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少女、心躍らせる。

 銃のお披露目からしばらく。特に何があるわけでもなく、いつも通りの日々が続いている。朝のフィールドワーク。少し持久力が増したかも。帰りにバッテンさんをモフモフ。秘書さんもモフらせてくれるようになったのだが。


「………」

『ふっ…ぅん…くぅうんっ!』


 喘ぎ声ですね、これは。私もわかってやってんですがね。マッサージですから。ええ。ここか。ここがえぇのんかぁー!


『んっ!んっ!んんーっ!』


 …ふぅ。


 …はっ!シエイさんがためらいがちにこっちを見ている。嫉妬は、無さそうだ。いや全くないのもどうだ。ケモノはノーカン?


『あ、あれ?終わり?』


 とか言わない。森の方も相変わらずで。ホント拍子抜けするくらい。


 あ、この間モントレアを仕留めたことがあったっけ。もうこれ魔物だろってやつ。魔石が取れるわけでもなく、ひたすら黒くてデカイ。この世界における脅威は巨大化か。魔法があってまだ良かった。落とし穴作ってポイである。お肉はザ・牛。食べ甲斐はあった。味は、要研究か。鶏と豚は代わりがあるわけだから気長にかまえておけばいい。


 街のほうはどうか。バルくん…いやもうバルって呼んであげようか。もうぐんぐん背が伸びて、青年といってもいいだろう。同年代に見られることはなくなった。力ではすっかり男だ。もう少し肉がついたら警らも務まるだろう。


 そんで、リラちゃんはそのバルくんと付き合い始めた。まあ当然だ。私が彼女を徹底的に援護、妹持ちの兄として聞き齧ったお洒落スキルを駆使して磨き上げた逸材である。そのバディは『天然物』。何度か見たが凄かった。シエイさんがいなかったら私がいってたかもしれない。そんな毒のようにじわじわと、もとい堅実なアプローチの結果、バルくんの心を射止めたわけだ。人はこれを─


─計画どおり


 という。まあ、私のな。妙な三角関係を避けるため。バルくんをこの地に引き留めて、願わくはミゲルさんの店を続けさせるため。


 考えが黒い?そうかもしれない。だが想像してみてほしい。片や内気な酒場の娘。片や人好きのする、しかし普通の青年。少女はそのささやかな想いを一途に貫き、自らを磨き上げ、その想いは報われた。


 青年は幸せ者だ。『祝福』されて当然なのだ。酒場のおいちゃんが、街の若者たちが、全身全霊の『エール』を贈る。ときたまあるマジシャレにならないやつだけを私と、もうひとり、最近知り合った『おねえさん』が対応する。『静かに話せる場所に連れ込み』『アッー!』という間に説得が完了する。何かの幇助をしている気がするが人死にはないので問題ないのだ。


 新しい出会いもあった。その服屋の『おねえさん』だ。まあ何度か顔はあわせていたのだが、後日『改めて』出会ったのだ。


 ハドモントの服飾はまあ悪くない。ごわごわしていなくもないが、日常生活に不満はない程度。


 そしてその人は肌着に着目していた。実際飾り気のないものなのだ。見えないところを着飾るくらいなら勝負下着はノーパンで。そんな思考回路の女性たち。パネェのはフソウだけではなかった。


 ともかくその人は肌着も飾り気のあるものをと試行錯誤していたそうだ。私もブラはともかくカワイイショーツくらい欲しいなーと少女らしい思考回路で服屋の扉を開け、振り向く男性と目が合った。女性用の肌着を胸に当てたまま、難しげな顔でこちらを振り向く齢三十五の、男性だ。


『待って、違うの』


 言い含めるようなハスキーな声の弁明でしたね。私はそれを右手で制し応えた。


『わかっていますよ』

『えっ?』


 利害の一致だ。その主人は着想を、私は現物を。禁じ手『神様からの啓示です』も念頭に入れつつ、ふたりして『インナー』の開発に没頭、いつしか戦友となっていた。まだまだ浸透してはいないが、いずれ一大ムーブメントを起こすと良いですねと挨拶してとりあえず自分用の無難なのとちょっと冒険しちゃったのを購入する。


 ナップサックにショーツをしまい、ミゲルさんの店へ。今日は以前言っていた『魔法のカバン』的なヤツが入荷したそうなのだ。心の中で小躍りしながらの来店と相成った。


「ミっゲルさーん!」

「はいはい、聞こえてるよ。そういう元気なところは誰に似たのやら」

「いいじゃないですかー。それよりも…ブツは?」

「誰だよ…態度変わりすぎだろ…まあいい、コイツだ」


 掛け合いもそこそこにミゲルさんがポーチを取り出す。んむ、コイツがそうか。


「手に取っても?」

「おう」


 小さい拳銃が収まりそうなくらいのポーチ。開けてみる。口は革らしい感触。無闇に伸びたりはしない。指をいきなり突っ込むのは怖かったので、提げていた『トンファー』を抜き、中に突っ込んでまさぐる。ぶつからない。これで意外と容量はあるのだろうか。


「だいたい、見た目の三倍くらいの容量らしいな。そいつは」

「ふむ?」


 そのわりには全然壁にぶつからない。いや、そうか。文字通りの『容量』か。残り何バイトとかそういう。この『トンファー』なら三割くらいの容量を使用か。よく見ると口の辺りでトンファーが切れている。急いで取り出すがまあ元通りだ。良かった。精錬鉄から魔力が吸われた様子もない。


「貰ってた予算だとそれくらいがちょうどでなあ」

「なるほど」


 まあ予想はしてたが、安い買い物ではないようだ。貯蓄は充分にあるので予定の範囲内の買い物ではあるし。それになんのかんのでミゲルさんのツテあっての買い物だ。しっかり使わせてもらうとしよう。


 ミゲルさんの前では。


 この拡張収納の概念、実は母さまの資料の中にあった。ただ資料を編纂した時点ではまだ完成していなかったはず。後の研究で完成を見たわけだ。そういう下地があるので私は現物を入手したうえで、あの、アレ…参考にすることにした。大丈夫、いざとなったら母さまが自力で完成させたことにすれば。ポーチのほうは小額を入れる財布兼小物入れとしよう。


 銃を携帯しつつ、身体強化しながらチャンバラとかちょっと暴発が怖いので、隔離して持ち運べる環境が欲しい。それに生物が入るかどうか。状態保存はいかに?サイズの限界などなど。これからの開発計画を練りつつ八百屋になだれ込み、買い込んだシチューの材料を試しにポーチに突っ込み、家路についた。



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