表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/232

5-3 世界地図

 ここでは、紹介状も何もない。慎重に振る舞うところだろう。広場の喧騒に身を任せ、探索者ギルドの旗を見つけたので、そちらへ早足で歩いていった。


 このマークは大体どこも共通だと聞いた。赤地の旗に交差した剣と槍、そしてその上に魔法を現す青い五芒星。しかし、凄い熱気だな。これが通常なのか?


 なんだか、クヌードが寂れたダンジョンのように思えてきてしまった。確かに地理的に辺境の地にあるわけなのだが。とにかく地理の確認をしたいな。通貨もどうなっているものやら。


 探索者ギルドである大き目の高い建物に入り込んだが、なんていうか鉄筋コンクリート製の建物に入ったような錯覚を受けた。魔道具で煌々と照らされて、床も磨き上げられている。これは金がかかっているな。先ほどの大賑わいを見せられちゃ、納得が行くというものだが。


 床は正方形に切られた、大理石のようなものだろうか。継ぎ目が均質で綺麗だ。まるでデパートみたいな、いや寂れた古いデパートだと、もっと汚い。


 この世界、魔法のハイテクはあるから、やろうと思えば地球並みの施設くらい作れるのかもしれない。都市自体も大規模に作られ、何より都市や文明を栄えさせる「水」に事欠かないようだ。


 きっと、魔法ないしは魔法技術の賜物だろう。壁も1枚1枚が大きめのパネルで出来ているようで、見事なものだ。


 ホールは天井も高く、開放感がある。これは、もしかして、あの王都マルシェは案外田舎の国にあるのかも。この迷宮は、おそらく都市部にある。でなければ、こんなにも華やかなわけがない。


 どうやって確認しようかと思ったら、ギルドの壁になんと「世界地図らしきもの」が堂々と飾ってあった。なかなかの設えで立派な物だ。地球産と言っても信じるぜ。俺はカメラを回しながら、あれこれ探したが、読めない文字で書かれていた。


 ただ、ここの現在地はわかった。一箇所だけ、赤く記されていた。こういうのって、世界が変わっても変わらないものなんだな。赤が警戒や強調を示すのは、それが血の色だからなのだろう。


 どうやら、この世界は殆ど地続きの大きな3つの大陸からなるらしい。気温などからしても、ここの土地は文明が高く発達するような緯度にあるのではないか。そういう位置的なものは、王都マルシェのそれに近いような感じはしていた。


 おそらく、この大陸は、地球のようであると仮定するならば、北半球にあるのではないか。重力も同じようである事から、世界の大きさもそうは変わるまい。


 あるいは、ダンジョンが根っこを伸ばして来られる世界という事は、もしかして平行世界の地球か。いや、わからんな。空間魔法のような物を使う存在だ。ここは異世界の宇宙の果てにあるのやもしれない。


 とりあえず、撮影を終え、地図とにらめっこしている。前回、第9ダンジョンの向こうにいた奴らはレビエントを端っこの大陸と言った。


 どちらかがレビエントで、第9ダンジョンのある方は反対側なのだ。そして、この街は真ん中の一番大きな大陸の右端くらいにある。


『おい、お前。地図とにらめっこしていて楽しいか?』

 いきなり後ろから声をかけられて、振り向いた。念話で話しかけてきてくれたので、意味が通じた。


「俺が、ここの言葉を喋れないって、よくわかったな」

『いや、どう見ても、おのぼりさんだろう』


 そういった若い男は、身の丈190cmと俺より少し高い。体はがっしりしていて、戦士そのものだ。顔はかなり男前で、精悍な顔付きは、まるでローマ軍兵士といった顔立ちだ。


