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5-10 自衛隊練馬駐屯地

 朝一番に師団長からメールが届いていた。

「お前の話を聞きたいと、例の、その、不明者の叔父から話があった。時間は取らせないと思うから、会ってやってくれないか」


 その場で師団長に電話を1本入れてみた。すぐに出てくれて、

「おお、鈴木か。朝っぱらから悪いな」


「いえ、どうという事はないですよ。それより、会うのなら午前中に会いたいですね。午後からエバートソン中将に渡すものもありますので。そうしないと異世界への出発が遅れます。一応、他の連中には今日には出かけたい旨、連絡してありますが」


「ああ、わかった。今日会うのに、何時くらいならいいんだ?」

「今から朝飯ですから、そうですね、8時には浦安を出発できます」


「わかった。司令部のある練馬駐屯地に向かってくれ。車があるんで、本来なら首都高で行くといいんだが、朝はひどく渋滞する。東京メトロの東西線浦安駅から乗って、飯田橋で有楽町線に乗り換えて平和台で降りてくれ。頼んだぞ、電話番号は……」


「了解です。じゃあ、飯いきますので」

 ささっと、バイキングの朝食会場へ行って山盛り食べた。さすが一流ホテルだけあって、美味いな。荷物は全て回収してあるので、そのままホテルを出る。


 車で浦安駅までなんとか行って、地下鉄に乗った。もうピークを越したと思うが、まだ結構な数の乗客がいた。それでも9時過ぎには、平和台駅に降り立つことは出来た。ここから練馬駐屯地までは歩いてすぐだ。


 駅側の南門で用件を伝えて、連絡してもらったが、反対側の正門から入った方が司令部の建物だったようだ。そりゃあ、そうだよな。


 直に案内の人が車で迎えに来てくれた。司令部付きの一尉の人だった。重要な連絡事務は、どこもやっぱり大尉さんの仕事かな。ピシっと制服を着てらっしゃる。


将樹まさきさんの件でいらしたんですよね」

「ええ、捜索を依頼されたので、昨日下見に行っていたんですよ。何しろ、どこに通じているかわかんないですからね」


「あのダンジョンの向こうに広大な世界が広がっているなんて」

 仮にも首都圏の平和を預かる第1師団の司令部とすれば、もしあのダンジョンが膨れ上がり東京を飲み込んでいくなんてことが起きるとすれば、それは悪夢以外の何物ではない。


 その可能性があるというだけで嫌な汗が止まらないだろう。その可能性をもたらしているものが、この俺のレポートであるわけなのだが。


「あはは。慣れれば、冒険も楽しいですよ。50メートルのドラゴンともやりあいましたしね。あいつら、いきなりブレス吐いてくるから困ったもんだ」


 大尉は目を丸くして、「信じられん、こいつ」みたいな目でこっちを見た。普通の人にはわからないだろうけど、自衛官ならわかってくれる。


 風車に突撃するドンキホーテ扱いでも、否定はできない。生憎な事に相手は風車の竜ではなく、本物のドラゴンなのであるが。


 普通なら155ミリ砲のFH70をがっつり並べて、戦車部隊で対峙。その上で、大型の対空ミサイルや戦闘ヘリを持ち出す案件だ。


 自衛隊は、155ミリ砲があれば某有名怪獣でも倒せると言ったらしいが、それはどうなのだろう。実際に某有名怪獣並みの図体をしたドラゴンと対決した身の上としては、やや疑問が付きまとう。


 空自の戦闘機の支援があれば、なお良し。出来れば爆撃か、空中にいる間に大型対空ミサイルで落としたい相手だ。


 街中に来られると対処に困る。個人的にはトラップを仕掛けておびき寄せて爆破も悪くない。まあ、俺なら20ミリ砲があれば、片付く案件ではあるが。


 連れて行ってくれた建物に入り、師団長のところへ案内された。

 壮健な50代の男性が、にこやかに挨拶してくれた。確か、この役職の階級は陸将のはず。まだ髪が黒いのはたいしたもんだ。俺は将来どうかなあ。禿げるよりは絶対マシ!


「やあ鈴木君、初めまして。よく来てくれたね」

「いえ、ついでですから。昨日向こうへ行ってきましたよ」


「ああ、その事を教えてもらったので、是非話を聞いてみたいと思ってな」

「そうですね。いい機会だ、この首都を守る第1司令部の皆さんにも心構えをしていただけたらと思います。時間的に課業の途中ですが、後で全員集めていただけませんか?」


「あ、ああ。それは構わないが……」

 第1師団師団長は、やや怪訝そうな顔で俺を見た。まあ、そりゃあそうだろう。

 その場で部下に電話して、手配してくれた。


「ああ、私だ。今から30分後に隊員全員、南門前訓練場に集まるように。どうしても手が離せないものはいい」


「あ、来ないと後悔すると言っておいてください。いいものを見せますから」

「なんでも、来ないと後悔するそうだ。いい物を見せてくれると。今日は異世界帰りの例の彼が来ている」


 俺は、ただ、にこにことソファに腰掛けて待っていた。

「それで、向こうはどうだったかね」


「第5ダンジョンの向こうは、ものすごい大都会でしたね。世界一の街だそうです。

 へたすれば、直径100Kmあるかもしれません。東京23区がすっぽり入りますわ。

 いるかどうかわからない人間1人捜索するのは、非常に困難です。探してもいないのに、見つかる方もいるわけですが。

 王子様ともお近づきになれたので、協力の約束は一応取り付けてはきましたが。あまり期待しないでくださいね。

 今日向こうへいったら、多分王様に会いに行く事になるでしょう。一応、お願いはするつもりですが、どうなりますやら」


 話を聞いて、第1師団師団長は、ふうっと息を吐いた。

「いや、充分だ。それ以上など望むべくはない。向こうの様子が知れるだけでも、なんていうか、弟は……いや、私事で本当にすまん」


「遺留品だけ見つけて、捜索したものの、全く見込みの無い方もいましたからね。その方も、向こうへは無傷で辿り着いたそうですから。

 生きて向こうへ辿り着いた可能性は高いのです。魔物達が、なんていうか、見込みがあるような人間を連れて行くだけなので。後のアフターフォローが無いのは難点ではありますが」


 杏の会社の人は死んでしまったらしいから、絶対ではないけれど。 

「そうか……」

「あと、そうですね……」


 10分前には部屋を出て、訓練場へと赴いた。狭い駐屯地なので、すぐに着いた。なんか、ここの方が狭いような気がするんだが、ここの訓練場が狭いし建物が多いからそう感じるだけだな。ネットで見ても、守山の隊員に聞いても、あそこが一番狭いと言っている。


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