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紆余曲折を経て、当日。私の『空艇』と運搬能力に秀でた機体とでフソウに到着。以前、私が『GALE』をかっ飛ばしたりはしたものの、このようなデカブツが空を飛ぶのは耳目を驚かせた。事前に確認して水漏れなどは無かったのだが、念のため港には寄港せず、そこそこ開けた陸地に着陸させてもらう。
「いらっしゃい。それとも、『おかえり』かしら。今日もびっくりさせてもらったわ」
「恐縮です、おかあさま。あの、この辺りの責任者と呼べる方はどなたなのでしょうか?」
「ウチに言ってもらえれば大丈夫よ」
「そ、そうでしたか」
かあさま、スゲえな。そういえば木材を工面してもらうときにも話題に上がってたな。それならば話は早い。法国とかでこのような話をするなら手続きだのや、時には根回しなど手間も多い。しかしフソウで競合しそうなのはハリさんの海上船くらい。後で話をする必要はあるが、『空艇』で漁は恐らく無理だし、住み分けは難しくないと思う。彼女用の『空艇』の話もうやむやになってましたしね。意外と新しいもの好きだったりするかも。
「しばらく滞在するのかしら?」
「私たちがお仕事するのは少しだけです。まあ、その。お遊びが主な用事ですね」
妖狐な灼羅さまには軽く許可は頂いているが、改めておかあさまにも。ありがたいことに即オーケー。無人島とはいえ、島一つどうぞとは、豪気である。
「何人か人手を出しましょうか?」
「ありがたいのですが、魔章の絡む仕事も多いので。あ、建物や装飾に関してはフソウの雰囲気を大事にしたいので、そういった方面でいずれお伺いするかと」
挨拶もそこそこに、宿にお邪魔しようとしたのだが。
「そりゃそうだよ、お姉ちゃん」
部屋が足んねぇ。敷地はそこそこ広くとも、需要が少ないので備えが最低限。千人居るかも怪しいコミュニティですからね。最悪、ワニでも狩るか。旨かったし。
「そちらのお嬢さんは泊めていったほうがいいんじゃないかい。雑魚寝させるわけにもいかないでしょうし」
ま、そうっすね。未知なる佇まいに興味津々のようですし。
記帳を済ませてもらってから街の散策を勧めてみた。予定の日数も残り少ないと言うので私が少し案内役を務めることに。言うても、法国と比較しちゃあフソウは田舎だと思いますけども。服装ひとつとっても違うのでわりと楽しんでもらえているようだ。
「木の雰囲気を近く感じます。あ、あの床は何でしょう。淡い緑の、草でしょうか?」
「そうです。タタミと言いまして、芯材に草を編んだものを被せて使っています。草の独特の匂いがするのが好まれるようですね」
私も日本人ではあったが表替えだの何だのはかなり難事だったと思う。異世界でわざわざゼロから再現して、それを現在までの文化として定着させるとは。ジュウザブロウなる人物には頭が下がる。考えてみれば、かの御仁が居たからこそ私はシエイさんに出会えたとも言える。いや、実際そうである。頭が下がるどころではない。あがめ奉らねば。
『神棚かぁ』
『お姉ちゃん、何の話?』
灼羅さまにも後で意見を聞かねば。
王子さまはと言えば、鍛冶仕事が気になるご様子。いつぞやのベリルさんのように格子窓に張りつき、中を覗いている。
「ぎゃあ!」
カノさん、気づいた。王子さまに掴みかかる。相変わらず気の短い。
「どいつもこいつもぉ」
「ごめん、女性の部屋を眺め回すなんて失礼だったね」
「お前の知りあいはこんなんばっかか!」
「その人は努めて真面目だと思いますが。そんなことよりコイツを見てくださいよ」
何だかんだでちゃんと見てくれるカノさん。ありがとう。
「いよいよこっちの領分に踏み込んできやがって。しかもこのつくりは難しいんだぞ」
「だからこそ私のやり方が合っているかとおもったんですが」
「あのきもちわるいやつな」
根に持ってます?
