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 クインティ家でのお弟子さんたちとの交流やシャワー設備の敷設などを経て、いよいよ四家会合の日。場所は『連合』メイディーク支部。メイディークに訪れた当初はその存在から失念していた。それぞれの家が魔法使いを抱えているので戦力には困らないし、採掘には採掘の専門を雇う。特筆すべき能力のない探索者は仕事が少ないそうな。


 しかし、うーむ。採掘には普通に人の手を使うのか。クインティ家から発掘用の道具をいろいろ渡されるらしく重労働感は緩和されているらしいけど。


「失礼するわね」


 お祖母さまに続いて会議室に入ると、集まる視線。それぞれの代表に同伴が一、二名。ステイネンさんと目が合うと笑顔で手をひらひら。あっ、好き。


 唐突に背中への打撃。急に立ち止まったのでシエイさんの刀の柄が当たったようだ。ええ、大丈夫ですよ。わざとじゃないですもんね。わざとじゃないですもんね? ね、違うんですよ。まだまだ女性に免役が無くて、ええ。大丈夫、このベルさま心までは奪われていない!


「さっさと席に着け」


 はーい。ブラッドレイ氏、怖ーい。


 それぞれの定位置があるらしく、私はお祖母さまの後ろにつけて、ハルーン姉妹も侍らせて。ブラッドレイ氏の後ろにいる角刈りの人はサリエリさんの店で素振りをしてた人ですね。武器も持ち込むのが普通なようだ。ステイネンさんも杖のようにもナギナタのようにも見える得物を立てかけている。


 残るはこの理系くさい、眼鏡をかけたクール美男子。男子というよりはもう少し年が上か。意外とがっしりとした体型だし、鍛えてるのかも。


「それでは、お願いします」


 代表の人が書類を引っ張り出して、そのうち何枚かを連合の人が回収していく。報告書かな。手元に何枚か残している方が会議の資料になるんでしょう。続いて、これまた連合の制服を着たお姉さんがお上品そうなティーセット……ばかりかお茶菓子までも並べていく。随分フランクな会議だ。


「ドンナさん、今日は随分賑やかですね。そちらが以前の報告に上がっていた方たちですか?」

「そうです。軽くご挨拶いただいても、よろしいかしら?」


 ハルーンふたりと、私とシエイさんの自己紹介が続く。


「やれやれ、私だけ出遅れてしまったようで。アーラン家のエイリークと申します。水を司る家系であり、行政なども、全てではありませんが監督しております」


 押しつけられてるんですけどね、と言いたげなエイリークさん。武人気質のブラッドレイ。ふわふわ気質のシフロス。クインティは真面目系だと思いますけど、技術バカだったりするんでしょうか。


 挨拶の次は行政面での連絡事項など。どこからどこまでの舗装の修繕が必要だとか、どこどこの部門からの予算の申請だとか。問題が起こったらそれぞれの家系の得意分野で対応するのがメイディークの基本姿勢とのこと。


 そして、今回のラズラにおける掘削依頼。てっきり魔法でドッカンドッカンやるんだと考えてたから既にアテが外れ気味なんですけど。


「実入りは期待できないということかい? それでは流石にね」

「ラズラ側としてはかの開けた空間を安全地帯に出来れば安心であると。好きに掘って出たものは持っていっていいってことらしいです。その過程でちょっと荒事が発生するかもしれませんが」


 オークさんたちがね。それと、今はあそこにドラゴンさんもいる。法国に直で向かったが故かこちらではたまたま目撃されていなかったようだ。


「そちらの宰相どのにも伺いたい。直接、その『ドラゴン』とやらをご覧になったのでしょう?」

「確かに。辛くも撃退に成功したのはこの娘と、こちらのハルーンなるものたちの『空艇』があったればこそ」


 買ってくれてますね。でも、押しつけたいんでしょう?


「クインティとしてはいつも通り、発掘に賛成です。贔屓目を抜きにしても気になるお話ですからね」

「私も行きたいわ。これでも腕は立つつもりよ」


 ステイネンさんは意外と好戦的か。地中深く進んでいく予定なので風系の魔法による換気の需要は確かにある。クインティ家謹製の採掘道具とやらも見てみたい。ブラッドレイ家は国防の観点からメイディークを離れることは少ないらしい。その代わりにアーネスさんへと手紙を託されることになった。読んでくれますかね、コレ。


 意外と計画自体には前向きだ。単に『空艇』で移動できるとあって魔章フリークの血が騒ぐといったところか。そこそこの人数を雇うだけあって私がこれまで見たことのないような金額を求められたが、宰相さんはコレを『空艇』の予算から捻出するつもりらしい。私が全体のゴーサインを出したので大人たちが勝手に動き始めているらしく、近く『空艇』も有料化するとのこと。初耳だがや。


