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娘たち、親睦。

 シエイさんの温もりにしばし甘え、人心地ついた。


「シエイさん、もう大丈夫ですので、あの」

「ええ。大丈夫ですよ、ベルさま」


 シエイさんにがっつりハグされていろいろ幸せなんですが、恥ずかしいですね。


『お姉ちゃん、私もいるからね? ホレホレ』

『いや、それはガチ恥ずかしい。やめときましょう?』

『なんでよ』

「うんうん、いつもどおりのベルちゃんたちだな」


 私が泣きだしたせいでオロオロしていた人たちも気を取り直してまた飲み始めた…ほどほどにな。


「…いかんな。こんな話するつもりじゃなかったのに。思い出させてしまったみたいで、すまない」

「いえ、こちらこそ。私もまだまだ子どもですね。はぁーあ、食べましょ、食べましょ。リラ、注文をお願いしますっ」

「はぁーい」


 リラちゃんまで優しい眼差しで私を見る。何か言い返してやりたいが、悠里が異世界文字の並ぶメニューに白目を剥きそうなので、急ぎフォローしてあげないと。


『これがカチャトーレみたいなやつ。こっちが根菜のサラダ。あとは…最近白米ブームもキテるんですよ』

『ふーん』

『反応うっすぅー。日本人ならもう少しなんかあっても』

『えー? だって、普通じゃない。異世界来てまでそんなに日本日本しなくても…』

『そりゃ、そうですけど…』


 まあいいや。さっさと注文しよう。パン三個のセットとギルースのソテーと。妹もサイドメニュー違いのものを。シエイさんはモントレア肉による牛丼的なもの。クランさんが頼んだのは味の濃いイチジクのような果物を、ワインで煮込んだコンポート。軽いデザートのつもりなんでしょうが、あれ相当濃厚ですよ? 大丈夫かな。口直しのパンぐらい分けてあげますけど。


「ベリルさん。さっきはすいませんでした。年甲斐もなく泣きわめいちゃって」

「君にそんなこと言われたら年上の私の立つ瀬がないよ。私こそ、愚痴ってすまなかった」

「いえいえ」


 ベリルさんがクランさんのほうをちらっと見て、クランさんは訝しげな表情。


「…恥の上塗りをするようで申し訳ないが、君に頼みがある。私を、君の弟子にしてくれないか!」

「なんで?」

「つれない! いや、それも仕方ないか…雑用からでもいい。私を好きに使ってくれ。なんなら対価も用意しよう!」


 やめろや。健全な男子女子としてエロいこと考えてしまうやろ。


「おいこら」


 クランさんがベリルさんをしばく。


「痛いっ。何をする、クラン」

「何をするじゃないわよ! 勝手なことばっか言って。しかも対価とか、何を渡そうって…まさか」


 ふたりの視線は、かの妖精へ。


『や、やさしくしてくれよな』


 ノリいいな。


「こ、この子は駄目よ。アタシんだからね!」

「はいはい、ごちそうさま」

「こ、このっ」

「『分霊』そのものをやりとりするわけないだろう。彼女に魔章を渡すだけだ」

「ベリルさん。それって本来秘匿しておくべき技術なのでは? 個人間でホイホイあげちゃっていいんですか?」

「本来はそうなんだが、私は君を支持するよ。それに魔章を渡しても、すぐに、かつ確実に『分霊』が生まれるわけじゃないからね」


 『分霊』用の魔章を護符のように身につけて生活して、自然に漏れているらしい魔力を染み込ませて『分霊』を生み出すらしい。飲み食いすることはなく、主の魔力をちょいちょいつまんで存在しているらしい。


「自分の魔力の余剰分を担保しておける。危急の時も安心だよ。後はまあ、純粋に人手として」


 人手ねぇ。そのちっこいのが?


「いや、まあ必ず人と同じ姿になるわけじゃないんだ。過去の戦乱時の技術の名残らしいし」


 今と違って、それこそドラゴンやら何やらとファンタジーな存在が闊歩していた時代があったらしい。そもそも私だって魔族とやらの末裔らしいし。先祖返りの私は両親と違って金眼だ。大抵の人は碧眼で両親は茶色。


 隣を見ると妹がクッソ暇そう。妖精もらえるかも、と伝える。


『へー、いいじゃん。貰っときなよ。食事とか必要ないんでしょ?…私も貰えないかな』

『悠里。ペットか何かじゃないんですよ? もうちょい真面目に考えなさい』


 言ってみれば使い魔か。確かに人と同様の姿の使い魔がいればいろいろ任せることができるでしょう。独立して動くことができるようですし。


「お? そうなると…」

「ベル、料理行くわよー」

「ああ、はいはい」


 『分霊』が自分の意思を持って、尚且つ魔法が使えるなら。私がとっくに諦めてた遠距離魔法なんてものが実現できるかもしれませんね。


『おー。きたきた、異世界料理。それじゃあ、いただきまーす』

『いただきます』


 私とシエイさんは自然と手を合わせ、ハルーン二人もそれにつられて手を合わせている。


『…あ、こっちにもあるんだ?』

『ほら、シエイさんの服装ってこんなじゃないですか。たぶん日本文化があるんですよ。シエイさんの故郷だけみたいですけどね』

『そっかー……あ、おいしい。パンはフワフワだし、この…魚のフライもおいしいし。ここ酒場みたいだけど、雰囲気もいいよね。なんだ、お姉ちゃん結構いい暮らししてるんじゃん』

『気に入って貰えてなによりですよ』


 シエイさんはゆったりしたペースで肉と白米を口へ運び、クランさんは案の定、コンポートの濃厚さにびっくりしている。


「わっ、あー…うわー…」

「クランさん。良ければパンでお口直しします?」

「あ、ありがと……ふぅー、びっくりしたわ。濃厚ね」

「でも、美味しいでしょう?」

「それはもちろん。こういうの、私たちがどれだけ質素な生活してたかわかるわ…」


 そのコンポートだって『イチジクをワインで煮込んでみました!』ってノリで出来ちゃったシロモノだとは思いますけど。


『そんなに? ねえねえ、私も一口貰えないかな?』

『アルコールは抜けてるでしょうが、悠里にはまだ早くありませんか?』

『子ども扱いすんなー』

「ん? 妹さん、味見したいの? どうぞ」

『あ、くれるの? ありがとー』

「ど、どういたしまして」


 やれやれ。とりあえずこちらの言葉で『ありがとう』ぐらいは教えときませんとね。


『悠里、「ありがとう」ですよ』

『ん? ああ、そっか。わかった。ごめん、もっかい発音して』

「ありがとう」

「あディがトゥ?」

『もうちょい優雅に』

「ありがトゥー」

『…よし。じゃ挨拶して』

『エルフさん、「ありがトゥー」』

「んぶふ!」


 あ、あらら。思ったよりも盛大に吹きましたね。飲み物含んでなかったのは幸いでした。


『この反応…お姉ちゃん、ちゃんと教えてよ!』

『はい、すいません…フヒヒ…』


 ちょっと冗談が過ぎましたね。

「す、すいませんクランさん。大丈夫ですか」

「ったくもう…きちんと言葉習わせといてよ?」

「わかってます」



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