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少女と女、その日常。

「決闘だ」


 …そうだ。ちょびっと残念な和服美人シエイさんを捕獲、もとい合意の上で我が家へ引き込んだ。もちろん私の独断なので、おばさまに後日お伺いを立てたらば。


「決闘だ」


 …そうだ。なぜだ、わからん。いや、わからんことはない。つまりこういうことだろう。


「私は警らの責任者。全ての人員に面通しはしておかなければならない。連れてきたのはまあいいだろう。だが知らぬ間に一つ屋根の下?納得できるかあ!」


 ま、そりゃそうだ。いささか軽率な判断だったか。でも逃がすわけにはいかんと思ってね。故郷を思い出すだろうと提供したお粥も思わぬ効果を発揮した。だが、確かにこれといっておばさまを説得する材料はない。本人の言はどうだろう。


「お待ちください、おばさま!」

「お前におばさまと呼ばれる筋合いはないわ!」

「申し訳ありませんっ!」


 すごすごと引き下がるシエイさん。今のとこ完全に被害者じゃないですかね、この人。なんとなくなでなで。満更でもなさそう。おばさまは…ああっ、ちゃうねん。からかってるワケちゃうねん。


「いいから、得物を持ってついてこい!」


 ズカズカという擬音がピッタリな歩調で演習場へと歩いていくおばさま。こりゃ駄目かな。


「どうにかなりませんかね、ヨーギーさん」

「私は隊長の味方だしね」


 いつぞやの、おばさまにアプローチをかけていた旅人、ヨーギーさん。なかなかの美丈夫なのだがこの名前はまだちょっと慣れない。性格はいたって常人だが、時折鋭い雰囲気を感じさせるのが気にはなる。今はおばさまの人を見る目を信じるとしましょう…あ、そうなるとこの決闘、逃げられないのか。


「すいませんねぇ…なんか、妙なことになってしまいました」

「いえ…おばさまの仰ることも尤もかと。私は今のところただの居候ですし…」


 しかし、キッと前を見て、おばさまについていく。


「強い方との手合わせはこちらとて、のぞむところです」


 おやおや。脳筋が増えましたね。


 演習場。まあ特別変わったところはない。広いスペースがトンボで定期的に均され、時にはわざと障害物が置かれ、CQC…でもなかろうが、近距離乱戦の訓練をしたりする。


 今日のところは普通の、差し向かっての訓練だ。おばさまはいつもの短槍を突き、捻り、を繰り返し。シエイさんは腋を締め、摺り足。抜刀術のイメトレかな?


 おぅいバカども。実戦武器使う気満々か。木剣とか使えや。


「ちょっと、ふたりとも」


 想定よりも低い声が出た。


「…あ、いや、わかってる。わかってるさ」

「あ、そうですよね。母上じゃあるまいし」


 …母上ならヤルんです?フソウパネェ…行くのやめようかな。ともあれ、洒落っ気で作ったアレをわざわざ使うことになるとは。自分も保管庫についていき、シエイさんには反りの浅い『木刀』を渡す。


「ベルさま…これは」


 結局『ベルさま』なんて呼ばれることになった。こそばゆいが、気分は良い。


「まあ、ちょっと洒落っ気で。シエイさんの方が上手く扱えるでしょう」

「ベルさま…ありがとうございます。大事に使います」

「使い潰していいですから。自分の身体を大事にしてください」

「ふぬぬ」


 おばさま、ふぬぬって。


 ようやく準備が整い、仕合開始…かな?ギャラリーもずいぶんと集まっ…多いな。街の人まで集まって来ちゃったか、これ。ガヤガヤと露店が出てきそうな勢いだ。露店。そうだ。トウモロコシを探してポップコーンを作ろう。

「いいですか、ご両人…始め!」


 ヨーギーさんの合図でふたりの睨みあいが始まる。ヨーギーさんが椅子を用意してくれたのでなんとなく座る。


 ……あれ。これ、私を奪い合う構造になってない?そんな映画見たことあるぞ。ギャラリーもそのように読んだか、さらに盛り上がる。やめてーわたしのためにあらそわないでー。


 …ま、いいや。見てよ。こう言っては不謹慎かもだが、実は楽しみにしている自分もいた。私やおばさまは獣相手に武器を振るうのが基本だ。昨日の今日でシエイさんが刀を抜いたところを見たことはないが、普通、刀で狩りはしないだろう。『侍』は結局『何』を相手にするのか。


