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少女、命の洗濯。

 着物のオーダーメイドも何とかしてもらえそうで良かった。私もランさんに着せ替え人形にされそうなのがアレだが、我慢しよう。


「ベルさま…これはもしや」

「ええ、シエイさん。『お風呂』ですよ!」


 少し時間がかかったが、今日はいよいよお風呂のお披露目。ようやくだ。


 三人くらいは一緒に入れそうなたっぷりとした浴槽。排水は利用しないことにして、いちおうフィルターを通して流している。精錬鉄製のバスタブの表面をさらにケイ素でコーティング。感触もそれらしくなった。魔法でお湯を溜めるわけだが、魔章を使って沸かすほうがいいだろうか。でも直接肌に当たるしな。火傷するようじゃ困る。


「ベルさま、私、ベルさまと暮らせて本当に幸せです!」

「はっはっは。くるしゅうない」


 感謝してくれていいですよ、体でね……とか考えてたら本当に服を脱ぎだした!


 いや、もちろんわかってる。早く入りたいんですよね。だが待て、湯がまだだ。


「そ、そうでしたね」

「ぱぱっと沸かしますのでね」


 巨大な水球をさらに加熱し加減をみる。


「どうです?」

「もうちょっと熱くても…」

「では…これくらい」

「ああ、丁度いい具合です」


 湯を浴槽にプールして私も服を脱ぐ。小柄ではあるが、女らしい体つきになってきただろうか。


(まあ、シエイさんと比べちゃうとなぁ…)


 女性としては高めの身長。その褐色の背中。ムキムキということはない。すらっとした背中だ。頼んでみたら触らせてくれた。おお、すべすべだ。くすぐったいのかうごめく背中。


「あのっ、とりあえず入りませんか」

「それもそうですね。では、まず掛け湯を。お湯の温度に体を慣らすのです」

「詳しいですね」

「いきますよぉー」


 ざぶーんとひとかけ。私もシエイさんにやってもらい、ふたりして湯舟につかる。


「ぅぃー…」

「ぁぅー…」


 至福。隣を見ると、シエイさんがほっこり侍だ。ちょっと下を見る。すごい。びっくりするほどではないが、すごい。あ、バレた。


「ベルさま…」

「い、いえ、違うんでっすぉ?」

「気になり、ますか?」


 それはもう。


「え、えっとですねぇ」

「…触って、みます?」

「いいんですかぁっ?」

「女同士ですから、ね」


 ベルさまは性別関係なくえっちかもしれませんよォ?


 …落ち着け、ストイックでジェントルなベルさまになるんだ。これは身体検査だ。マンモグラフィだと思え。黙れよ、脳内ベルさま。その褐色の、あれを、指先でそっと、そっと…触れてみる。


「…んっ」


 おぅ。今度はぽふっと、下半分を包み込むように持ち上げる。やわらかい。何度か繰り返す。


「んむ、ふ…っ」


 おぉう。


 あ、あかん、これ以上は。吹っ飛びそうだった理性を押さえつけ、手を離そうとしたところで指先がナニかをかすめた。


「〜〜〜っ!」


 ばっしゃんばっしゃん水面が揺れる。


「ひぃい!すいません、すいません!」

「はぁ、だい、大丈夫です、から…はぅ」


 肩をぎゅっと抱いたポーズのせいで胸元がさらにすごいことに。


「さ、先にあがりますね!私」


 縁に手をかけたところで、後ろからシエイさんが抱きついてくる。


(っあーーー!)


 当然腰の辺りにすごい感触。私が男だったら危なかった。いや女でも充分ヤバイわっ!


「ベルさま、怒っていませんから。きちんと暖まってください」

「へっ、へぇ」


 引き寄せられるまま、シエイさんの膝の間に収まる私。あれ、どういう状況?


「私、ずいぶん昔に姉にこうしてもらったことがありました。姉もこんな気持ちだったんでしょうか…」


 わかりませんが私のほうは全然冷静でなくてごめんなさい。背中を押しつけたい気持ちを必死に抑えこんでるのぉにィー!むにゅってキター!


「ベルさま、あったかいですね」

「…シ、シエイさんもっ」

「…ベルさま、姉上って呼んでみてください」

「……あね、うえ?」


 くりんと首をかしげてみる。


「っ!っ!」


 口元が波線ですね。おやおや、シスコン侍が追加ですか?あの、ちょ、水面叩くのやめてもらえませんかね。痛くないです?


「はぁはぁ…」


 今日はずいぶん積極的なシエイさんですね。そんなにお風呂が懐かしかったですか?


「まあ、喜んでもらえたようで何よりです」

「はい、とても……?」


 ガサガサと草を掻き分ける音。さてはノゾきかと『M79』の風圧弾頭をチョイス。構え…


「おばさまでしたか…失礼。ってか、バッテンさんは自重してください。男性でしょう」

『む、すまんな』


 私は別にいいんですけどね。相手は狼だし。バッテンさんは父親代わりなとこあるけど…身体を洗ってあげるくらいは問題ない。しかし、シエイさんの柔肌を余人に晒すわけには。


「これが『風呂』か…どうしてわざわざふたりで入ってるんだ?」

「…お湯の節約になるんですよ」「今考えたろう」

「何ですか?そういうこと言う人には使わせてあげませんもん!」

「わかった。もう余計なことは言わないから、私も入れてくれ」


 するする脱いじゃうおばさま。今さらですけど、この半屋外型お風呂になぜそうもためらいなく?私は眼が幸福ですけど。シエイさんはともかく、おばさまは私の前で裸になることにもう少し気を遣っても良いでしょうに。


「今更だ…ぁー…いいなこれ…ぁぁ…」

「今更ですかぁー…ぅー…」

「………」

「…シエイさん寝ました?」

「ふいまへんねてまひぇん…ははうえ、これはめいそうでふ」

「こりゃだめだ」


 ほっぺをつんつんする。


「…仲が良いな」

「悪いよりはいいですよね?」

「まぁな…」

『………』


 バッテンさんが放置でしたね。


「バッテンさん、人間以外がお風呂に入るのもありなんですよ」

『ほ、ほう?』

「山あいにしずしずと雪が降るなか、湯につかるバッテンさんと秘書さん。濡れる毛並みはいつもより色気三割増し」

『おい待て』

「潤む彼女の眼、自然、ふたりはそっと寄り添い…」

『ち、違う。私たちはそのような仲では』

「違うんですか?」


 バッテンさんの後ろには野性の迫力を宿した眼差しを向ける雌のオオカミさん。


『あの日の誓いは嘘だったのですかぁあああ!』


 逃げていく。泣いてないか、あれ。


「ばか、追わんか!」

『う、うむ』

「駆け足!」


 …オオカミの業界も大変ですねぇ。



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