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少女、魔法を識る。

 身体もそれなり成長してきた。十分な食事と運動を続けているおかげで、少女の身体でありながら自分でも自惚れるくらいには引き締まってきていると思う。鏡に映る自分の姿は実にロリぃ少女だがだいたい慣れてしまった。


「結構筋肉ついてきた…か?」


 父さまもおばさまも普段は過保護なくせに、鍛えるとなったら妥協なくビシバシしごいてくる。そんな稽古の日々が続けばアザのひとつやふたつできるもんで。目に見える場所にあると母さまが心配するし、父さまを見る目が少し冷たくなる。


 以前、稽古とは関係なくデコにコブをつくって軟膏を貰おうと母さまにデコを見せたとき。母さまの顔から一瞬表情が消え、じっと父さまを見て、しょうがないわねぇという表情で手ずから軟膏を塗ってくれた。怖いので、それ以来必死に攻撃の捌きかたを練習している。


 あと、母さまとの約束で『剣を磨くなら女も磨くこと!』というのもある。やること増えてんじゃねーかというツッコミはさておき、改めて自分の顔を見る。


『悪くはねーと思うんだよな』


 鏡に映る自分の瞳。金色というと大袈裟だがそれに近い色。直毛と言って良さそうな黒髪。輪郭はまだ子どもの範疇か。


(…また伸びてないか、この舌)


 この身体、ちょっと舌が長い。鼻先ぐらいまでは余裕だ。地球なら確実に『蛇女』呼ばわりされるな。先っちょは割れてないからまだいいが。母さまいわく『先祖がえり』とのこと。


『私達のご先祖さまは『魔族』って呼ばれてたらしいわ』


 実際のニュアンスは『魔法種族』って感じだが、『魔族』でよかろう。実際、数百年前は人ならざる姿の人たちも多く、森に住むのはその頃隠れ住むように暮らしていた名残とのこと。


 黒髪金瞳舌長いときたら自分のご先祖さまはラミア辺りか。ラミアって言ったらエロの代名詞じゃ…いやいや思い込みはいかんな。大和撫子なラミアもアリかもしれん。


『ああっ、堪忍してください』

『へっへっへ。ここか。ここが、ええのんかあ』

『そこの鱗は弱いんです。ああ、ああ!』


 なんぞこれ。


『ベル、ベル。どうしたの?』

『ハッ!すみません母さま。悠久の時代に思いを馳せていました』

『難しい言い方するのね』


 すいません、実はただのエロ妄想でした。何せ生まれたときから耳年増だったんで。


 ともかく、魔法だ。いよいよだ。しかも事前に『先祖がえり』なんて要素が出ている。これはちっと期待してもいいんじゃないの?回想を切り上げ、地下室への階段を下りていく。


 この家には地下室があった。工房か研究室か、吸気と排気はしっかり行われているようでこもった空気ではない。表から見えていた妙な位置の配管はこの為か。


「ようこそ、私の工房へ」


 雰囲気たっぷりに出迎える母さま。おお、それっぽい。思わず拍手で返す。母さまはプルプル震え出す。


「…いやっ。忘れて、今のは忘れて!」

「もったいないです。雰囲気たっぷりだったのに」

「あなたも口が達者になったわ」

「みなさまのおかげです」

「言ってなさい」


 実際そうだよ、母さま。


「まあいいわ。改めて、始めるとしましょう」


 地下室の机で差し向かい、母さまは資料を広げる。


「じゃあベル。魔法ってなんだと思う?」

「…いろんなことが出来る、不思議な力、でしょうか」

「ええ、そうね」


 母さまは頷くと、いつかのように水の球を生み出す。水量を増した水球は水流となり、母さまと俺の周囲を巡りいずこかへと消えていく。いかにも魔法的な光景に声もない。母さまはニンマリと笑顔。


