少年は文字で嘘をつく
都霧大夢は散々な人生に終止符を打ちたかった。
3歳の時に親に捨てられずっと孤児院で育ち
学校に入学したら親がいない事と声が出ない事をネタに理不尽ないじめを受け
反抗しようとしてもいじめっ子達が紙に書いた文字などを読んでくれるはずもなくいじめはどんどんエスカレートしてく
そんな事しかない人生なら生きていたところで得なことなど何もない
悲しい事しか感じないならいっそ何も感じなくなったほうがまだマシだ
現に今までの人生の中で楽しさを感じたことは殆無かった
だから今日でそんな面白みの欠片もなく、苦しいことしかない退屈な人生に終止符を打とうとしていた。
今では一人暮らしをしているのマンションの屋上から飛び降りようとした時
「君、そんな端に立っていたら危ないよ?」
屋上で一人だったはずの都霧に不意に声が掛けられた
『すみません、少し外に見惚れていて』
自殺しようとしてましたなど言える筈もなく咄嗟に変な嘘をついた
「こんな所に見惚れる程綺麗なものなんてあった?」
そこには短い茶髪のいかにもスポーツマンと言った感じの女の人が立っていた
「て言うかあなたなんで紙に文字なんて書いてるの?」
『すみません、声が出なくてこうするしか伝える手段が無いんです』
それを見た女の人は目を見開き申し訳なさそうに呟いた
「そうだったんだ、察せなくてごめんなさいそうよね、何もないのに紙に文字なんて面倒くさい事なんてする筈ないよね」
『いえ、気にしないでください』
「そういえば君は203号室の都霧さんよね、私は201号室の桜樹綾、よろしくね」
『都霧大夢です。よろしくおねがいします』
「たいむ?変な名前だね、どうせ同じ階だし、いっしょに戻ろう」
笑いながら促されタイミングを失った都霧はまた別の機会にと思い渋々一緒に部屋に戻った。