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ああああ の冒険  作者: ちとせあきら
1/3

冒険者って変な名前が多いよね

 やくそう、あるいはポーション、場合によってはキノコなどで、どうしてHP、もとい、生命力というか、そういったものが回復するのか。HP回復アイテムにまつわる諸設定は、それこそゲームによって千差万別である。またそうした設定がとくになされていなくて、とりあえず体にいいから(あるいはお腹がふくれるから)なんとなく元気になる。そんなアバウトな感じのゲームも存在する。


 では、この「偉大なるニナローの世界」ナローニアにおいてはどのような設定がなされているのかというと、月並みではあるが「魔法の力」によって、回復アイテムたちはその効能を発揮するのだという。


 ああ、ブラウザバックは待ってほしい。なぜこうした説明をしなければいけないのかというと、今からうっそうとした森の中、ひとりでニベターム草摘みにいそしむ少女のことを書こうとしているからなのだ。


 過去ナローニアの民は、幾度となくニベターム草の栽培に挑戦しているのだが、その結果収穫できるのは、せいぜいかゆみ止めや保湿クリームの原料にするのが手一杯の、本来のニベターム草から遠く離れた代物であった。それはなぜか。


 マツタケの人工栽培が難しい、不可能であると言われていることは有名であるが、ニベターム草についてもだいたい同じ理屈である。ニベターム草が正しく育つ環境というものがまずあるのだ。そのためニベターム草を求めるならば、節度を持って(もちろん乱獲めいた行いはご法度だ)取り組まなくてはならない。具体的には、植生している森林地帯(その多くは「いやしの森」と呼ばれている)に住み込みで、日々大自然と戦いながら、気まぐれに芽をだすニベターム草を見つけてはマッピングし、その成長を見守り収穫をまつといった、非常に過酷で専門性の高い作業が必要なのである。


 そのため薬草摘み、もといニベターム草の収穫を行うのは熟練した職人の仕事であり、その職人の一人がこのポーション=ベアーライフ。その道25年、筋骨隆々のナイスミドルである。







「きゃあああああ!


 夕暮れの森に少女の声がこだまする。その手は泥で汚れており、ちょうどタンポポのような、長い根っこをもった植物が握られていた、ニベターム草である。


「な・・・なによあなた ゾンビなの!?


「・・・・


「ゾンビじゃないのねっ よかった! それじゃ日が暮れてきたし、わたしはこれで失礼するわね、サヨナラ!


 少女はトンズラのスキルをつかった! 一目散に駆け出したかと思うと、その姿は木々の暗がりに溶け込み、瞬く間に見えなくなった!するとその時!


「今日こそ年貢の納め時だ!この泥棒ネコがぁ!


 少女が逃げ込んだ暗がりから、野太い怒声が聞こえた。ポーション=ベアーライフその人が、薬草泥棒を捕まえた瞬間であった!







「ごめんなさい、もうしません。


 彼女の名前はテグスネ=ミケ 盗人だ。シーフと読んでもよい。


「ニベターム草の密漁は重罪だ。良くて島流し、王国の都合によっちゃ死刑だってありえるんだぞ、それが分かっててやったのか?


 あきれ顔のベアーライフである。それもそのはずで、ニベターム草の採取は彼のいう王国ことブルーム王国において、国主導で行われている超重要産業なのだ。ゆえに今回のような密漁であるとか、あるいは「いやしの森」の環境を破壊するような行いをしたものに対しては、国から直々に裁きが下るのである。


 犯罪組織のエージェントであるとか、回復薬精製の秘密を探りに来た諜報員であるとか、真に切羽詰まった無法者の類が「いやしの森」にやってくることはままあれど、年端のゆかない少女となるとそれは実際珍しい。


 ここは「いやしの森」の中ほどに建てられた、ベアーライフの住居兼仕事場の一室だ。時刻は6時を回ったあたり、日はとっくに沈んでおり、外には「いやし」という穏やかな名前からはとても想像できないような

濃密な闇と、魔の気配が満ちていた。


「そ・・・そんな 私は本当に知らなくて。ただこれこれこういう植物を根っこごと取ってこいって言われただけなんです!それが密漁だったなんて・・・


 密猟者だとか、そういった類のために用意された鉄製の手錠につながれ、テグスネ=ミケはうなだれる。


「なるほどね、とりあえずそういうことにしておくけど、まああれだ。誰から指示されたとか、あるいはその真偽についても、詳しいことは専門の調査員が後で聞きだすことであって、別に俺が知る必要はないんだがよ


 そういいながらベアーライフは、書類にペンを走らせる。盗人を王国に引き渡すにあたっての簡易的な調書である。彼は熟練の薬草摘み職人であり、またブルーム王国の公務員であった。


「それにしても、よくぞここまで逃げおおせたものだぜ。今回みたく、冒険者の助けを借りなきゃいかんとは、本当に「盗人」のチカラはあなどれんよな


「そ・・・ そうよ! アンタが後ろにボーっと突っ立ってたから、ビックリして捕まっちゃったんじゃない!


「・・・・


「反省の色、ナシっと


「嘘ですよそんな反省してますってこのとおりですゴメンナサイ!


「ところでアンタ、もうすっかり日が暮れちまったし、今から森を抜けて町まで送るのは無理だからよ、今日は泊っていきな。ちょうどナベも煮えたころだし・・・


そう、ナベである。先ほどから鼻孔をくすぐる滋養に満ちた香りの正体は、いやしの森の恵みをふんだんに詰め込んだ、ベアーライフ特性のナベであった!


「わー! おいしそー! 私のぶんはっ!?


