少女、自問する。
私がお世話になっているベルさまは不思議な人だ。見た目は可愛らしい少女。笑顔も眩しい。たまに怪しい笑いかたをするのは気になるけれども。私のような行き倒れの命を助け、自身の家に住まわせてくれている心の大きい少女でもある。
その背中は時に大きく、時に年相応で。しかしご両親のお墓だという碑を見るときの表情は母性というか、深みというか。そんなものが感じられた。十を幾らか過ぎたばかりの少女がする表情ではなかった。両親を亡くした境遇こそが彼女を強く在らしめるのだろう。自分ならそう在れるだろうか。
「シエイさん?どうかしましたか?」
「い、いえ。少し考え事を」
「そうですか」
後はいろいろなものを作るのも得意なようだ。あのお粥は今でも涙とともに思い出される。ろくでもない自分の失敗も同時に思い出されるが、そもそも森に入らなければベルさまに拾われることはなかっただろう。そう、私の選択はまちがっていなかっ─
─ボン!
「わっ!な、なんですかこれは!すごい音がしていますが!火を、火を止めた方が」
「いえいえ一気にやりきった方がいいんですって」
小さな爆発を繰り返す鍋。平然としているベルさま。心強い…。透き通る鍋の蓋から、先程の黄色い粒が真っ白い物体に変わっているのが見える。油を切り、もこもことしたその物体を一口。
「はふ、ふん…うんうん」
「いかが、です?」
「食べます?」
いただきます。ひとつ手に取り、もぐもぐ。ふむ。この塩味、口の中に広がる油の甘味。すすみますね。あれ、ベルさま?
「私そんなポップコーン好きじゃありませんでしたね」
ええ…美味しいですよ?食べないんですか?いただきますよ?
「少量で済ませて正解でしたね。あ、よければ残りはどうぞ」
「いただきます」
「あ、でも…食べ過ぎて太っちゃっても知りませんよ?」
「大丈夫です。フソウの者は滅多なことでは太りません」
「そ…それはすごいですね」
皿のポップコーンを食べきって、温かいお茶を淹れてもらって、いっぷく。ふう。
「はぁ、幸せ…」
「そ、それはどうも」
しまった。口に出た。いやしまってはない。事実ですからね。母上。私はこの地で幸せに…待て。私の頭の中の母上はいい笑顔で『灼羅』を抜いている。いえ母上、修行は欠かしていません。はい。もちろんです。穀潰しなどでは、ええ。
「シエイさん。なぜに正座ですか、シエイさん」
森の警らもしっかりと務めております。可能な限りの家事もこなしております。ですからして、ええ。
「シエイさんって」
「はっ」
いけない。ここはフソウではありませんでしたね。ベルさまが戸惑っていらっしゃる。
「私は大丈夫です、ええ大丈夫ですとも」
「何かあったら言ってくださいね。シエイさんみたいな魅力的な女性に側にいてもらえるなんて、私それだけで得してるんですから」
「うなっ!そ、そんな魅力など、ベルさまのほうがよっぽど…」
「おやおや、照れますね」
うう。そんな、同性にまでそんなことを。わかってます。ベルさまはいつでもみなさんに丁寧に接していますからね。家に置いてもらっている私がどれほど果報者か。必ずや、このご恩に報いて見せねば。
などと、シエイさんにそれとなくアプローチしつつ、私ことベルは今日もさまざまな開発に明け暮れている。まあシエイさんと同居しているので、地下室に篭りっきりにもなれないんですが。
シエイ・イスルギさん。フソウなる国のご出身。黒髪褐色肌の和服美人。ときどき腹ペコ侍属性が出てくるが実力は本物。というか私より強い。
あと、スリットからチラチラ見える脚を見て、まさかと思っていたのだが。彼女は─
つけてない。
はいてない。
いや、厳密には襦袢というやつだろう。着替えるのを見たとき、下にも何か巻いていた。でもそれスカートと変わらないじゃないですか!スカートオンスカートでインはどこいった?フソウパネェ。
まあそれで、昔の刀鍛冶でも飛んできたのかなとアタリをつけたわけですが。日本文化とは意外と古くから受け継がれてきたものだったはず。稲作なり、お風呂なり。自分としては助かる限り。堂々とお風呂に入れる。今は浴槽の設計中。二、三人同時に入れる贅沢をしたい。
(シエイさんと、お風呂)
ちょっとドキッとする。しかし問題はない。身体は、女同士だ。魔法で用意したお湯をぶちこむ方式なので同時に入ったほうが節約になるとも言える。つけてなかろうがはいてなかろうが、風呂入ったら関係ないから。
前々から自問自答していたのだが。私は、シエイさんが好きなのだろうか。そりゃ嫌いではない。腹ペコ侍な感じがカワイイ。でも年上なので大人っぽいところも感じる。実際おっぱいすご─それは置いといて。
好きならどうする。告白する?戦国時代なら同性でも、あれは男色か。ただイメージ的には無理矢理食っちゃう感じで。だからそれはどうでもいいんですって。
男の影はないと思う。酒場のおいちゃんたちがエロい目で見てたりするが、シエイさんの腕力はハンパなく、成人男性相手でもひょいっとやっちゃう。おかげでファンクラブみたいのが出来上がってしまった。当然本人は知らない。
彼女は魅力的な女性だ。腕も立つ。どこに出しても恥ずかしくない。待て、出すな。私を置いていかないで。
ろくな恋愛経験もないが、このうずく感じはそうなのではないか。一目惚れ?彼女が見せてくれる満面の笑顔が可愛かった。一方で彼女の辛そうな表情を想像すると胸が苦しい。彼女が居なくなったら、きっとすごく寂しい。彼女が他の誰かと一緒になったら。祝って、やっぱ無理。女同士だからって知るか、好きなんだよ。抱き締めたい。独占したい。押し倒して、頬を染めるシエイさん。そんな彼女を好きにしていいのは自分だけ。
何考えてんだ、私。
「どう…しました?」
「シエイ、さん」
「はい」
この手で触れる彼女の肌が。艶やかな髪が。
「べ、ベルさまっ?」
そのぬくもりが愛しくて。
「好きです」
言っちゃった。
「ふふっ。私も好きですよ」
んー、シエイさんたぶんわかってない。これはライクじゃなくてラブなんだ。何だったら今すぐベッドでニャンニャン─
だから、落ち着け私。
「シエイさん。私、真剣なんです」
「もちろん私だって嘘なんて言ってません」
「それは、ありがとうございます。ただ、まあ、その。聞いてください」
「はい」
だから、つまり。
「私の恋人になってください」
「………ん?」




