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道中出くわす『空艇』をビビらせながらドラゴンさん含めた一行はラズラに到着。完全武装のラズラ勢に事情を説明して、領主さまを呼んでもらった。それにしても、ラズラはあんまり変わりませんね。ハルーンの人たちも居るしもう少し様変わりしてるかと思ってましたが。
「いやいや、驚きですね。このような生き物が居ようとは」
熊以外の何者にも見えない貴方も大概ですよ、ノエインさん。
法国勢のお二人はただの喋る熊にしか見えないノエインさんの姿にかなり動揺している。この人もそういう態度を取られるのは慣れっこなようで相手をからかって楽しんでいるふうにも見える。
領主さまの準備ができたというので案内された場所は何故だか食事処。領主さまと息子さんが待っていたので騙されているわけではない。虎二頭が待ち構えていたと思えばハンパなく厳ついが。
「はるばる、ようこそ。座ってくれ」
案内されるまま席に着くと料理も運ばれてくる。会食というかたっぷり食べる量だ。せっかく用意していただいたので促されるままにいただく。息子さんはがっつきすぎではなかろうか。肉に食らいつく虎の威容に法国勢が引いている。そのくせ領主さまはそんな態度を咎めようとしない。あるがままを見てくれ、ということだろうか。あるがまますぎる。
「どうだろう。私はここの味付けを気に入ってるのだが」
「う、うむ。実に趣深い料理だ。こう、野趣あふるる……」
そのつもりはないでしょうけど。領主さまが『どうなんだ、ぅん?』って顔をすると凄まれているようにしか見えなくて。団長さんはお気に召したようで端からがっついていく。真面目な話をするんじゃなかったか?
料理を話題に挟みながら、法国側の意思表示をしていく。領主さまは飲み物をすすりながら黙って聞いている。あ、息子さんが手を止めた。たぶん真剣な表情なんですけど、タレを拭こうぜ。
「我々からは以上だ。本当に、申し訳なかった」
「……口だけなら何とでも言えよう」
息子さんが立ち上がり宰相さんに歩み寄る。
「お前は、産まれたままの姿を蔑まれ、大事なものを奪われた経験はあるか? 話も通じぬ蛮族に己の守りたいものを穢されたことは? この地でひと月も暮らせばそういったことは珍しくもない」
さらに顔を近づけて、唸り声まで上げて。
「ましてや、それが他者に騙された結果、押しつけられたものだったとしたら。許すのか?」
「……憤り、抗うだろう」
鼻を鳴らし、席に戻る息子さん。キツい。なんで私はここに居るんだろう。領主さまは息子さんを止めようとしないし。
「我々のほうも色々意見は割れていてな。人手を回してもらえるのはありがたいが、そなたたちの姿に忌避感を抱くものすら居るのだ」
「そういうことも、あるのか」
獣人から見れば、あってしかるべし耳や尻尾が無いほうが奇異に映るらしい。
「だが、来るべきときが来たと言えよう。領主としてその申し出を受け入れたく思う。この息子もまだまだ若いがいずれ我が後を継ぐ意志がある」
「我らを受け入れてもらえるならば、その者たちのため、腕を振るうことに異存はない。ところで、そのような出で立ちをしているなら貴殿は戦士か。良ければ……一手、如何か」
団長さんと、息子さん。二人とも笑顔が獰猛すぎる。
「副長を連れてくるべきだったか……」
宰相さんの愚痴は流され、お二人はガンをとばしあいながら表へ出て行く。力ずく外交だ。領主さま曰く息子さんは結構人気があるらしく、彼といい試合が出来るならばお歴々も納得してくれるだろうとのこと。本当かな。意固地になったりしない?
