっていると様になるよな。表情も穏やかで、優美なものだ。目鼻立ちは整っているから、なかなかの王子っぷりだ。けっこう、川島の奴がチラチラと見ている。


 金髪と深い藍色の瞳、手はこうして観察すると思ったほどごつくないな。探索者スタイルだと、なんか色々とゴツくみえる。地球の王子様で美形な人って、殆どいない気がする。


「ああ、まずは交易。それと、例の件についての調査だ。まず神殿に行ってみようと思う。何かの手掛かりがあるかもしれん。新旧主神の神殿に紹介状を書いてくれ。あと、念話持ちを1人用意してほしい。言語習得のためだ。ほかに何か、あの騒動のヒントになる事でもあれば」


『わかった、用意しよう。何かわかった事があったら、こちらにも知らせてくれ。神殿の紹介状を先に書こう。後はその間に。夕方までには帰ってきてくれ』

「了解した」 


 王子は、さらさらっと手紙をしたためてくれ、さっと赤い蜜蝋で封印をした。

 いいな、あれ。俺もネットで買ってみようっと。あ、こっちでも売っているかな。


 そういうわけで、神殿を目指すことにした。念話で確認しながら、書いてくれた地図を持って、目指している。日本語で色々書き込みをしておいたから、大丈夫だろう。


 ここの神殿はまた、どこにそんなお金があるのかと思うような、豪奢な作りだった。けして華美なわけではないが、妙にキラキラしていて、逆にありがたみがないな。まあ、この街そのものにそういう雰囲気はあるわけなのだが。


 受付で王子の紹介状を渡すと、若い神官の女性が案内をしてくれた。まだ10代後半に入ったばかりなのではないだろうか。非常に神々しい感じがする。うーん、こういう女の子もいいな。ハッと気がつくと、川島がちょっと睨んでいた。


 スッと近づいてくると、小声で囁いた。

「馬鹿ねー、神官の人に色目使ってるんじゃないわよー。何しに来たのよ、あんた」


「そんなの、神官の美少女を見学に来たのに決まっているじゃないか。お前こそ、何を言っているんだ」

 川島は呆れ返ったが、件の神官は、チラっとこちらを見て軽くクスっと笑った。


 こういう事は珍しくもなんともないんだろう。この世界の神官は別に神様と結婚するわけではないので、普通に恋愛するという。俺にもワンチャンスありだ。


 奥へ通されて、まだ壮年といえる年代の司祭さんが対応してくれた。

『これはようこそ、アレイラ・フォロニック大神殿へ。今日は何の御用でございましょうか。私は、ここの司祭でアルドニクと申します』


 王族の紹介なので、とても愛想がいい。

「そのお、迷宮で行なわれる儀式、それをやっている邪神派の過激な連中、聖魔法などについて知っている事がありましたなら、教えていただきたいのですが」


 そういうと、司祭さんは顔を曇らせた。

『それにつきましては、我がフォルニック派の恥を晒すような物なので、あまり語りたくはないのですが。わかりました。王子の肝煎りでやってきたあなた方に黙っているわけにはいきますまい。選ばれし者よ』


 あ、また言われた。選ばれし者。それは一体なんなんだ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