「いくらかの金額がお前の懐に入る予定になっているぞ。お前が思っている以上に、皆商売っ気を出しているということだ。最初に提示されていた既存の職種の権利の保証も踏まえたうえでだ」


 ならいいか。『空艇』を職業として、責任あるものとして認知させればハルーンたちの社会的立場も安定するかなと始めたわけだし。それでさらに稼ぎを出せるならウマウマである。ただ、一隻ほど外部に流出しているのだが、どうなったんだろう。変な騒ぎを起こされる前に地盤固めをしたいところ。


「あと、お前専用の『空艇』はまた特別な扱いとなりそうだ。大きさの規制などもあるかもしれない。陛下はなるべく便宜を図りたいと仰っていたが」

「ありがとうございます。ただ、『精錬』を施さないといけないものもありますので、あまり大きなものは造りませんよ」

「それがいい。後進たちの心労を増やしたくないからな」


 まあ、部下想い。


 今回の発掘、というか探索作業はクインティ家とシフロス家が担当となった。私らから聞いたスオースの特徴から戦闘要員と採掘要員を集めて『空艇』で運ぶ。実入りがあるかどうかは半々なのにそこそこの人数が集まったので、ハドモントに寄って私の専用機も動かすことになった。さっき宰相さんが言ってたのはマジ非常時って場合は私に最速で対応させられるようにっていう計らいなんでしょうね。


 広場に集まった人たちはいかにもムキムキな男たち。やっぱり一隻では足りんなぁ。操縦者に根性出してもらえれば積載量二割増しくらいにはなるのだが。この人たちが土臭く汗臭い状態で狭い船内にすし詰め状態でフライトさせるとか鬼畜の所行ですかね。


 宰相さんを法国に送り届けるついでに『空艇』の追加を頼み、尻込みする男たちを詰め込んで法国へ。『空港』がバリバリ稼動している現状を見てメイディーク勢はもの言いたげ。法国の大人たちに言ってくださいよ。


「ベルちゃんはこの上自分専用の船まで持っているなんて。いくら出せば良いの?」

「そんなポンポン許可下りないと思いますけど」


 宰相さんを送り届けたら今度はハドモント。こちらの『空港』も絶賛拡大中なようで。私の『空艇』のためにわざわざ別の格納庫が建造されていた。積載量は通常版よりも控えめだが加減無しのエンジン搭載なので下手すりゃ暫定で世界最速ではなかろうか。事故ったらシャレならんのでやらんけども。


「私こっちがいい。格好いい」

「そりゃどうも。これだけは私の一存で動かせますので、お祖母さまとステイネンさんたちはこちらへ。鉱夫さんがたは通常版のほうでどうぞ」

「……ベルさま」


 フライト前に細部の魔章の点検をしていると、何やら思いつめたような表情のメイドさんが。シグルドさんだ。


「お久しぶりです。元気でした?」

「さみしいっ!」


 ええ……?


「私は君に報いるためなら何でもする覚悟で今までやってきた。だからって毎日毎日掃除くらいしかすることがないのはどうなんだ。洗濯物だってたまるわけがない。まず、帰ってこないんだからな。私だって他の子たちみたいに『ベルさま、お茶が入りましたよ』とかやってみたいのに!」

「なになに、痴話喧嘩?」

「違います」


 そうですね。メイドさん雇った意味ないなぁって思ってましたよ。でもね、もう少しこの生活が続きそうなんですよ……って、ああ、駄目だ。よく見りゃ盾と剣とリュックを持ってきている。ついてくる気満々だ。


「おばさまに許可はいただいてきた。見たところ前衛が足りないんじゃないか?」


 探索メインの旅程なんですけどね。場所が場所だし、仰る通りではある。よろしく頼んますよ。それと、こちらが私のお祖母さまですから。この人の聞いてる前で迂闊な言動しないでくださいよ?


「そっちは、了解した。あと、知らないかもしれないから言っておく。レジアどのが行方をくらました」

「おーいー」


 そりゃカナコさんに投げっぱだったしそのカナコさんも今はラズラに待機させてるから私がどうこう言えませんけどぉ。ろくに話もしてないのに消えてんじゃないですよぉ。


「探さないでください、との書き置きといくらかのお金が残されていた。合鍵も置いていったようだから戻ってはこないかもな」


 いいよ、もう。なるようになれ、だ。


 シグルドさんを乗っけて一路ラズラへ。上空からだとドラゴンさんは面白いほどに目立つ。ファンタジーらしい風景で結構ではあるが。まとわりついていた子どもたちを下がらせて、こちらに身体を向けて尻尾をペシペシ。ドラゴンにとってアレはどのようなアクションなんでしょう?


