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5-7 地球ご飯

 俺達は王宮奥の、王族のプライベートゾーン、いわゆる後宮と呼ばれるようなゾーンにいた。こういう部分は国や時代によって異なると思うのだが、ここでは王族の生活ゾーンという定義のようだ。それを支える、たくさんの人がおり、男子禁制とかそういう事はない。


 俺達はそこの一角、ジェイクいや、王太子エルリオットの私室にいた。私室というよりは、王子様ゾーンと呼んだほうがいいかもしれない。


 縦横高さ、その中に俺の部屋がいったい幾つ納まるのか見当もつかない。比べるだけ、アホってもんだけど。


「で、俺をこんなところにまで連れてきたんだ、上等な昼飯くらいは出るんだろうな」

『お前らがどんなものが好きなのか、よくわからんが』


「じゃあ、昼飯は奢ってやるよ。毒見役を用意しろ」

 俺はそう言うや否や、テーブルの上にあれこれ並べてやった。


「あうう、ハンバーガー、ピザ、牛丼~。コーラだ~」

 食い物を抱きしめて、涙垂れ流している奴がいた。


『そんなに泣きたくなるほど恋しい食べ物なのか』

 王子様は異世界の食い物に興味津々のようだ。


 杏の奴は、「いっただきまーす」と言うが早いか、目の色変えてぱくついていた。こいつ、ちょっと可愛いなとか思ったのに。芽生えたばかりの、恋の若芽が醒めちまったよ。


『ふむ。なかなか面白い味付けだな。こちらは、付け合せの芋か。なかなかいける』

 ハンバーガーを齧りながら、王子様が率直に感想を漏らす。


 女騎士の方は、迷わず牛丼をゲットしたようだ。ガッツリ系! 醤油の香りに魅せられたようだ。通だね。


 おばちゃんは、あれこれと試しているようだ。

 俺は試食用に、お湯を入れたカップ麺を用意しつつ訊いた。


「なあ、お前って、なんで探索者ギルドにいたの?」

『迷宮都市を首都に持つ国の王太子にそれを訊くか?』


 愚問だったのか。それは悪かったな。カップ麺用のキッチンタイマーの数字を横目で睨みつつ、俺は牛丼を掻っ込み始める。


『御代わりっ』

 女騎士の注文に、さっと応える。こう見えて、牛丼屋でバイトしていた事もあるんだ。

「へい、お待ちっ!」

 おしんこはサービスだぜ。卵もつけたよ。


 キッチンタイマーが電子音を奏で、激しい自己主張を行なった。大盛りカップ麺が出来上がるお知らせが届いたので、キッチンタイマーの息の根を止めながら、小さめの紙食器のお椀に取り分けた。杏以外は、プラスチックのフォークだ。


「久々のカップ麺、めちゃ美味しい~」

『美味しいですね、これ』

『いけるじゃないの』


 女性陣には馬鹿受けだ。

 毒見役がもっと欲しそうな顔をしているのを見ながら、ジェイク(もうこれでいいよな)は、まず汁を啜り、目を見開いて麺に手をつけた。食い方が通だな。


『なかなかのものだな。他にもあるのか?』

「ああ、山ほどな。俺より、そっちにいる日本の首都に住んでる女に聞いた方がいいんじゃないか? 俺は田舎の住人でな」


 カップ麺は塩分がかなり大目の食い物だけどな。でも、大富豪になっても、やめられねえ!


 自衛隊では、演習用の糧食が食いたくなくって、自費で大量のカップ麺を用意していた連中もいたくらいだ。


 1回加熱した缶飯を食わずに返却するんじゃねえよ。それを何回もやられた「大当たり」の奴は、カチカチで食えたもんじゃねえ。固まってフォークが刺さらない缶飯って一体なんだ。


「ぶー、貧乏人は東京に住んでいても、そんなに美味しい物なんて食べてませんって。名古屋の大金持ちの方がいいもの食べてますよ~」


「カップ麺の銘柄と自衛隊糧食になら自信はあるがな。あいにく、こっちも成金なんだよ」

 そんな俺達を、この世界一番の国の王族関係者が、微笑みながら見守っていた。その王宮の真っ只中で。何をやっているんだろうな、俺は。まあ、この杏を連れて帰れば、今回の面目は立つかな。


『お前達は明日帰ってしまうのか?』

「まあ、そうだけど、また来るよ」


『ふむ、それはどうして』

「そのへんは、色々あってね。話すと長いぞ」


 ジェイクは俺の話を聞きたいようだった。まあ、どうしても聞きたいというのなら。

 食後の、利きペットボトル飲料をしながら俺の話を聞いて、ジェイクいやエルリオット王太子殿下が頭を抱えた。


『すると、何か。世界中の迷宮どもが困ってしまって、お前の世界に救いを求め、やってきたというか連れて来られたのが、お前だと?』


「まあ、そういう事らしいんだが。俺もよくは知らん。魔物に訊いてくれよ。なあジェイク。聖魔法について、何か知っているか?」


『また、やっかいな話だ。半ば伝説の中の話になるぞ』

 顰めっ面を隠すこともなく、ぼやくジェイク。


「なんでもいいから教えてくれ。こっちはその伝説すら知ってはいないんだ」

 ふう、っと息を吐いて、王子様は清涼飲料水を満たした紙コップを揺らしながら言葉を継いだ。


『あれは前々回の主神交替があった頃の話だ。

 世界は動乱に満ち、この世の終わりかと思われた時代、彼らはやってきた。聖魔法の使い手たちが。

 彼らは別の世界からやってきたと言われている。1000年の昔とも、もっと遡るとも言われておる。

 おろかな儀式で、己の欲望を満たそうとしていたものを、彼らはその力で討った。


 そして、彼らはその力で迷宮を元に戻し、世界の均衡を図った。そして、前回の主神交替では、前のようにはならずに穏やかなものになった。今回の主神交替もそれに倣った。

 だが、事ここに及んでそれをひっくり返そうとする者が現れた。今更な。その詳細は不明だが、彼らは邪神派を名乗る者の背後にいるのだと。

 この世界の王で、主神の逆行など望むものはおらん。誰の利益にもならんのでな』


「不可解なのは、今までその勢力に組みしてはいない者達までもが次々に邪神側についている、って事でいいのか?」


『そういう事になる。お前達の世界では、聖魔法が盛んなのか?』

「いや? 俺の知る限りでは、魔法なんて物語りの中以外にないぜ」

 王子は目を見開いて叫んだ。


『なんだと? お前は聖魔法を使えるといったではないか』

「こっちへ来てからな。適性検査で判明した。思うに、俺達の世界には魔法は無いけれども、聖魔法の適性のある人間がそっちよりもいると。そして必要になったら、ダンジョン、あるいはダンジョンの魔物が連れてきていたんじゃないのか。ダンジョンって、一体なんなんだ?」


『めちゃくちゃな話だ。しかし……』

 王子は左手の親指を口で咥えながら、考え込んでいた。

『スズキ、父と会ってくれないか?』


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