5-2 最大のダンジョン
おおよそ1時間15分ほどで、第5の米軍関係施設へ到着した。ここは大きいな。こんな山の中にある施設なのに。ダンジョン兵は大量輸送した初期を除けば、成田空港乗り入れの米航空会社から随時来ているはずだ。
成田空港からは、関東東自動車道と館山自動車道で連絡しており、交通の便は悪いとは言えない。付近に鉄道駅がないため、そのあたりは微妙だ。
そういう環境なので、無料特権の有料道路で酒をかっくらったままかっとばして、あちこちで問題を起こしている奴もいる。ただ、アメリカという国自体が元々飲酒運転には非常にうるさい国なので、そういう連中は同じ兵士からも白い目で見られている。
奴ら、運転免許は神様に宣誓して、もらったりするって聞いた事があるような。アメリカは保険も飲酒運転には大変厳しいはずだ。
ダンジョン兵に与えられた色んな優遇制度が使えなくなるとかの、連帯責任が被さってくる事もある。近隣の米系テーマパークなども、本人無料・同伴者半額などのサービスをしてもらえている。地元住人と揉めて、いい事など何も無いと、地域との関係に気を揉む兵士達もいた。
ここにも、21にいたような不良米兵がいる可能性がある。俺の場合、異世界よりも日本でその手の奴に絡まれる確率が高い気がする。「そういう場合は、問答無用でたたんでしまっていい」と、連中の親玉からは言われているのだが。
ヘリが到着すると、なんとその親玉さんがお出迎えだ。
「やあ、スズキ。ここに来るとはね」
「あれ? 中将どうして、ここに?」
「何を言っているんだね。日本最大のダンジョンにして、東京近郊にあるのだから、ここが私の城みたいなものさ」
ああ、そうか。ここが「魔王」の城なわけか。
「まあ、事情は聞いたが、気をつけて行ってきたまえ。君の場合、勝手がわからないなら1人で行った方がいいのかもしれんがね」
あまり心配してなさそうな声音で言われた。まあ、実際にそう心配ないとは思っているんだけど。
「じゃ、ちょっと行ってきますね」
俺は、トイレにでも行ってきますわ、みたいな軽いノリで挨拶をして、ランドクルーザーを出した。今回どこに出るのか不明なので、この神話と呼ばれる、世界最高の信頼性を持つオフロード車と行く事にしたのだ。
ダンジョンの中なら、よっぽどこれでも大丈夫。最近は、すぐ迎えに来てくれるし。何より、この車は音が静かだ。
変な所に出た際に、ハンヴィーみたいな爆音マーチを響かせていくと、いきなり攻撃される可能性がある。それでやられてしまうことはないと思うが、友好的な関係が築けないと調査にならない。
そのまま、ダンジョンの警備をしている自衛隊に挨拶をして、ダンジョンの中へ車を進めた。ここは東部方面隊の第1師団、首都防衛にあたる部隊であり、精鋭が揃っている。
特選に空挺、最新兵器を揃えた富士学校や、富士演習場も当然このエリアだ。第10師団の師団長からは、ここには連絡がいっているし、行方不明者はここの偉いさんの甥だ。
そんな奴が、俺とご同業とはなあ。色々あって、高校とか中退だったらしくて。人の家の事情はどうでもいいけど、まあ探すだけ探してみるか。運がいいと、そいつも俺のように魔法とか覚えて、向こうでチートにやっているかもしれない。まあ自力ではまず帰れないだろうが。
全く雲を掴むような話だが、行くだけ行ってみるか。これが、正さんみたいになっていたら、笑ってしまうがな。ネコミミのお嫁さんとかいたら、どうしてやったもんだろうか。
とりあえず、魔物タクシーを呼んでみた。他所事を考えていたら、今日のお迎えはいつものグーパーではなくて、なんと最初に会った斑野郎だ。まあいいんだけど。
「おい、マダラ。やってくれ」
勝手にマダラと名づけられたそいつは、挨拶をするかのように片手を上げ(8本あるが、一番前の奴なんで手としておく)、よいしょって感じに軽く押してくれた。
窓に手を当てて押してくれたので、肉球がよく観察できた。なかなか重量級の肉球だ。ちょっと触り心地が気になったが、その頃には異世界に到着していた。
広い! このホールは、直径250mくらいないか?
周りにかなりの人間がいる。面倒な騒ぎになるといけないんで、車は降りた。よかったぜ、地味なシルバーメタリックのランクルだったんで、この大広間ではあまり目立たない。広いのもあって、特に騒ぎにはならなかった。
人種的には、そうクヌードと替わらない気がするが、トカゲっぽい奴もいた。魔物と間違えないようにしないといけないな。他に魔物みたいな感じの奴もいるが、きちんと身だしなみよくしているのがわかる。装備もきちんとつけているし。
ここの、第5と同じで20本ある通路からは、ぞろぞろと探索者達が現れてきていた。すげえ活気だな。広いから出入りが大変だ。
俺も流れに沿って、出ていった。やはり、この封鎖広場もクヌードよりも広い。俺はカメラを回しながら、歩いた。念のために、探索者っぽい厚手の布地で出来た服に、皮製の防具をつけて剣を腰に差しておいた。異世界はもう手慣れたもんさ。
頭には革の帽子を被り、髪の色が目立たないように気を使ったが、ここまでに結構髪の黒い奴は見たので、そう気にする事もないだろう。
元々、黒髪は地球上でも、殆どの民族にいる。色素の関係だから、ここでもそう変わらないと考えている。俺は探索者ギルドを探すことにした。




