5-13 迷宮王都
俺達は、一旦外へ出て、あたりを散策する事にした。広場も本当に活気がある。店の数も客の数もクヌードとは段違いだ。
歩いている人の服装も垢抜けている。それでも、なんとなく民族衣装っぽいものも多いな。それらも、かなり色鮮やか色彩豊かではあった。
「賑やかね~」
川島はお気楽なお散歩モードだ。こいつは本当に順応性が高いな。アイテムボックスに装備満載だし、言葉が通じるので気楽なとこもあるが、なんたって異世界である。度胸満点だぜ。
さすがに迷彩服はもう止めにしたので、それもあるのだろう。奴も、この世界に即した服装をしている。厚地の布の服に、細身の剣を帯剣している。
マントは羽織らない。街行く人も羽織ってはいない。季節的なものもあるだろう。女だから細身のレイピアのような武器だが、これはミスリルで作ってあるので簡単には破壊されない。
ここでは、それ以上の素材も見つかるかもしれない。ちょっと期待しているんだけど。
やがて大通りを眺められるところまで出たら、みんなそれを見ていた。王都マルシェにも、こんな道は無い。相変わらず、交通整理の人が頑張っているようだ。
「道路は広いな。石畳というか、石舗装というのに近いか。これだけ広くて、道も広いから走りやすそうだ。おい、車はどうする?」
佐藤のアホが、道路の流れを推し量るように見ながら訊いてきたが、そんなものは最初から決まっている。
「馬鹿野郎。ここがどれだけ広いと思っているんだ? クヌードみたいな辺境ですら、外に出るまで大変なんだから。ここで車使わなかったら、毎日が行軍なんだぞ?」
みんな揃って、大きな溜め息をついた。それは嫌なようだ。自衛隊だって、毎日行軍ばっかりしているわけではないのだ。俺は、この種の問題が持ち上がる度に、デメリットとレンジャー訓練の地獄の行軍を計りにかけていた。
「多分、こんなに広い都市を、どこの国も平然と作っていられるのは、高度な魔法技術があるからだ。土木・材料形成・メンテナンス。都市の命である水供給など。多分下水も整備されているはずだ。ここは魔法がある分、おそらく地球のローマ時代とかを超えているんだよ」
みんなも周りの景色を見回して、何か納得したみたいだった。
この王国は、なんとトイレが水洗だった! 少なくとも、ギルドや王宮はそうだった。
ローマ帝国のそれとは違い、地球式のタイプだ。魔道具だけどな。手洗いの水道も完備されていた。地方に行ったら、この国でもどうなんだろうなあ。日本人としては非常に気になる。
「わかった。車で移動しよう。俺は話せないから、トラブルになったら任せたぞ」
「ラジャー、心配すんな。いざとなったら、ジェイクの威光で押し通す」
「ジェイク?」
みんなに首を捻られたので、一応説明しておく。
「ああ、この国の王子様だ。本名は、エルリオット。エルスカイム王国王太子エルリオット殿下だ。みんな粗相がないようになー。今日は王様にも会う予定だぞ」
「またかよ。俺達、こんな格好だぞ」
青山もぼやく。
「部屋くらい貸してくれるだろ」
「そう願いたいな」
「じゃ出発進行ー」
ランクルを出して、さっさと乗り込む。バスの方が広くて快適だが、佐藤の負担が増えるから、この人数ならこれだな。次はまたバスの出番かな。もし杏を入れると、8人になる。ガタイのいい奴が多いんで、8人乗りのランクルでも厳しい。
ドライブレコーダーやビデオカメラの画像を元に合田がマップデータを取り、簡易な地図を作成していく。ダンジョン用の位置表示システムをつけたので、それで表示をできるように加工していく。
と、いきなり騎兵が来て止められた。
「おいでなすったぞ。肇、後は任せた」
『お前ら、それは一体なんだ。馬もいないのに、何故走っている。出て来い』
俺は、よっこいしょって感じで車を降りると、ある物を見せた。
