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古き民、会合。

 半壊した巨大船を今すぐどうこうはできないので、怪我人を宿で休ませようと、街まで来たわけですが…


「目立ってる、かしら。私たち」

「そのようで」


 私は今さらエルフ耳ごときで動揺はしませんが、初めて見る人はなかなか、ガン見してくれちゃってますね。


「あなたは?」

「別に。慣れてますから」

「ハルーンに会ったことがあるの!?」

「そうじゃなくて。ほら、シエイさんもああいう肌の色でしょう。目立つのは慣れっこという意味ですよ」

「ああ、そう…」

「いやあの、シエイさんの肌がどうこういうわけではないですからね。勘違い、いけませんよ?」

「わかっております」


 そうだ、シエイニウムを補充しなくては。もう遠慮することもない。堂々と抱きつく。そして、吸う。


「シエイさーんぅぅー…」


 汗の匂いが鼻腔をくすぐる。


「ベルさま、あの。人が、見ていますので」

「街中ですのでね」

「はい。いえ、あの」

「なんなのアンタたち恋人みたいに」

「恋人ですけど」

「…えっ、えっ?」


 耳を乱舞させているエルフは放っといて、すうーーー。


「ほう…至福」

「きょ、恐縮ですが、あの、恥ずかし、あの」

「私、ちゃんと帰ってきましたよ。帰って、これました」

「ベルさま…?」

「ちゃんと、ここに」


 思わず、ぎゅっと。


「…はい。お帰りなさいませ、ベルさま」


 たっぷりシエイさんニウムを補充し、正直言うとあの時の『続き』がしたいんだけどもそれを言う度胸はさすがにない。そもそもこれから真面目なお話だ。街の人たちはまだ事の顛末は知らないはずだが、何となく伝わるのだろう。ハルーンの人たちを見る表情は固い。


「まあ、当然よね」


 自嘲めいた言い方して。


「ここの人たちは気のいい人たちですから。悪いことにはならないと思いますよ。ただ…」

「ただ、何よ?」

「連合の人たちがね…」


 これは他人事ではない。今まで大して接触を持たなかった連合。その支部長さんから直々のお呼び出し。ウーリアさん、でしたか。悪い人ではなさそうでしたが、あのときのやり取りからすると愛想笑いで誤魔化せるタイプではありませんよねぇ…


「はぁ…」

「ベルさま、いざとなれば私が」

「ありがとうございます。でも暴れるのはナシですよ?」

「…はい、もちろん」


 …大丈夫かな?


 会合に顔を出すのはクランさんベリルさん姉妹。フェニックス…フェニックさんが出てくるかと思ったんですが、『彼女』がらみで冷静になれないと判断、自分から辞退したらしい。


「難儀ですねぇ…」

「そうね…」


 会合場所は連合支部…となる予定だったんですが、何でか『リンゼッタ』へ。ウーリアさんと、あれれ、なんでヨーギーさんそっち側?そんな具合の視線を向けると、気まずそう。おばさまは…わあ、機嫌悪そー…


「ベル、こっちだ」

「はい…」


 さわらぬおばさまになんとやらである。


 ハドモント代表が私。警ら担当のおばさま。仙人みたいな風体で影が薄い街長さん。シエイさんは外野テーブルで待機。


 ハルーン代表がクランさん、ベリルさんと、もう一人。エルフらしくない、がっしりした男性。頼れる団長みたいな印象。


 連合代表が支部長のウーリアさん。そして、ヨーギーさん。んー…かの御仁は連合の人間でした、と。聞いてませんよー、ヨーギーさーん?


「…じゃあ始めましょうか。私はウーリア。連合支部長を務めているわ」

「儂はカーハス。この街の長をやらせてもらっている」


 名前しか知らなかった。一応私のお給料都合していただいてる方ですしね。覚えとかないと。私って、思った以上に世間知らずかもしれませんねぇ…ハドモント勢として私とおばさまも挨拶。


「では我々も。俺はハルーンのガレットだ。こっちはクランと、ベリル」


 二人とも畏まって礼をする。


「まずは、此度の一件。身内の暴挙を止められず、この街に被害を出してしまった。しかも事態の収拾をそちらの少女にさせてしまった。本当に、申し訳ない」


 深く、頭を下げるガレットさん。


「長として謝罪を受け入れるよ、ガレットどの。街に被害はあれど、怪我人も出なかった。これはベル。君のおかげだ。ありがとう」

「いえ、そんな」


 まいっちゃうな。担ぎ上げられちゃっても困るんですけど。


「ガレットどの。貴殿らはいったい何者だろう。変わった耳と、あのような舟を用いてみせる技術を私は知らんよ」

「それは無理からぬこと。俺たちハルーンはこれまで魔法でもって『結界』を作り出し、その中に隠れ住んできた。かれこれ…まあ、長い時間だ」

「私たちはその結界を街くらいの規模で展開しているの。先人たちはその中に土や生き物を持ち込んで、いろいろ苦労したそうよ」

「なぜ、そんなことを?」

「自身の技術が悪用されるのを恐れたのだと伝わっている。わざわざ大規模な仕掛けを作ってまで、そのようにした心根は俺にはわからんが…」

「時間の流れとともにその在り方を疑問に思う人が増えてきて、今や私たちの一族はさまざまな派閥に分かれてしまっているわ。そうして不満を抱いていた女と、ある客人が出会うことになった」


