5-11 お披露目
全員、見事に整列していた。ここは制服の人も多いな。すぐ近くに朝霧駐屯地もあるわけだし。こういう行事は、早く来すぎると「自分の時間は大切にしろ」と、逆に怒られる事もあるが、今日は別らしい。
「全員楽にしてくれ。実は、ここにいる鈴木君が良いものを見せてくれるという事で、急遽集まってもらった。知っている者もいると思うが、彼はダンジョンを越えて異世界へと向かい、そして帰ってきた者だ。
我々の知らない世界を見てきている。そして、彼はかつて自衛隊員でもあった。そういう観点で見せてくれるというか、諸君に是非見てもらいたいそうだ」
全員が俺を注視している。課業の邪魔をされて不快という意味ではなく、それなりに好奇心があるのだろう。「自衛隊だからこそ見せたい」という点において。うん、満足だな。
「で、鈴木君、何を見せてもらえるというのかね?」
「ああ、ちょっとそのへんの人、危ないからどいて~。ああ、もっともっと。では、これです」
そして、俺は出して見せた。あのドラゴンを。ドーンっと。その姿はまさに、ゲームやアニメなどで見かけるバハムートそのものだ。全長50メートル。若葉マークみたいな形をした訓練場のど真ん中を、大怪獣いや竜巨人が見事に占領していた。
どよめきが起こった。数百名×2の眼が、かつて無いだろうほど見開かれた。
「まさに怪獣だな」
「バハムート……」
「自衛隊がやられキャラになるんじゃないのか?」
「また、とんでもないものを……」
「どっから出しやがったんだ……」
もっともな意見だ。俺にだって、よくわからんのだが。世界の狭間って、どこだよ。
全員が、その突然出来た小山をガン見している。
俺は他にも大型魔物を色々出してみた。皆厳しい表情でそいつらを検分していた。主にそいつらとの戦闘についてだろう。
「これが、そのまま溢れ出して、迷宮から飛び出していくというわけではないかもしれません。ここにいるのは、ほんの一部のものに過ぎないでしょう。私が旅した僅かな地域の遭遇物に過ぎません。
ですが、ダンジョンの被害は拡大する可能性を私は否定できません。異世界は今危機が捲き起ころうとしており、その結果そうならないと誰にもいえない、そんな状況であります。
一番マズイのが、ここの管轄である第5ダンジョン・アレイラ。
あの迷宮都市アレイラを首都にいただく、世界一の大国エルスカイム王国。
そこの王太子は自ら魔物狩りに行くような男ですが、その男をして、このアレイラ・ダンジョンは危険だから奥へは行かないと。
そんな物が、東京から直線距離にして、僅か60数キロの地点にある。
このドラゴンならば、わずか5分足らずで到達するでしょう。しかも、こいつら飛行魔物は、速度をブーストする魔法を使いますので、実際には1分足らずで東京上空に現れる芸当も出来ます。
そして、我が国の首都をさほど時間もかけずに灰にしてみせるでしょう。太平洋を越えられれば、2~3時間後にはロサンゼルスが灰になっているかもしれません。
果たして米軍や自衛隊にこいつを撃墜できるだろうか。こいつは都市災害級と呼ばれます。21ダンジョンの裏側にある迷宮都市クヌードを壊滅させられるといます。通常の対空ミサイル程度では、こいつのスピードに追いつけないでしょう。
当然マッハ2.5程度の戦闘機は、基本無力化されます。こいつを撃墜するには、超強力なレーザー砲かレールガンのようなものが必要でしょう。移動速度が尋常でないので核兵器でも倒せるか怪しいです。
ダンジョンが拡大すれば、こんなようなものが中から出てくるかもしれません。そういう心構えを是非この司令部の皆さんに持っていただきたいと思い、本日お集まりいただきました。
ご清聴ありがとうございました」
そこには、顔面蒼白になった首都防衛隊の皆さんがいた。沈黙が痛いな。
「す、鈴木君、いやまったく。異世界とは、とんでもないところだな」
師団長も青い顔して、ネクタイを緩めながら汗を拭いている。この人の場合は、身内が向こうにいるから余計にだろう。
でも、備えるだけは備えておいてほしい。相変わらず、向こうの情勢がよくわからない。現地にある世界一の大国の王族にわからない事が、俺にわかるはずがない。
「じゃ、肉が痛みますから、そろそろ仕舞っておきますね」
多くの隊員が俺の方をジト目で見ている。
やだな。そろそろ、保健所で食中毒撲滅キャンペーンの横断幕が掲げられる頃だぜ。当然の措置だと思うが。魔物肉は魔力が篭っているせいなのか、腐敗しにくい。
比較的南方にあるクヌードでも、地球みたいに簡単に腐ったりはしない。熟成しにくい難点はあるが、魔法で処理したりするらしい。俺も一応やり方は教わってある。食に関しては妥協するつもりはない。
それでも、生のお肉を出しっぱなしは良くないと思うの。
「ドラゴンはどこの部位が美味いんだい?」
「ちょっと焼いてくれ、尻尾のとこでいいから」
「レアで頼むよ」
これくらいの反応は期待するよな、普通。
「それで、向こうの方はなんとかなるのかね?」
「さあ。何せ、全世界入り乱れて、主神交替を巡って大騒動をしているんです。どこの神殿も王様もお手上げみたいですよ。
神様関係なくて、貴族だとかなんかの奴等がそれぞれの利益のために、あっち付いたりこっち付いたりって感じで大立ち回りしていますから。
なんか、いつもと違って黒幕みたいなのがいても、おかしくないみたいですし。
何しろ向こうの世界でも1000年ぶり以上の緊迫した事態なので。さっきのドラゴンだって、どこかの何者かがけしかけた奴なのかもしれません」
師団長は、余計に頭が痛くなったようだった。
だって、本当の事なんだよなあ。俺も、あっちの騒ぎをなんとかしろなんて誰にも言われてない。
調査とビジネス、そのついでに日本人の動向を見たりしているだけで。今回も人探しを頼まれたので、ビジネスのついでにやっているだけなのだ。
ヘリのブレードスラップ音が近づいてきて、頭上でホバーリングして降りてきた。朝、頼んでおいたので、呼んだらすぐヘリが来たようだ。特別に近くの朝霧訓練場においてもらってあったのだ。あそこはたまにヘリの発着に使われているので、許可を取ってもらった。
「じゃ、皆さん。私は帰りますね。今から第5ダンジョンに行き、守山の連中と合流して、また異世界へとんぼ帰りです。では師団長、帰ってきたら、また報告しますよ」
エバートソン中将も待っていてくれる予定だし、山崎達もそのうちには着くはずだ。本来、山崎も自衛隊での運行資格(MOS)を持っていないので、免許があっても就業中にヘリを飛ばす事はできないはずなのだが、特別扱いになっていた。資格が緊急発行されているのかもしれない。
こちらで手配しなくても、勝手に集合してくれるので助かる。日本国内でのダンジョン間移動はヘリが最適だ。現地だと、とんでもなく離れているだろうからな。




