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来訪者、その展望。

 カーハスさんがヒゲをしごきつつ、ため息をこぼす。


「やれやれ、儂の代でまた随分と難儀を抱えてしまったな」

「申し訳ない」

「いや、すまん。愚痴が出たな。気にしないでほしい、ガレットどの。ところで、ハルーンの人たちはこれからどうなるのだろう?また一つ所に隠れ住むのか?」

「それなのだがな…」


 ガレットさんがクランさんをちら、と見ると彼女が後を続ける。


「もう私たちは限界に来ていると結論が出たの。それで…私たちはその空間から出て、この世界に暮らそうと決めたのよ」


 決めたのよって。え、どうするんです?『ここ、私たちが暮らすんで!』とか出来るもんなんですか?


「たとえば湖沼地帯周辺はどこかの国のものなのかしら」

「いや、あんなところ人が住める環境ではないだろう」


 ヨーギーさんはあそこを通ってきたって話してましたね。


「あそこがね、私たちの隠れ住んでいる場所なの」

「あそこに…?」

「あそこを開拓して、人が暮らせるようにするつもりよ。これまでそのための準備はしてきたの。その課程で手に入る資源や、税を納めろというなら可能な限り納めさせてもらうわ。できれば…常識的な、無理のない範囲で」

「資源ねぇ…」


 確かに、突然過ぎる話ですね。でも、この世界は案外資源が豊富なのだ。集団の規模次第では意外とどうにかなるのでは?聞かされた人数も多いと言えば多いんでしょうが、私にコミューンの大きさがどうとかわかるはずもなく。多分、下手な村よりは大きな人口がその森から出てくることになるんでしょう。


「ある程度の蓄えはあるのだ。安定した環境で生産を行えたからな」

「魔章っていうものは知ってる?魔法の扱いを助ける技術なんだけど」


 魔章の話になって何人かが私を見るもんだからベリルさんが食いついてくる。


「やっぱりそうかっ。魔章に熟達してぃ、た、たっ、痛っ」

「怪我人は大人しくしてなさい…それにしても貴女。そんな少女のナリで、やるじゃない?」


 少女のナリはお互い様でしょうに。


「魔章はこっちではある程度研究されていますよ?私の持ち物は大抵魔章がらみですし」

「そ、そうなの?」


 あくまで武力的な用途が制限されるだけで、ハルーンという種族は概ね魔章の知識持ちであるらしい。学問のようなものなので苦手な人間は苦手だし、生活に密着した魔法が主な用途。だとしても、若年層からでも即戦力になる。


「むぅ…これはあれか、我々のほうが遅れているということか」

「一概には言えないでしょう」


 微妙にへこんでいそうなベリルさんにウーリアさんが言葉を挟む。


「総長の話では『地球』はここよりももっと発展した世界だと聞いたわよ?そうなんでしょ?」

「そうとも言えますが…」

「どうしたの?」

「便利になるのも良いんですが、昔ながらの生活が性に合ってるって人も居ますし。やることが多すぎて『忙しさに殺される』なんて言葉、こっちではなかなか使わないでしょう?」

「『チキュウ』とやらも大変なのだな」


 しみじみ頷く一同。


「ここで私から提案があるのですが。基本的に、皆さんに向けて。いいですかね?」

「ほう、聞こうか。今回の件の功労者の意見だ。そう無下にはされまい」


 街長さんがそう仰るなら、遠慮なく。


「彼らハルーンを、その一部でもこのロードラント一帯のどこかに住まわせられませんかね?」

「ベル、それは…」


 諸手を挙げての賛成はない。ま、そりゃそうだ。今回は実質単独での暴走だったのだろうが、恐らく火種は残っている。慎重になるのは当然。しかし、抱え込まれるよりは正面から衝突したほうが何かが生まれるかもしれない。夢見てるのかもしれないが。


 考えてしまった。彼女と出会ったのが私だったら。私の両親の元に、あの男が生まれていたら。豪胆な父さまのこと、多少のひねくれた性格など矯正してしまえたのでは。私が彼女と話ができていれば、彼女の言動は『問題児』レベルで済んでいたかもしれない。私が彼女の友人にでもなっていたかも。


 誰も死なずに済んだかもしれない。


 そう考えて、自分の手を見て思う。私は『やってしまった』んだなと。その結果は、変えようがない。その事実を思うと今更ながらに背筋が冷える。


「ベル、大丈夫か?」


 おばさまはお見通しですか。


「…ええ、私は大丈夫ですよ。気を遣わせてしまいましたか?」

「い、いや。いいんだ」

「…どうでしょう、カーハスさん。最初はそう、そのふたりとか」


 クランさんとベリルさん姉妹を指して言う。ふむ、このふたりを以降クランベリー姉妹としよう。微妙な間を置いて、カーハスさんが口を開く。


「…利益はあるかな?」

「絶対とは言いませんが、あると思いますよ。私の中にある知識の還元、そしてそれを維持するには魔章の知識は必要です。私がずっとここに居るとも限りませんし」


 場がざわめく。おばさまやシエイさんは落ち着いているが、街の人たちにそんな話はしていなかったから、聞いてないぞって話なんでしょう。


「どういうことだよベル!」

「出ていっちゃうの!?ベル!」

「行かないでくれベルちゃん!」

「着替え覗いたのはすまんかった、謝るから!」


 ベルちゃん大人気か。てかおい覗きよ。


「例えばですよ。というかおい、そこの覗きよ」


 ニヤニヤするんじゃない。


「ふむ、今のままでもベルちゃんはいろいろやってくれているようだしな」


 とはいえ元中学生。今の私も成人扱いではあるが、十代女子。何でもかんでもはできない。ハドモントで魔章を使うのは私一人。魔章の知識を伝える用意はあるが。母さまだってこんなことが起こるとは想像していなかっただろう。


「まあ…ものは試しか」

「いいんですか?」

「信用していいのかな?ハルーンの方々よ」

「無論」

「あの鎧を差し向けられたくはないからねぇ」


 軽い調子で返すベリルさん。そこまではしませんよ。まだあれも『完成させた』つもりはありませんしね。


「くくく」

「また怪しい笑いを…」

「おっと。失礼しました、おばさま」


 さて、私の提案はとりあえずやってみようということでいいんですかね。


「ああ、でも大半の人は湖沼地帯に居てもらうことになるんですかね?」

「そうだな。儂らもその人数を養えるとは思えん」

「森を少し拓くことになりますか…家ができるまではウチにでも」

「ベル、それはダメだぞ」


 警戒感丸出しのおばさま。まあシエイさんのときとは違いますよね。


「まずは先ほどのお二人と、もう数人を宿に泊めて、街に馴染んでもらうのがいいんじゃないかしら?費用は連合の予算から出せそうだし」

「それなんですけどね、ウーリアさん」

「何かしら?」

「やっぱり、報告の義務とか発生するんでしょうか」

「…ごめんなさいね。こればっかりは隠さないほうが後々いいと思うんだけど」

「いえ、私もそう思いますよ。そうなると…ウーリアさん、総長さんとやらに渡りをつけることは可能ですか?」

「連絡用の道具があるからね。その時にあなたも一緒に話してみるといいわ。というか、あの舟ってハドモントに来るまでの間に大勢に見られてるんじゃないかしら。たぶん報告は入ってると思うわ」

「やっぱりそうなりますか。なるようになる…でしょうか?」

「悪人じゃないわよ。昔は女癖が悪かったけどね」


 悪い人じゃないですか。



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