「俺達はエルリオット殿下から仕事を請け負っている。これは、最新の魔導馬車だ。こいつの使用も含めて、俺達に便宜を図ってくれるように書いてあると思うが」
『これは!』
ジェイクに頼んで、その手の親書を書いてもらっておいたのだ。早速役に立っちまったぜ。
『わかった、行っていい。だが、お前達かなりの速度を出していたようだ。事故になるといかん、もっとゆっくり走れ』
佐藤が、あっちゃあという顔をしていた。
「時速30キロ以下に抑えていたのだが駄目だったか」
「まあ、普通の馬車が時速5キロくらいだからな。まあ、ゆっくり行ってくれ」
「佐藤っち、安全運転でお願いねー」
王宮は、ダンジョンから少し離れているので、不便だ。それでも10キロ程度であったらしい。30分ほどで着いてしまった。門の前では、色々な人が出入りしていたが、ここでも止められた。
昨日は車を使っていなかったしな。面倒なんで、車はもう収納した。どの道、王宮内を車で走るのは無理だろう。別にたいした危険があるわけではない。
王子を呼んでもらうように頼んだが、女性がやってきて案内してくれた。インドのサリーのような感じか。あまり肌を出さないような格好をしていて、頭にもショールみたいなのを被っている。それで口元を隠しているので、よく人相がわからないような感じだ。
王宮にそんな人がいていいのか? まあ日本でもマスクした人とかいっぱいいるけどな。
お姉さんの後をついて、おのぼりさん宜しくついていく俺達。
俺は昨日来たけど、他の奴らはキョロキョロしながら歩いている。王宮の造りも立派だ。多分、マルシェの王宮と比べると、伯爵家と公爵家くらい格が違うのではないだろうか。
この国の特色として、何か作りがこう現代的にピチっとした感じなのだ。探索者ギルドもそうだったが、ここは更に加えて3倍ほど高級感が増している。金がかかっているのだから、当り前かもしれないが。その代わり異世界感は、薄くなってしまっている。
なんていうか、ちょっと金持ちな外国に来ましたよって感じだろうか。俺達日本人には、こちらの方がしっくりくるが、どっちかというとマルシェの方が異世界感に溢れていて好きだ。
あちこち歩かされてよくわからないが、保安上わざとそのようにしているのかもしれないな。少々歩くのは歓迎だ。
やがて、彼女は黙ってある部屋の前で止まり、中に入るように促した。そして軽く礼をして立ち去っていった。大変上品な所作であったので、貴族家のお嬢さんか何かかもしれないな。
ちぇっ、顔が見たかったな。目元鼻筋は彼女が相当美形であったのを指し示していた。
『おい、何をやっているんだ、いるんだろ? 早く入ってこい、スズキ』
あら、催促されちゃったよ。
「ちわ~」
あ、ヤベ、王様いたよ。気軽に挨拶しちまった。
後ろから川島に後頭部を叩かれた。合田が膝をつこうとしたが、王様が手で止めた。
『よいよい、こちらの都合で呼びつけたのだ。お前達、食事はまだだろう。席につきなさい』
王様はにこにこして、誘ってくれた。
おお、好意的な出会いになった。やっぱ、これって俺のファインプレーじゃねえ? なんて思っていたら、川島が軽く睨んでいた。ハイハイわかりましたよー、調子に乗ってサーセン!
「それでは、お邪魔いたします。慣れぬ移動でしたので、食事を取っている余裕が無くて」
他の人間も軽く礼をして、席につく。
『皆、よく来てくれたな。心より、感謝する』
王様はにこやかに挨拶をしてくれた。金髪青い目で、でぶっていたりはしないが、痩せぎすでもない。脱がしてみたら凄いかもしれない。
へたすると、自らダンジョンにも潜っているのではないだろうか。息子を見ているとありうる。軽く口髭を生やし、どっしりとした物腰だ。目は穏やかな光を湛え、理知的に見える。
なんとなく見ていて安心できるタイプだ。




