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少女、噛みしめる。

「…魔法の武具。母さまの短杖がそうだったわけですが…」


 パッと見て普通の短杖。紐解いてみれば、これは魔章の塊だ。魔章で刻まれた回路による魔力の誘導と均一化。先端の宝石のような部分までビッチリ魔章が。見ると『拡張』のニュアンス。


「母さまが手紙に書いてたのはコレですね」


 迂闊な組み方をすれば魔力をごそっと吸われるようなブツが出来上がる可能性もあるわけか。そもそも知識が無ければ関連付けを考えるのも大変だろう。ただ、自分は電子機器の存在を知っているし、プログラム構築のようなものと思えば。もっと簡単に言えばゲームでアビリティの効果の兼ね合いを考えるのにも似ている。作業は難しくはあっても苦ではなかった。そうして作業に邁進しているうちに。


「できちゃいましたね、『ポータル』」


 私専用の空間魔法、と言っていいんでしょうかね。『空中』に魔章で描かれる円環が現れ、その輪の中が出入り口。だから『ポータル』と名付けた。ずっと魔章とにらめっこだったので大体の魔章は暗記出来ている。コレ、イメージだけで機能させらんないかなと魔章を暗記。そこから誘導されていく魔力の『感じ』を覚えて、その『感じ』から逆算するように魔章を起動してみたら、出来た。


「ふふふ」


 いい。これは実に、良い。当初予定していた最大域で展開してもさして疲労はない。大きい空間の維持はまだわからないが、コンテンダーと同じくらいの容量を複数維持しても特におかしなことはなかった。自分の周りを探ってみても、何かが引っ掛かるわけでもなし。勿論中身も無事取り出せた。


「出した後はともかく入ってる間の維持は…?内容物に魔章を関連付けて、空間の保持を行う…?」


 後は『中に人が入れるかどうか』なわけだ。厳密には生物か。ポーチの場合はガワをぶん回しても中身は問題なかった。『ポータル』の場合も、トレーにのせたものはのったまま出てくる。腕を突っ込んでもまあ変なことはなかった。それくらいできなきゃ危ないし。


 これで全身放り込んで大丈夫なら、怪我人を安全に移送できたりもするんでしょうが…万が一、取り出せませんとかなったらシャレにならんし。頭だけ出しとくとか?


「どれ」


 『ポータル』を展開。銃のグリップを出したまま、閉め…られない。全く動く気がしない。いったん銃を取りだしてから『ポータル』を閉じる。今度は閉じた。何も引っ掛かるものはない。


「ふむ。まあ首チョンパとかはならなそうですね」


 『ポータル』はとりあえず完成だ。私にとっての大きな武器となるだろう。旅する間も両手が空く。選択肢も広がる。


「アレも、いや、やっぱりアレはやりすぎかなあ…?」


 そろそろ地下室だけでは手狭だ。組み上げたら『ポータル』に放り込んで『持ち歩く』ことになるか。完成したらの話だけど。


(…自重なし、でしょう?爆発するようなシロモノでもなし。使わないならそれも結構な話ですよ。追加装備もまあ、念のためです)


 追加装備の基礎はすでに『あの時』自分でやっていた。あの時より大きく、大出力で。


(こっちは実質爆発ですからね。慎重にやりませんと。あと、うるさいし)


 そろそろお昼か。固まった体を解し、地下室から出る。今日はシエイさんの手料理である。おばさまも手伝うんですけど。誰かの手料理とか新鮮ですね。まあ外食は別として。


「シエイさーん。おばさまー。ベルはおなかがすきましたよー?」

「ああ、そろそろできるぞ。手を洗って待ってろ」


 そんな首洗って、みたいなニュアンスで言われましても。素直に家の裏手で手を洗い、顔も洗ってさっぱりして再びキッチンへ。


「おおー!」


 今日は例のアレがある。味噌だ。いつものルートでフソウから取り寄せてもらった。お米の追加も。魚は川魚が精々。それでも、これで和食に近づける。厳密にはフソウ食、ですか。おばさまは米はともかくフソウ食は初めてのはず。さあ、実・食!


「…の前に。はいシエイさん、お箸」

「これは…」

「フソウでもお箸だったんでしょう?精錬鉄で作ったんでちょっと重いですけど」

「…大事にします」


 ただの食器ですよって。


「ベル、私には無いのか」

「用意はしましたが、いきなり使えますかね…?」

「やってみなければわからんだろう!」


 挑戦と取ったのかむきになるおばさま。


「薬指で支えて、上のお箸を動かすんです…そうそう、良い感じ」

「と、当然だな」


 ちょっと震えてますが、握力で頑張ってる感じですね。


「それでは改めまして。大地の恵みに感謝を。いただきます」

「いただきます」

「いただきます」


 白米を一口。よい粒立ちだ。品種としてはやや甘さが控えめか。しかしこういうのはしっかり噛み込むことで解決するのだ。


「うむ、む」


 おばさまがお箸に苦戦するのを視界の端に、次はお味噌汁。フソウから離れた土地で豆腐は無理ですが。ずずり。


「…いい…シエイさん、ありがとう。本当に、ありがとう」


 私は少し泣いてないか。


「ふふ、いえいえ」


 キレイで強くて料理もできて。そんな人が私のそばにいてくれる。なにそれ、しあわせ。


「あぅ、はぅ、シエイさん。シエイさん」

「ど、どうしました?ベルさま?」

「私、しあわせなんですう」

「な、なるほど」

「ぐわー。てがつったぁー」


 大丈夫ですかおばさま?すごく棒読みですけど。次は味噌焼きの魚に手をのばす。


「どうして、ふたりともそんな、ひょいひょいとっ、くっ」

「子どもの頃からこうでしたから」

「私も、昔の話ですけど。覚えてるもんですねぇ」


 ちょいちょいと魚の身をほぐしつつ、白米とともにいただく。おおぅ…


「旅に出るときはフソウにも行きましょう。それでご両親にご挨拶など…」

「ぶふぅ!」

「うわっ。シエイ、汚いだろ」

「シエイさん、文字通りの意味ですからね?もちろんソチラの意味でも、近いうちに…」


 魔法で出したお湯でシエイさんの顔をもみ、顔を拭う。


「ベルさま、自分でできますので…そ、それよりも、あの、急ぐことは無いのでは?」

「それはそうですが…何か問題でも?」

「行き倒れた末に、自分より年下の少女のお家に厄介になっていると知れたら…」

「ご両親は厳格なかたで?」

「…どちらかと言えば母上が」


 ふむ、そういうヤツね。容姿が少女とはいえ、今のシエイさんは嫁入り前の身でありながら男の家に居候しているようなもの。お堅い思考でなかったとしても、親の身としては心配か。


「シエイさんは私の大事な人。何も問題は無いのです。なんとなれば私も怒られるとしましょう」

「ベルさま…」

「おお、あついあつい」


 おばさまが物凄いジト目ですね。いいんですか、そんな態度で。


「なんですか。おばさまだって最近はヨーギーさんといろいろ…」

「んなっ!お、お前。馬鹿な、アイツは違う。違うからなっ?色々不慣れな街を案内してやっている、それだけだっ!」


 もう何ヵ月目ですか。いい加減覚えたでしょうよ。おお、あついあつい。



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