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戦禍の魔女、咆哮。

「全く、凄まじかったですねぇ」

「ベルさまの料理は偉大ですね」

「別に私だけじゃないですし。あそこのお料理はどれもおいしいですよ?」

「ええ、確かに」


 ふたりで肉そのものを挟んだハンバーガー的なものを頬張りながら、家路につく。普通にありましたね、バーガー。歩きながら食べるとかお行儀はよろしくないが、こちらではこういうのもあまり気にされない。モントレアの肉の柔らかいところを野菜とともに挟んだだけの野趣あふるる食いもの。実際イケる。これに甘辛な味のソースがつけばマストバイ。いや、月見……そうか、これに月見という選択肢があったか!


「ベルさまが燃えている…」

「食道楽も悪くないですねぇ!」


 目尻が下がる下がる。食は人生を豊かにします。前世で、現代は飽食とか云々言ってたのがしゃらくせぇってハナシですよ。旨いものを食らう。大事。


「まあ、シエイさんがそばにいてくれるから百倍おいしいんですけどっ!」

「もっ、もう。ベルさまってば…私もですっ」

「シエイさん…」

「ベルさま…」


 シエイさんとリア充フィールドを形成していると、広場から何やら喚く声。見れば、ヨーギーさんと先程のご婦人がフードを被った怪しい…少女らしき人間ともめているようだ。するりとトンファーを抜き、体の陰に隠して近づく。こっちでは即座に武器に見られないらしく重宝しそうだ。いきなり銃は抜けませんしね。


「ベルさま、敵ですか」


 バーガー片手にキリッとされても…あ、私もだ。


「…話を聞いてみましょう」


 声を掛けようとした瞬間、少女がフードを取り去った。その素顔は。


『エルフ、キター…って遅っ!十年越しじゃないですかっ!』

「ベルさま、どうしました?」

「とりあえず食べましょう」

「あっ、はい」


 スタッフがおいしくいただきましたよっと。


「ちょっとヨーギーさん!ってかそこのエルフっ!」


 聞こえていないのかガン無視。何をそんな真剣にと空を見れば、なんとデカイ舟。木造の、いかにも舟。翼のようなものを生やし、船底からは着陸の際にでも使うのだろう、突起が生えている。さほど高いところを飛んでいないせいか、息が詰まるような存在感を感じる。


 ともかくあのエルフだ。いや、エルフだと通じないのか。


「そこの鼻の長い人!」


 …間違えたー!


「鼻はふつうでしょおー!?」


 ええ、小鼻がキューティクルですね。髪じゃねぇ、落ち着け。


「あの、あの…ほらアレ!?」

「そうよアレよ!アレなのよ!」

「待った。落ち着くんだ、ふたりとも。何が何やら」

「なんなんですか、耳の長い人!あーいうのはアリだったんですか!私なりに文化侵略自重せよとか考えてたのにっ!」

「うるさいわね!とにかくアレなの!アレがこの街を…」

「落ち着きなさーーーいっ!」


 ご婦人が一喝。無理をしたのかむせるご婦人。背中をさすりつつ、声を掛ける。


「し、失礼しました。気が動転してしまいまして。さ、落ち着いて呼吸を」

「あ、ありがと…」


 いまいち状況がわからない。あの舟が何かマズイのだろうか。


「そこの、あー…何さん?」

「クランよ」

「クランさん、あの舟は何ですか?あなたもですけど、目的は」


 とか何とか言ってるうちに、舟に動きが。


 というか、撃ってきた。


「はあー!?」

「パック!」

『あいよっ!』


 撃ち込まれた火炎弾は私たちに届く前に強風に押され、霧散する。無理な防御だったのだろう。妖精が肩で息をして…妖精!?