(…対『人』剣術)


 考えすぎかも知れない。ただ自分には必要ではないか。いざという時に『人』を斬る覚悟が。シエイさんを件の事情に巻き込むのは忍びない。しかし、ウチに住んでいれば万が一ということもある。彼女を失うようなことになれば、いよいよ自分は形振り構わなくなるだろう。


(私は、この世界で─)


 シエイさんが睨みあいを捨てた。木刀を『抜き』、軽く脇へ流し、跳んだ。


「えっ」

「ほぉ」


 次の瞬間、シエイさんはおばさまの目の前に。いや、私がぽけっとしてる間に、打ち合い、流し合いの熾烈なかち合いが繰り広げられているわけだが。シエイさんはがんがん打ち込む。おばさまは基本防御を続け、カウンター気味に払いを掛ける。ギャラリーはやんややんやの大騒ぎだ。


「あの女性、なかなかの腕前ですね」

「え、ええ。そうですね」


 ただの腹ペコ侍ではなかった。下駄のような履き物なのに危うさを感じさせず、振り上げられる袖ももはや攻撃判定を持っている。嵐の中の稲光の如く、木刀を叩き込む。おばさまもおばさまで強襲に切り替えたようで、短槍が前腕の延長のように蠢き、重さを捨てた不意の一撃を繰り出す。正しく『蝶のように蜂のように』だ。此処の砂地でもかなり着地の音が低減している。森の中で、柔らかい土や木のしなりを足場にあの動きをされたら。こわぁ…


 考えすぎだったかもしれない。私がこの女傑たち相手に何を言えるのか。私も精進しないといけませんねぇ。


 シエイさんはともかく、今のおばさまの攻撃は私が普段見ているものとは違う。厭らしさすら感じる苛烈な攻撃に僅かにシエイさんの息が乱れ、そして─


「あっ」


 ベキッという音と共に砕け散る、木刀の『柄』。


「おっと」


 振り抜かれた木刀の刀身がおばさまに向かって飛んでいく。距離が離れていたので破片を被るでもなく、カコンと弾き落とすおばさま。


「す、すみません!お怪我は?」

「いや、私はいいが…お前、手は大丈夫か?」

「あ、ああ。そうですね、ええ。大丈夫です、ほら」

 確かに裂傷やら破片が刺さっている様子はありませんが…普通折れ…いや、砕けますかね、柄が。どんだけなんです、握力。


「ちょっと、見ますよ?シエイさん」

「あっ、はい」


 ためつすがめつ。確かにおかしなところは無さそうだ。しっかりしっとりとした手のひらで。


─舐めたい


 チロリと舌を出し、シエイさんの手のひらに顔を近づけ─


「ベル、公衆の面前でその絵面は、だな。その、教育上…」


 おばさまが私の肩を掴んで止める。おお、ついうっかり。辺りを見回すと…いや、でも驚いてるというか喜色満面ではありませんかね。ただリラちゃんなんかは顔を覆って…やっぱり、指の間から見てた。お約束、ありがとうございます。


 両者の健闘を称えて拍手。ふたりとも、まんざらでもない感じ。おばさまは決闘の後も少し渋っていたが、どうにか納得してもらえたようだ。連れ立って『リンゼッタ』へ。


「おばさま、この辺りって湯を浴びる施設が無いですよね」

「湯を?別に、場所を確保して適当に浴びればいいだろう」

「いえ、つまりですね…」


 シエイさんも交え、風呂や温泉、露天風呂などの話をした。湯をため、じっくり浸かるという文化に興味を持ったようだ。こっそり『前世』、地球での話を聞かれた。もちろんどれも同じように存在して、メジャーもメジャーなわけで。日本ほどではないにしても、フソウも火山を有し、その恩恵に与っているわけだ。ただ、休・活火山の区別がそう細かく判別できるはずはなく、入浴中に『たーまやー』とかシャレになってないと思うんで、大陸でそういうのを探すか、いっそ作るか。というか自分の家には作る気満々だけども。できれば大きいのを。


(女の子ですものー。お風呂は切実だと思っていたわけです。入浴剤はバラの花びらとかポプリなんかなら自然にも優しいでしょう。排水はどうしてんでしょうね。フソウではふつうにそのへんに流してるみたいですけど、ウチ森の中ですし。キチンとルートを考えないと)


「ベルさま、ベルさま?」

「たまにこうなる。そのうち慣れるさ」

「はぁ…あ、普通に食べてる」



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