私の『精錬』には一定の理解を得られたようで芯材がどうの反りがどうのと細々と言ってくる。こと刀に関しては私よりずっと先輩なので真面目に聞いておくべきでしょう。王女さまも法国では見学する機会が無かったのか、ともかくガン見。王子さまは騎士団でしごかれるついでに何度か鍛冶仕事を見たことがあるらしく、珍しくお話に積極的。
「今日はこれだけの為に来たのかよ?」
「そうでもないですよ。遊びに来たとも言えるんですが、お仕事の延長でもあります」
カノさんは島の外に出かけようとは思わないらしい。ハリさんが交易で何かしらを持ち込んだりするし、手が空いたときは釣りなどで余暇を過ごしている、と。偏見かもしれないですけど、女性ではなかなか居ないんじゃないでしょうか。釣りが趣味ってのは。
「ま、頑張りな」
鍛冶の次は服飾。以前ちらりと話題に上がっていたことだし、二人には和服でも試していただこう。
「あらあら、可愛らしいお客さま」
「こちらの男の子はりりしいこと。さあさあ、どうぞ」
かしこまったお店でもないので、親戚の子を招き入れるのと変わりない流れで吸い込まれてゆく。
「わっわっ、女性なのに力持ちなのですね」
「ああ、軽いもんさね」
畳の上に寝かされてあれやこれやとあてがわれ。私のときより遠慮がない。ブロンドのお人形さんである。身体を起こされ、髪型をいじられようともされるがまま。ド-ラさんの立ち入る隙がない。そしてそっちに気をとられている間に王子さまにも魔の手が。異世界にまでミ-ハ-なご婦人がたが居るとは思ってなかったんですが、甘かった。むしろ食っちゃう勢いである。
「あらあら、なかなかご立派な」
「鍛えていらっしゃるのね、お若いから」
「オホホホホ」
止めなくてもいいか。フリ-のはずだし。
と、思ったが下履きにまで手をかけようとしたところでド-ラさんの滑り込み。王子の貞操的なものは守られた。
「程々のところで止めてくださいよ」
「王子がフソウの女の子を気に入ってくれれば私としても法国に渡りがつけやすいかなって」
「企まないでください」
どうでしょう、実際。法国の王族の後継問題なんて他人事でしたけど。恋愛結婚とか可能なんでしょうか。
「無いとは言わないけどね。難しいんじゃないかな。母も最低限の家督と十分な教養があったから王妃になれたと聞いたし」
「聞いたことありませんでしたけど、もしかして」
「うん。だからね、僕がしっかりしないとね」
いじらしい。応援してあげたい。
迂闊に滑り込んできたメイドさんが揉まれているのを尻目にちょっとしんみり。だが、今日の貴方はきっとラッキ-。私たちが今回フソウに来た理由はそう、水着。大きいのから小さいのまでよりどりみどり。
「お姉ちゃん、もしかして王子さまだけ男子枠で連れていく気?」
「私が知る限りで一番人畜無害そうな男子だもんで」
「知らんぞぉ、変なのに目覚めても」
「大丈夫でしょ」
部屋着として和服を購入した後、いよいよ島へと向かう。そういえばリラちゃんの相手ができてませんね。いちおう幼なじみと言えるんですけど、バルとくっつけちゃったから二人で仲良くさせることしか考えてなかった。彼は予定が合わなかったし、女ばかりのこの旅路で他の女子に目移りさせるわけにもいかないからアリだったのかも。
件の島に特に異変は無く、相変わらずの真っ白な砂浜。初めて見た人たちは言葉も出ないようだ。とりあえずそこらに手を突っ込んで砂をかき回している。熱くないです?