広場を確保すると見物人が集まってきた。確かに人気があるようである。見知らぬおっちゃんなんぞに負けんじゃねぇぞとかミッタちゃんが見てるぞとか、声援が飛び交う。
「あ、ホントだ。どもども」
「久しぶり。何なの、この騒ぎは」
「外交ですよ、外交。それと、剣は大丈夫でしたか? すいませんでした。本当は私が適度に『精錬』に来なけりゃいけなかったんですけど」
刃の部分からだんだんと色が抜けていくのを不安に感じて予備の剣に替えたようだ。忙しいなら無理をすることはないと気を遣わせてしまった。
「アーネスさんはお元気で?」
ミッタさんの指差す先を見ればまた別の人だかりが。子どもたちが多く、ドラゴンさんの姿を見ようと集まっているようだ。うっすらと叫び声が聞こえてきた。アーネスさんだろうか。相変わらずファンキーな魔女さんである。
あっちは後回しにしといて目の前の交流試合。両者とも肩を回して邪悪な笑顔で牙を剥いているがあくまで交流試合である。領主さまの開始の合図で飛び出す息子さん。本気で振るっているように見えるが。相手の歳を考えてほしい。対する団長さんは小さく笑みすら浮かべて振るわれる木剣をかわすことに専念している。さすがに猛獣と腕力でかち合おうとはしないか。
「彼も楽しむことを優先しているのかしら。もう少し慎重な剣を振るうタチだと思っていたけど」
団長さんも折を見てはカウンターを返している。ゆるりと動いているように見えるが、相対する立場からするとなかなかえげつないタイミングのようだ。息子さんの息が上がっている。
「はっは。団員たちに見習わせたい生きの良さだ」
「貴殿らは我らに力で劣り、技巧に優れたるなどと音に聞いたものだが。なかなかどうして。滾るものよ」
一通り打ち合い気が済んだのか、握手。オーディエンスからも拍手と歓声。それとなく視線を走らせてみるが、まあ、見えるところで悪感情は出ていないように思える。こっちにも少ないながら普通の人間種はいるのでその人たちが知らず緩衝材となっていたのかもしれない。
続いてはドラゴンさんとの顔合わせ。当のドラゴンさんは子どもたちの遊具にされていて、心広いなぁ、と思ってよく見ると若干目が死んでいるような。
「カナコさん、なんかありました?」
「アーネスさんが、アレの確認を、しようとして」
ドラゴンさんの股ぐらを。アイタタタ。頭おかしいんじゃないかな、あの人は。子どもの見てる前で何してんの。
「お前が絡むと退屈しないな」
陛下にも言われましたよ、ソレ。領主さまは堂々とドラゴンさんの元へと向かう。子どもたちがあれだけフリーダムしてますからね。今さらですけど。きちんと本人の許可を得てからウロコをナデナデ。ノックノック。
「確かに此奴ならスオースどもに遅れは取るまいな。ただ、意思疎通にはカナコの協力が必要か」
「言葉自体は理解できているんです。発声が出来ないだけで」
手持ちの魔章で翻訳機など作れないかと思案してはいる。色々試してはみたいが、この巨体を魔章で維持しているとかなら迂闊な干渉も危ういかも。でも隷属の魔章の後遺症なんかもなさそうですし、いずれ試してみるか。
「そういや文字は書けるんか?」
駄目らしい。適当な金属棒を渡して地面にアルファベットを書かせてみる。たどたどしい筆致がキュート。ラズラ勢にも好評なのでしばらくはこれでいこう。
残る問題はあの空間までどうやってこのドラゴンさんを連れていくか。いくら土魔法に馴れていようと私一人で掘れるわけもなく、ハルーンから募るにしても焼け石に水。人手が欲しい。いいもの見つかるかもしれないし、いっそこっちも事業に?