「いや、この国の名前がわからなくてな。この赤いところでいいんだろう?」

 男は爆笑し、俺を賞賛してくれた。


『いや、いけてるよ、お前。自分がどこの国にいるのかもわからない? そこまで田舎者丸出しな奴には初めて会ったぜ。最高だ。あ、俺はジェイク。お前は?』


「俺はスズキ。レビエント大陸っていうのは、どこだい?」

『ああ、それならこっち、左端の奴だ』


 レビエントと、この大陸の間には、大きな海がありかなり離れているようだ。反対側の大陸との間は大きな海峡のようになっていて、もっと一体感がある。


 3つの大陸というか、全てが地続きで、3つに千切れかかっているというのが正しい表現だ。地球と同じで、昔は一つの大陸だったのだろう。という事は地震もありそうだな。


「ラプシア王国って、どのあたり?」

『ああ、それならこの辺だろう』

 男はレビエント大陸の右端の部分を指差した。


 こことは、随分離れていたようだ。日本じゃ300キロくらいしか離れていないのにな。多分10~15倍の距離がある。


「じゃあ、こっちの大陸は?」

『それはエルンスト大陸。そして、ここがマテリス大陸、一番でかいとこだ。そして、この国がエルスカイム王国、世界でもっとも繁栄している王国、進んだ王国だろう』


 はい、ラプシア王国、田舎王国に決定。メモメモ。よく考えたら、クヌードの反対側にある名古屋だって田舎だしな。やっと先進国に辿り着いたのか。しっかし、ここかあ。世界でもっとも繁栄している王国だと?


 それって首都は凄まじい大都会って事だよな。マルシェがあの規模だったから……。あまり考えたくない気分だ。こんなところで人1人を探すのは、さすがに無理じゃね?


 まあ、もうちょっと頑張ってみるか。今あいつら連れてきても、どうしようもないよな、これ。

「なあ、ここって、このお金は使える?」

 俺は金貨・銀貨・銅貨などを見せた。


『うーん。市場では、けっこうお金もあちこちのが混じっているが、交換に応じてくれるのは、普通は金貨銀貨だな。まあ、魔導具で鑑定して、金銀の含有量で見てくれるから、それなりのレートで変えてくれるんじゃないか? ギルドでも替えてくれるぜ』


 そりゃ、ありがたいな。

「そいつは助かる。ところで、ここいらの主神はファドニール様で合っている?」


 ジェイクはまたもや爆笑するが、一応は教えてくれた。

『そりゃあ、おめえ、主神様は主神様だぜ。世界中どこへ行っても、そいつだけは変わらないって。お前、本当に最高』


 そうだったか。やはり、主神交替は大事おおごとなんだな。とりあえず、金を替えようと思って窓口に並ぼうとしたが、ジェイクに連れていかれた。


『金なら、こっちで替えてくれるさ。ローグさん、ちょっとこいつの両替をやってもらえないか? いや、もう爆笑モノの田舎者でさ』


 いや、そういう風に紹介されるのも、ちょっとね。そういやクヌードでも、ギルマス預かりの問題児扱いだったな。やれやれ。


 探索者証を要求されたので、見せたら少し驚かれた。

『また遠くから来たもんだな。クヌードか。あそこもいいダンジョンだが、如何せん場所が辺鄙すぎる。このアレイラ・ダンジョンのように、世界一の大国エルスカイム王国の首都アレイラにあればとまでは言わんが』


 それはまた、賑わう訳だわ。地球で言えば、NY近辺に、この大型ダンジョンがあるようなもんだ。まあ、第5ダンジョンだって東京近郊にあり、ダンジョン兵も遊びに行く場所には事欠かないわけなんだけれども。


 それに比べたら、クヌードは日本じゃ名古屋市からも少しはずれた場所だからな。まあ、まだ名古屋近郊でよかったさ。


 第15ダンジョンなんかは、可愛そうなもんだ。静岡のど真ん中だもんな。せめて伊豆箱根にでも近ければよかったものを。見事に、東京名古屋のど真ん中だ。その割にあそこの米兵は荒ぶっておらずに、かなり穏やからしい。訳がわからんわ。


 何故かお茶お花とかを学ぶ連中も多くて、おかしな連中とかが米兵に〆られた事も多いと。米兵が来て治安がよくなった稀有な例らしい。その件については、アメリカ本国でも関心が高いらしいが、その実態は謎に包まれている。静岡は気候も温暖で、元々のんびりしたとこだけど。


 そのうち、第15ダンジョンも行かないといけないだろうな。どうしたもんだろうか。なんか不気味だ。いや、とりあえず、まずはここだろう。捜索対象が生きているものやら。


 ただ、おそらく生きているのなら、ここいらを離れてはいないはずだ。ここから来てしまったのだ。普通は日本へ帰る手がかりをここに求めるはず。


 よりによって、こんな不慣れな世界で、世界一の大都会のあたりで行方不明になっていやがるとは。眩暈がしてきたぜ。

 もう、1回日本に帰ってもいいかな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