 それが、アイツか。


「その客人がもたらしたのは危うい知識だったよ。実際、あの女は一線を越えてしまった。同族を隷属させ、空を飛ぶ舟を作り上げ、この地へ侵攻した」

「それらしい大義名分を掲げて、結局はあの男に踊らされたというかなんというか。最終的にはその男すらも女の歪みに巻き込まれて…ってね」

「身内の恥としか言い様がない。重々、申し訳ない」


 こうなると、地球人の印象良くないですかね。


「ねえ、ガレットさん。その知識って、こことは『異なる世界』のものではないかしら?私たち『連合』はね、この世界の探求とともに、その『異世界』に関わる情報の収集も任務とされているの。彼もそのひとり」


 わーお、マジでか。ヨーギーさんスパイ?いや、スパイっていうとかわいそうか。


「理由はなんとなくわかるでしょう?その知識の危険性を私たちは身をもって知ったわ。一方で、その可能性も」


 言葉を切り、こちらを見るウーリアさん。


「ねえ、ベルちゃん」

「なんでしょう」

「貴女もそうなのかしら?あなたも『あちらの』知識を持っているの?」


 さてどうしたものでしょうか。話さざるを得ない空気ではあるんでしょうけど。ふと、おばさまが立ち上がり私のそばへ。シエイさんもそれに続く。バルくんやリラちゃんまでもそれに続く。野次馬たちまでも、いや狭いって。


「私たちは、お前の味方だよ」

「…ふふ、心強いですね。みんな、ありがとう」


 ここで引いちゃ女が廃るってやつですか。


「仰るとおり。私の頭の中には、あちらの『記憶』があります」


 濁した表現ですけど、とりあえず必要なことだけでいいでしょう。しかし、このアプローチの仕方。こちらに『誰か』が流れてくることはよくある…いや、そうか。時代はともかくフソウは日本文化といってもいいでしょうね。もし、フソウの人を見てそう判断したなら、連合に『日本人』を知る誰かがいるということですよね?


「連合の総長もね、『異世界』からの客人なの。『ニホン』と言っていたかしら」

「…総長ってお若いんですか?」

「今は…三十半ばのはずよ。もしかして心当たりがあるの?」

「いえ、ただあまりお年を召した方だと正直話は合いませんからね。同郷とかあんまり関係ないでしょう。私が持っている知識は所詮子どものそれに毛が生えた程度のものですよ」

「あら、子どもの持つ知識の延長であんな舟を落としてしまうのね」

「深い洞察は期待しないでくださいねってことです。子どもだって石を投げれば誰かを怪我させますよ?そんな話です」

「物騒な石だわ」


 ころころと笑う支部長さん。


「ベルちゃん」

「出ましたね、ヨーギーさん」

「…怒ってるかい?」

「おばさまにカミナリ落とされたんでしょう?じゃあ、私からは何も」

「…では、改めて。『銃』というものを知っているかい?」

「知ってますよ…しかし今さらですねぇ」

「本当はもっと早く聞こうと思っていたのに今回の騒ぎだ。ベルちゃんはもっと突飛なものを見せてくれたしね」

「あれとはまた違うんですけど。むしろハルーンの人たちに確認しておいた方がいいのでは?」

「それはそうね。どうかしら、ベリルさん?」

「話だけはね。なかなか危険な武器らしいけど、あんな鎧を作っておいて今さらではないかい?」

「…お見せしましょうか」


 なんか不安になってきた。脅すようで申し訳ないけど危機感を持ってもらうとしよう。『ポータル』からコンテンダーを引っ張り出す。せっかく作ったのにほぼ使ってませんね。


「これが『銃』です。形はいろいろですが持ち手と引き金と銃身。骨子はそんなところでしょう」

「威力は?」

「ここから…そうですね、直線距離で大樹の辺りまで、当たり所しだいでは一発で事足ります」

「そんなにか…」

「大きな音はしますが、事前知識なしに遠距離から狙われたらどうしようもないですから。次に…」


「まだあるのか」


 そんなにはない。ソウドオフショットガンとM79グレネードランチャー。いずれも似通った機構をもつ銃だ。


「私が所持しているのはごく単純で初歩的なものです。もっと厄介なものは幾らでもあります。真剣に考えなければならないのは、多少の知識と魔法があったとはいえ、子どもの私が、こちらにある材料で、銃を制作できたことです。ハルーンの人たちなら簡単に複製できると思いますよ」

「お、おいおい勘弁してくれよ」


 テンパるベリルさん。


「万が一、ですよ」


 総長さんとやらも知識の危険性と可能性を考えたんでしょうね。ただ、私の知る限りこの世界にある日本らしさはフソウぐらいなんですが。総長さんと、一度話してみたいものですね。



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