「待って、あそこに降りるの?」

「ベルちゃん、貴女のことは信じてるんだけどっ。アレ、アレは大丈夫なのっ?」


 着陸し、私が顔を見せると待ちかねたようにノッシノッシと近づいてくる。周りの人たちに気を配りつつゆっくりと歩く姿は高ポイント。ナデナデしてやろう。鉱夫さんたちは荒事慣れしているわけではないようでかなりビビっている。こうして撫でられているさまはカワイイものでしょうに。


「よすよす。怪我なんかはしていないようですね」

「あんなデカブツがまるで子どものように」

「嬢ちゃん半端ねぇな」


 ラズラからはミッタさんとネアさんがお出迎え。ケモ耳の登場にざわつくメイディーク勢。これくらい序の口なんだがなぁ。街中には完全に頭が獣型の人も居る。獣人の解説をしながら歩いている道すがら、完全に頭が猫のばっちゃが飴ちゃんをくれた。ありがとやで。


「どうです。気難しい人も居ますが、基本話せる人たちですよ。見てごらんなさい、このお耳を。訴えかけてくるものがありませんか?」

「ちょっ、皆さんの眼力が怖いんだけどっ」


 ネコ耳とウサ耳は偉大ゆえに。でもハルーン耳もちらほら居るなぁ。戦闘職も生産職もこなせる人材だからいろんなところに居るのはありがたいが。


「うっ、うわぁああ!」


 鉱夫さんの指差す先にはノエインさんが。こちらに気づくとわざわざ四つ脚で走ってくる。本気の時はああしたほうが速いとは聞いているが。知らない人間が見たらどんな反応をするのか。


 後ろが阿鼻叫喚。


「むぅん!」


 数歩前に出て右手を振り上げて待ち構える私。四つ脚でブレーキをかける熊さん、もといノエインさん。


「ノエインさん、そういうのは遠くから『がおー』くらいで済ませてください。皆さん怖がってるじゃないですか」

「……すまないね。最近、もっと衝撃度の高い彼が現れてからこの手のネタが受けなくなっちゃって。ちょっとさみしいんだ」


 三十代も後半らしいが熊の見た目で鼻先に手をやるアクションは可愛らしい。しかし、持ちネタ盗っちゃったか。それは確かに申し訳ない。


 お祖母さまはバッテンさんたちの一族という他例を見ているから立ち直るのは早かった。他の人たちはもう少しかかりそうだが、ミッタさんたちを可愛い女性と思ってくれるならまずは大丈夫でしょう。


「ミッタさん、アーネスさんとカナコさんはどうしてます?」

「今日はアーネスの家に二人とも居るはずよ。そういえば後ろの人は似た格好をしているわね」


 私はアーネスさんの家にお邪魔するのは初めてだな。手紙を渡すだけだから家捜しは出来ないけども。皆さんには先に記帳を済ませてもらって、ステイネンさんと、どうしても離れたがらないシグルドさんを引き連れていざ魔女の工房へ。


「ミッタさん、あの子がご迷惑をかけていないかしら?」

「……彼女の作る道具は、私たちの生活の助けとなっていますよ」

「それは良かったわ」


 だいぶ考えましたね。『それはもう』とか言いそうになりましたか? 外見は普通の借家に控えめな看板だけを提げた工房といった印象。ミッタさんがノッカーを鳴らす。


「はいはーい……って、ぅえ?」

「来ちゃった」


 この二人は別に仲は悪くないようですね。結構。早速お父上からの手紙を渡すと婦女子らしからぬ形相で破り捨てようとする。コラコラ、危篤を報せる手紙とかだったらどうする。ピンピンしてましたけどね。ブチブチと文句をたれながら一枚きりの便箋に目を通し……て、やっぱり破いた。


「仲良くしましょうよ」

「最初のほうこそちょっとは丸くなったところを窺えたけど、結局は説教と結婚の催促だったわよ!」


 諦めましょう。親ってのはどこ行ってもそんなもんですよ、たぶん。


 カナコさんも居たのでドラゴンさんの近況を尋ねて、レジアさんが失踪したことを伝えた。あまり驚かない。同居してはいたがどこか一線を引いていた感はあったと。カナコさんの言語チートによると彼女は常に丁寧語で、印象としては大人っぽいクランさんなイメージであったそうな。


「え、まさか敵になったりしないよね?」

「そうする理由はありませんけど。今回、私たちはあの森の奥の洞窟を探索に行くんですよ。彼女がなにかしらを隠しておきたいというなら、物別れに終わるかもしれませんね」


 秘匿しておきたい、という気持ちはわからんでもないが。ドラゴンさんなんかが出てきた時点でいろいろ動き始めているように思う。慎重も結構だが……あ、そういえば総長さんは結局どうしたのか。会えたのか、あのデカブツに。


「ああ、うん。良い勝負してたっぽいよ」


 マジすか。

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