「そういった案件ならメイディークに声掛けするのが良かろう。ミジール術士に相談してみればいい」
ミジール……ああ、あのアーネスさん推しの緑ローブか。でもメイディークに行くならおばあさまを訪ねたほうが早いような気もする。その名を出しただけでビクッとする宰相さん。私と彼女の血縁関係を知ると二歩三歩と後ずさる。おい、ヒドいぞ。
アーネスさんにも意見を聞き、何となくの心構えを教えてもらう。いささか以上の私怨が窺えたが、『伝話』ででも事前連絡さえあれば会うことは難しくなかろうとのこと。私的公的問わずの交流会のようなものも開いているらしく、『GALE』を見せておけば間違いないとのお墨付き。見せることが間違いだと思うんすよ。『空艇』もあるし、そっちでお茶を濁そう。
カナコさんの時間もかなり拘束してしまっているが、そこは無駄に人間出来てるJK、カナコさん。ミッタさんやアーネスさんと話せるからと居残りを快諾。申し訳ない。いよいよ真剣に送還方法を考えたほうが良かろうか。今回の交渉と発掘を首尾良く運び、何かしらの成果物を得たいところ。
「おっめ、聞いてねぇぞ」
「世界はいまだ発見に満ちている」
「うるさいよ」
事前連絡のため法国に寄ったら総長さんに捕まった。そんな、文句言われても知りませんよ。想定してたとはいえ実際ドラゴンに出くわすとは思わんでしょ。私の心配もそこそこに実物見せろってばっかだし。
「あれで意外と繊細なんですよ。公衆の面前でナニを調べられた気持ちが貴方にわかりますか?」
「ドラゴンに何があったんだよ……」
そらもう、いろいろだよ。
この人も無体は働かないだろうと会いに行くのに文句をつけるのはやめておいた。しっかり実物を見てくるといい。それよりもウチらのメイディーク訪問だ。今回のゲストはいつもの姉妹二人とシエイさん。クランさんとベリルさんは研究職とその護衛……を兼ねたブレーキ役。シエイさんはこの慌ただしい時勢のドサクサに紛れてお祖父さまに紹介してしまうつもり。もしかしたら厳しい考えの人かもしれないが、当たって砕けろである。砕けないよう頑張るけども。
しかし今の時点で私とメイディークとは接点が少ないな。あちらは金属系の資材が主な産出物で今の仕様の『空艇』ではあまりお世話になることもない。甲板を設けるような巨大な機体なら金属がメインになるでしょうけど。おばあさまの家系はその辺りに秀でているらしいが。
久しぶりに訪れたメイディーク。現地の人たちの反応は以前よりはまだ冷静に見える。お祖母さまによれば適度な空きスペースを確保してくれたらしいが。
「ベリルさん、たぶんあそこですね。旗振ってるでしょう」
降着した広場ではお祖母さまを筆頭に数名の軍服アレンジのローブたちがお出迎え。そして奥に控えているのが恐らく、お祖父さま。
わーん、厳ついよぉ。ヒゲじゃーん。
「久しぶりね、ベルちゃん。精力的に活動しているようで、何よりだわ」
「は、はい。今回お越し頂きましたのは」
「ふふ、まずはウチへいらっしゃい。おもてなしさせてちょうだいな。貴女がたも」
送迎の馬車の細部を調べようとするベリルさんを戒めながらクインティ家へ。まあ、気持ちはわからんでもない。このやたらデカイ馬車。言ってみりゃリムジンだろうか。普通の二頭立てよりもちょっと長く、でもスピードは変わらない。シャフトが違うのだろうか。
「飲む?」
お酒ではないなら……そう、それ! 冷蔵庫的なヤツ!
「ほぉら、師匠。そうだよな、師匠」
ちょ、ちょっと腰が浮いただけだし。だからシエイさん、そんな怒らないで。肩が痛い。座る、座るから。冷やすというアクションが私にとっての禁則事項になってしまった。
大通りから緩やかな上り坂の先、見えてきたのは二階建ての建物。立派な門扉と工具を模したような紋章。敷地を囲う塀も石壁なんかじゃなく地球にもありそうな飾りっ気のある柵。突端は百合っぽいデザイン。刺さったら痛そうだ。
「師匠ってお嬢様だったんだね」
「母さまが、ね」
いや、マジでデカくない?
「さあ、入って。貴方も」
宰相さんはさっきからろくに喋ってませんね。それを言うとお祖父さまも、ですけど。ここでの話し合いが終わったら帰って大丈夫だから、頑張って。
「んーむ。法国のお城ほどじゃないけど、いろいろ置いてあるねぇ」
お手を触れないで下さい?
でも、これは美術品とは違う気がする。この螺旋を描きまくったオブジェは魔法による加工技術を計るために作らせたもの、とか。抽象的な題材にも見えるけど、わざわざ下からも覗けるようにしているあたり、それを狙っているのではなかろうか。
「たぶん思っているとおりよ。ウチは必ずしも才能ありきの家系ではないから、修練はこまめにしていないといけないの」
案内された部屋は二部屋をぶち抜いているようで、壁にはアーチを描く補強工事が。それぞれが席に着いたところで、ようやくお祖父さまが口を開いた。
「よく来た、ベル。我が……孫娘よ」
「……お招きいただき、ありがとうございます」
他の人たちは、ガン無視かな?




