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5-16 驚天動地

 そして、翌朝。驚天動地とは、まさにこの事だった。なぜなら、俺達の目の前に、件の将樹なる男がいたからだ。全員、目が点になってしまった。


 それを尻目に、将樹とかいう小僧は、おっさん達に揉みくちゃにされていたのだ。


「山さん、うっちゃん、痛い、痛いっすよ~」

「馬鹿野郎、痛いのは生きている証拠だ」

「全く心配かけやがって」


「いやあ、だって。生きているのは奇跡だよ。2人こそ、よく生きていたね!」

「いやあ、よかった、よかった」

「あっはっは。うわっはっは」


 なんだ、そりゃあ。どうなっているんだ。

「あ、自衛隊さん達、来てくれたんですね。ありがとうございます。いやあ、自衛隊、頼りになるなあ」


 また、えらい晴れ晴れとした顔でおっしゃる。こっちは目が死んでいるんだけど。

「おい、ジェイク。これは一体どういう事だ」


 俺は、連中をにこにこしながら眺めていた糞王子に怒りのやり場を持っていく事にしたのだが……。  


『なに。お前らに聞かれたんで、そのマサキとかいう男の事を調べさせただけなんだが。写真とかいうのも、もらってあったし。何かまずかったのか?』


 うお、よく考えたら、大概の日本人は、そのままこっちに来ているんだよな。そういや、おっさん達は悲鳴も聞いていないって言っていたっけ。


 俺はでっかい溜め息を吐く以外にする事がなかった。

「なんだったんだ」

 池田の虚しい台詞が、朝の王宮に響いただけだった。


「ああ、心配しちゃって馬鹿みたい。あ、すいません、これの御代わりお願い」


 念話を自在に操り、自衛隊駐屯地では絶対に味わえない朝飯を、心ゆくまで堪能している川島を見て、女は逞しいなと思った俺達だったが、負けずに腹ごしらえをする事にした。


 俺と山崎が通訳となって、朝飯を堪能する自衛隊の猛者ども。勉強と思って、自分で現地語を使って注文して、うっかり皿に山盛りの虫料理をもらってしまって涙目の合田。


 爆笑する国王陛下。おお! 親睦が深まったじゃないか。お前の犠牲は忘れないぜ。


 だが、それで終わらないのが自衛隊だ。みんなで、合田の皿からつついて試しにかかった。しまいには川島まで怖いもの見たさでフォークを伸ばす。


 これは! 意外といけるやないか。いや、かなり美味いんと違うか? じきに全員で争奪戦になったので、自動的に御代わりが届けられた。


 将樹っちには、それが馬鹿受けだった。

「いやあ、自衛隊最高だなあ。どこ行っても戦えますね」

 かくて人質奪還、いや魔物による日本人拉致事件は、少なくとも依頼分は無事解決され終了した。

『お前達は、もうここには来ないのかね?』

 国王陛下にそう聞かれたが、

「とんでもない。せっかく、こんな世界一の王国首都に遊びに来られるんだから。美女だって、いっぱいなんだし」

 おっと、いっけね。つい、本音が。

 自衛隊メンバーからの白い目とは裏腹に、国王親子の痛快な笑い声が、王宮の王族専用食堂に木霊した。


 それから、俺達は国王達に見送られて、王宮を後にした。

 そして、3人の行方不明民間人を無事に保護した俺達は、マイクロバスで帰途についた。


 俺達は1時間後、練馬の第1師団司令部で、感動の親子の再会を見つめていた。先に連絡を入れておいたので、親父さんが迎えに来ていたのだ。お袋さんは、早くに亡くなったらしい。


 会社のおっさん達は鼻をぐすっと言わせ、目を潤ませていた。

「それでは、師団長。俺達はお暇させていただきます」


 敬礼して挨拶をする。おっさん達は、捜索願いが出ていたので、千葉県警が迎えに来てくれていたようだ。将樹君も含めて、事情聴取を行なうらしい。


 担当者に合掌だな。かなり苦労するだろう。彼らの供述を頭で受け入れるようになるまでが大変だ。嘘でもなんでもないのが最初からわかっているから、余計にキツイだろう。


「ああ、君達ありがとう。この恩は忘れないよ。名古屋の師団長にも宜しく言っておいてくれ」

 親父さんの感謝の眼差しに見送られて、部屋を退出した。


 俺達は、滅多に来ない隣接方面区の司令部を後にして、外の空気を吸った。

「ん~、やっぱ娑婆にほんの空気はいいわねえ」


 自衛隊用語だと、娑婆とは駐屯地を出た世界の事だがな。この連中、最早世間どころか自衛隊のような特殊な集団の常識からも外れ出しているようだ。その元凶は間違いなく、この俺なのだが。


「いや、異世界だって悪くはないぞ。なんだよ、あの虫の美味さは。ありえん。虫型の魔物なんじゃないのか? 俺は、絶対にレポートに書くと決めたぞ」


 全世界の美味い物など食い飽きてしまった大富豪達が、昨日の俺達のように異世界の虫料理を、大金握り締めて奪い合う姿を思い浮かべてしまった。いいかもしれないな。自分が取ってくる立場じゃないのなら、俺も参加したいところだぜ。


「また、おかしなこと考えているわね? まあいいけれども」


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