「パック、どう?」


『一発ずつならまだいいけど、同時に撃たれると押し切られるな。やられる前にやらねぇと』

「できればやってるんだけど…」

「き、君!その小さいのはいったいなんだい!?それに、撃ってくるなんて」

「言ったでしょう、襲われるって!アイツは名目上この地を取り戻すためって言ってるけど…っ!」


 新たに飛来する火炎弾。今度は風の防壁も間に合わない。


「ぐっ…思ったより重かったですね。これは、回避が鉄則ですか」


 スレスレで『ポータル』からの召喚が間に合った。知らない人にはただのでかいモニュメントに見えるだろうブツが炎を防ぐ。


「空間魔法!?あなた、どうして…」

「今は後!あの舟に弱点とか無いんですか!?」

「だからあったらここまで来させないわよ!乗ってる人間から魔力を吸って動いてるハズだけど!」

「普通に落とせってことじゃないですか…どうしますかね」


 ごちゃごちゃやってる間にも状況は動く。火の矢が二つ。街に放たれる。


「節約のつもりですかっ!」


 腹立たしい。ところどころ鉄板で補強したりもしたが、それが延焼を防ぐわけでもない。ほとんどの建物は木造だ。火は即座に消さなければ。


「ヨーギーさんっ!避難誘導と、余裕があれば防水槽から水を!あとこちらのご婦人も…」

「私は連合支部長ウーリアよ。避難誘導は任せて」

「そう…しぶちょう!?そ、それはどうも、初めまして」

「うふふ」


 いや、さっきぶりか。


「のんきにお話ししてる暇はないわよ!」


 先程よりも強い魔力が吹き上がる。余力はあるのか。


「こっちが蒔いた種だからね。可能な限り手伝うわ。でも、今向かってる残りの支援が間に合うかは…」

「…やるっきゃないですか」


 私が行使する魔法では届くはずもなく。銃も有効射程外でしょうし。残る手段は『奥の奥の手』。


 あれは絶対に目撃者が出るんですよね。あんなの作っちゃった私はまだここに居させてもらえるんだろうか。


「何か…手があるのね?」

「失敗したら最悪、私が死にますが」


「じゃあ駄目に決まってます!」


 シエイさんがご立腹。そりゃ怒りますよね。まずったな。


「シエイさん、街の危機なんです」

「街なんてっ…いえ、すみません。口が過ぎました」

「いいのよ、大事な人なのよね。だから、私を恨んでいいわ」

「え…」


 ま、そうなりますよね。


「ハドモント連合支部長として非常権限を行使します。ベルガモート・ヴィ・シェルレギア。貴女にお願いです」

「…命令ではなく?」

「ええ。この街を救うため、力を貸していただけませんか?街が守られた暁には、以後発生しうる不利益から可能な限り、貴女と」


 ちらとシエイさんを見て。


「貴女の大切な人たちを守ると、誓いましょう」

「………」

「ベルちゃん…」


 …なんて、考えるまでもないんですけどね。そもそも時間がねぇ。答えなんて、決まっている。


「んぅーーーー!?」


 シエイさんの唇を奪った。そして、貪った。


「あ、あらまあ」


 ヨーギーさんは絶句のようだ。知ったことではないが。それはもう泣かすレベルでいただいた。報酬の前払いってやつだ。


「ぷはぁ、ベっ、ベルさまぁ?」

「シエイさん。まず、ごめんなさい」

「はっ、はい」


 ちょっと、ジェントルじゃなかったですね。


「…万が一の時は、後の事お願いしなきゃならないこと」

「ベルさまっ!」

「ホントに、万が一ですよ」

「………」


 シエイさんが怒ってる顔、珍しいかもですね。いや、そもそも帰ってくる気マンマンですから。


「帰ってきたら、続きをしましょう」


 いや、これだとフラグだな。


「ベルさま…」


 シエイさんはそんなの知らないし、額面どおりに受け取ったようだ。


「私は、避難誘導と消火のお手伝いをします」

「はい。そしたら私はアレに専念できますね…ホントは私だって一緒にいたいんですからね?」

「わかってます…」


 名残惜しいが、そろそろ行かねば。


「ベルちゃん、ありがとう」

「全ては終わってからですよ。私が『穴』に入ってから出てくるときに大きな音が出ると思いますので、離れててくださいね?」


 この辺りは流石に私たちしか残っていないだろう。行こうとする私にシエイさんが声を掛ける。


「ベルさま、いってらっしゃいませ!」

「…いってきます!」


 私は皆から離れ、通りを走り出す。跳躍し、足下に展開する『ポータル』は最大級。その中へ滑り込み、『操縦席』へと飛び乗る。


「まさか実際に使うことになるとは…」


 『ポータル』内で試運転は済ませている。『右腕』『左腕』『両足』へ、銅とケイ素で構成された『導線』によって魔力が駆け巡り、自分のイメージはきっちり反映されている。女性をイメージした純白の体躯。本当は紅くしたかったけど。装備はショートソードとワイヤー。まだ効果の薄い、魔力を充填しておくための電池のようなもの。『ジェットエンジン』にいたっては戦闘機動はぶっつけ本番。


(…やれやれ)


 自分の手にハドモントの安寧。重責だ。それでも、今行かずしてどうする。私が、今度こそ護るんだ。


 街の皆の、その笑顔を。


『誰だか知らんが、てめえなんぞに壊させるか』


 操縦把を握り込む。魔力は十分。鼓動は力強く。腰部ブースターに火を入れる。


 Grand

 Armed

 Leathal

 Enfocer


 冠するは戦場の魔女の名。


「吠えろ…『モリガン』!」



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