「まあ今みたいなのは拡張操作に慣れてからね。際限なく魔力を放出するとへばっちゃうし」


 母さまは近くの箱から金属っぽい球をごろごろ取り出す。


「これは私が鉱物操作で作った鉄の球よ。鉄が一番手に入りやすいし、『精錬鋼』の基礎を学ぶには一般的な鉱物ね」


 1つ手に取ってみる。あれ、思ったよりも軽い。振ってみるが音はしない。


「中の構造はバラバラなの。中空だったり詰まってたり、半々だったり。魔力の通し方を学ぶのに効果的だからね」


 母さまが鉄球を掌にのせて、俺もその上から指先を軽く触れさせる。


「でも正直、魔力の把握は『勘』なのよね。身体の中に流れる何かを意識してみて……良さそうね。そのまま…抵抗があるでしょうけど、ぐっと押し込んで」


 どれ、ぐっと─


「えっ、はやっ」


 母さま、素のリアクションされましても。


「ふぅん…じゃ、どんどんいこうかしら」


 目がギラギラしてますね、母さま。


「じゃあ…これね。見てて」


 たぶん軽めの鉄球を選んだのだろう。母さまが鉄球を放り投げると──ピタリと空中で制止する。


「んっ?んっ、んっ?」

「で、こう」


 上へ下へ左へ右へ。くるっと回って結構な勢いでゴッと床へ。


「あっ、失敗失敗。てへっ」


 かわいい。


 つか、すげぇ。これ『無線誘導式攻撃端末』とか作れるんじゃねぇの、とか盛り上がったが、あんまり重いと浮かないらしい。単純に魔力(筋力)足りてないってことなのか?。


 まあいいさ。考えるさ。今度は自分の番だ。いきなり浮かべるのは無理だろうってんでとりあえず転がしてみることにする。



「ベル、魔力だけで転がすのよ。勢いつけるの無しよ?」

「わ、わかってますよ」


 ハムスターがカラカラやってるアレ。込めた魔力で内側から鉄球の内壁をこうカリカリと─


「おっ」


「いいわ…そのまま、ゆっくり」

「……あれ、こんなトコかな?」


 フッと感触が消える。距離は腕二本ぶんあるかないか。ふむ。


「……じゃ、今度は、こっち使ってみて」


 軽めの鉄球を渡される。深呼吸して、じっくりと魔力で鉄球の感触を確かめる。転がす。さっきよりは進んだが言うほど差はないような。おやおや、どした、母さま。空気が重いぞ。


「母さま、これは…」

「あのね、ベルは、そのぅ。拡張操作が苦手ってことに、なるのかな?」

「それは、つまり」

「普通の魔法がこれくらい遠くに撃てるとして」


 人差し指で「これくらい」と、幅をつくり─


「ベルは、これくらい」


 ぎゅっと、幅を縮める。


 ほうほう。それはつまり火の玉的な魔法は射程が短く、離れた場所に雷落としてみたりなんて芸当は無理、と。


 なるほどなるほど。なに、些末な問題だ。地球じゃ魔法そのものが無かったんだ。それでも人は技術で以て繁栄を為した。そう、使えるだけで凄いじゃないか。だから笑ってよ、母さま。ニコッ。


「ううう…ベルぅううう!ごめんね!ごめんね!アタシが、きちんと産んであげられなかったからぁあぁ…」


 そんなこというなよ母さま。正直ちょっとへこんだが、この両親のもとに生まれて後悔なんて微塵もない。自分を責める言い方すんなよ。あと腕力キツイ。


「母さま、泣かないで。ベルはだいじょ、や、やっぱくるしい」

「あっ、ご、ごめん」


 涙に濡れた母さまの目元を拭う。って我ながら何てキザな真似を。


「や、やだ、ベル…ませてるんだから」


 髪を整えつつ顔が真っ赤な母さま。なんでか妹を思い出してしまった。元気でやっているだろうか。


「でもそっか…じゃあどうしよう…身体強化なら距離は関係ないわね。あとは、鉱物操作も直接触るから距離は問題じゃないわね」


 母さま必死だな。


「昔、《黒鎖の魔女》って呼ばれた人がいてね。鉱物操作で作った漆黒の鎖を、類い稀な拡張操作で──コラァッ!」


 ナチュラルに地雷を踏む母さま。大丈夫、怒ってないから。へこむな。というか母さまが怒鳴るのも意外と、初めて聞いたか。


 身体強化は普段から使用している父さまやおばさまに教えてもらうことになり、母さまからは鉱物操作を学ぶことになった。先程から見ていたがこの鉄球は見事な球体だ。ところどころ誤差はあるかもだが、素人目にはまん丸だ。そいつを眺めつつ、普通はインゴットから、ときには鉄鉱石から鉄だけを魔力で『捉えて』抽出。表面に不純物が寄り集まってくるので削ぎ落としつつ、抽出を続けて純度を高めていく。さっき教えるのに使った鉄球は『鉄に魔力を浸透させる感覚』を覚えるために、高い純度のものを利用している。武器に使うときには純鉄よりも合金のほうがいいんだっけ。錆びづらくするんだっけか。クロムとかニッケルとか…なんだそれ。鉱物なのか。原子の表とかネットで簡単に見れたろうに。真面目に見ときゃよかった。


 しかし、ここでそいつをひっくり返すのが魔法だ。純度を上げきった鉄にさらに魔力を注ぎ込む。するとだんだん『白く』なってくる。これが俺の『精錬鉄』の色だそうな。母さまの色は『赤』。解体の時に使ってたアレか。妖刀じみたなにかだと思ってたわ。


 で、この『精錬鉄』をだ、えっと、加工…あれ。いや、魔力通りそうにないし、どうすんだコレ。母さま…?母さま、またへこんでますか。どうしました?


「どう…」

「ごめん、ベル。『精錬』って最後の仕上げでやるんだった」

「つまり、コレは」

「…精錬でついた『癖』はしばらく抜けないし、無理して注いでも割れるだけだし……」


 つまりコレは。


「あの、そう……ご神体!」

『なんでやねん』

「『ナン=ディアネン』?そ、それが神様の、名前?」

「あっ…はい」


 つい日本語が。肯定しちゃったし。


「あ、じゃ、献上、いたします」

「う、あ。頂戴、しま、す?」


 どっちも謙譲しちゃってるし。母さまは何やら嬉しそう。それ鉄だよ?ただ俺が…


 ああ、そういうこと。『娘が初めて精錬した』ね。やれやれ、幸せそうに。水差せないじゃんよ。



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