「なんだ、今日は妙にネコの鳴き声がうるさいな・・・


「わーたーしーのー!!


「・・・・







 こうして薬草摘み職人と、冒険者と、盗人の夜は更けていく。盗人を捕まえた旨は、魔導伝書鳩「マジックルッポー」により通達済みであり、明日には王国から専門の職員が、森のふもとまで身柄の引き取りにやってくるそうだ(まったくお疲れさまである)。


 ベアーライフは夜更かしをしない人間であるそうで、夕飯の後始末をすると早々に自室へ引っ込みいびきをかきはじめた。ミケはならず者用の一室で手錠につながれて、冒険者は客間にひかれた布団で、それぞれ一夜を明かすこととなったのだが・・・





・・・ごそごそ


・・・ごそごそ


・・・!!!


「ほんとにもう!なんで気配がないのよ!


 時刻は真夜中の2時過ぎ。客間を忍び足で通過せんとするそれは、逃亡をもくろむミケであった。


「・・・・


「ふふん わたしくらいになれば、あんな手錠なんて、かけられてないも同然なんだからっ


「・・・・


「この森を抜けるのが自殺行為? だ・・・大丈夫よ わたし暗視のスキルもちょっとはあるし・・・ だいたいねっ のんびりしてたら死刑なのよ死刑!だったらやるっきゃないじゃない! それにね・・・


 彼女の手にはなんと、いつの間に盗んだのか、熟練の職人によって乾燥させられた、ニベターム草の束があった!


「このたった数束で、何百万ファボリーになるか、あなた知ってる!? わたしには分かるの、市場にほとんど出回らない、超高等回復薬の原料なんだから・・・ そうだ! あなた一緒にきなさいよ!どうせろくな報酬もらえないんでしょ? 一緒に森を抜けましょう、そしたらこの稼ぎのいくらかを、あなたのものにしてあげるんだから!


「・・・・


「な・・・なによ つれないわねっ 後悔しても遅いわよ! じゃあね!


 ミケはトンズラのスキルをつかった!


 バチバチバチ!


「きゃーーー!


 しかし彼女は、マドのサッシに手を触れた瞬間、強力な電気ショックでも浴びたのだろうか?大きく飛び上がり叫び声をあげると、仰向けに倒れてしまった。


静寂に包まれるベアーライフの住居兼仕事場の客間であったが・・・


カランカラーン


 玄関先から、来客を告げるベルの音が鳴り響いた。こんな真夜中に、闇と魔力の支配するいやしの森から、いったい誰がやってきたというのか。


 ほんのひと時の後、ガチャリとカギを開ける音や靴のドロを落とす音が聞こえ・・・


「あら、こんばんは。あなたが冒険者さんね、夫から話は聞いているわ。私はポーション=ロップイヤー。ベアーライフの妻です、よろしくね。


 現れたのは、黒い肌にとがった耳を持った、妙齢の女性であった






「それで、そこにひっくり返ってるのが盗人ってわけね。解錠のスキルまで持ってるなんて抜け目ないこと。逃げようとしたところをあなたが・・・ えーっと


「・・・・


「そう、ああああ さんと言うのね。ああああ さんが引き留めてくれて助かったわ。もっとも彼女、トラップ感知のスキルは持ってなかったみたいだけど。


 そういいながら、ミケの手に握られていた、ニベターム草の束を回収するロップイヤーであった。


「それじゃあ、まだ見回りを続けなきゃいけないから。私はこれで失礼するわね。


「・・・・


「そうそう、大変な仕事なのよ。昼は人間の夫が、夜はナイトシーカーの私が、薬草たちの面倒をみなきゃいけないの。それに加えて盗人の相手までしなくちゃいけないなんてねぇ?


 どうやら仕事の途中で、夕暮れ時に捕まったという盗人のことが気になり、様子を見に来たそうなのだ。今回の薬草泥棒はなかなか手ごわいんだとベアーライフから聞いていたし。


「おお、すまなかったなハニー


 するとベアーライフが自室から起きてきた。寝つきはいいのだが、窓のトラップのバチバチとか、あとは玄関のベルとかでさすがに起きるのだ。


「あら起きちゃったの、ごめんなさいねダーリン。ねえ、この子解錠のスキルなんて持ってたみたいよ?


「う~~む 持ってるスキルについては一通り聞いたんだがな、やはり隠していたのか。


「・・・・


「へぇ、暗視のスキルも持ってるのねぇ、あんまし得意じゃないけど・・・? ふーん


 なにやら思案顔のロップイヤーであったが、


「まぁ、細かいことは早朝にでも決めましょう。それじゃあダーリン、ああああ さん、おやすみなさい。よい夜を。


「ああ、おやすみハニー


「・・・・


 こうしてロップイヤーは、残りの仕事を片付けに、夜のいやしの森へと消えていった。


「そんじゃあ ああああ 色々とありがとうな。しかし ああああ って変な名前だよな。まあ冒険者やってるやつって変な名前が多いけどよ。


「・・・・


「がははは! そうだよな、すまんすまん。明日・・・じゃなくて今日か。コイツの身柄を受け取りに職員がふもとまでやってくるからよ、ついでに町まで送ってもらいな。早起きになるけどよろしくたのむぜ。


「・・・・


「ああ、おやすみ ああああ


 あおむけに倒れたままだったテグスネ=ミケは、ベアーライフの手によって入念にす巻きにされたのち、ふたたびならず者用の一室に放り込まれた。彼女は死刑か、島流しか、それとも・・・?


 なにはともあれ、ああああ は「薬草盗り捕り」のクエストを、無事完了させたのであった。



ああああ の冒険 続く


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