「話だけは聞いてたけどスゴいねぇ。自慢したくなるのもわかるわ」
「でしょう。言っちゃえばただの地面なんですけど、こう、全身投げ出してお日様の光を浴びてみるのも気持ちよいと思うのですよ」
「この、『水着』とやらで?」
リラちゃん用の水着は可愛らしい感じで作ってみた。合わせは事前にしたのでサイズは問題ないはず。露出に抵抗があるようなので長めのパレオつき。
「一人だけだけど、男の人もいるんだよね?」
「基本は私たち『地球人ズ』が矢面に立ちますんで。善良な人柄ですから、襲われたりはしませんよ」
「信じては、いるけどさ」
時間も有限。ちゃっちゃと着替えて海を満喫するとしよう。
まずは『地球人ズ』の着替えが完了。当然着たことはあるので抵抗なんてない。私はと言えばブ-メランパンツみたいな下半身の落ち着かなさを除けば、上も下も守られてる感じで悪くない。
「下を必要以上にいじらない!」
悠里は年齢なりのスタイルだと思う。猟師の手伝いを何度もこなしているのでかなり引き締まってる印象も受けるが。
「ふふん、見とれちゃった?」
カナコさんは流石のアスリ-ト。高めの身長でありながら女性らしさも忘れていない曲線美。女子にモテそうですね。
「聞いてよ!」
「アレを、見てごらんなさい」
我らがシエイさん。ああ、照れとるのぉ。褐色の肌に白い水着の映えること。ほらほら、そんな俯いてるとぉオッホッホ!
「まあ、最初からアレと勝負できるとは思っ……お姉ちゃん、顔ォ!」
おっと、イカンな。今回は王女さまもいるのだ。エロスなベルさまは控えないと。
『オイ、マジかよ』
「うわぁ、何?」
リラちゃんのダイナマイトなアレが不意に飛び込んできて素の声が出てしまった。しかしスゴい。ココだけならシエイさんを抜かして一、二を争う戦闘力である。つい地球人ズでガン見してしまう。
「ベルちゃん、なんでこんなグラビアっぽいのにしたの? ヤバいですよ?」
「いや、強度を上げるために紐を多用した結果でして。むしろ一番手が込んでるくらいですよ」
「もう、勘弁してぇ」
泣きが入ったので彼女は置いといて、王族二人にもお披露目。王女さまは服を着るべし着るべしと必死。王子さまはもはや直視に耐えないご様子。こっちを見ようとしない。しかし、そっちからはハル-ン二人が来てますが。もう上を見るしかない。
「ベル、これがいわゆる『クレイジ-な』格好というわけね?」
「余計な日本語覚えないでください」
ふむ。エルフ耳の水着姿を拝める日が来るとは思いませんでした。二人とも少々肉が足りませんが、よいくびれっぷり。色白の肌がまばゆくも、蠱惑的。
「いかがでしょう、王子さま。普及させるにはいささか新しすぎる装いでしょうか?」
「ベルさま、いけませんっ。お兄さまはあっちを向いて……きゃあ!」
いよいよ限界を迎えたらしい王子さま。お鼻血をお出しあそばされる。私のロリボディを見て鼻血を吹いたように見えますけど大丈夫でしょうか?
お二人は私の用意したパラソルに退避していただき、いつものメンバ-でいざマリンレジャ-。まずは準備運動、大事。屈伸、開脚、軽い跳躍。跳躍。跳躍。跳躍。
「お姉ちゃん、考えてること手に取るようにわかるから」
「隠してるつもりもありません」
「開き直ったよこの人」
いや、リラちゃんの水着がブレイクしないか心配じゃないですか。実際今回のは素人縫製みたいなもんですからね。注意しておかないと。てか、そんなこと言いながらみんな見てんじゃないですか。
「よし、それでは各自ご自由に。砂のお城を作るなり、海辺で戯れるなり」
「そこは貴女が教えてくれなきゃわかなんないわよ」
「……じゃあ、まずはコレですかね。『ビ-チバレ-』」
最小単位は二対二、でしょうか。サ-ブからのレシ-ブ、トス、アタック。カナコさんは上背があって若干有利か。
「地球人ズはそっち。ティ-ナ、ウィスカはそっちで、いっちょ実演をよろしくお願いします」
「いやいや『分霊』相手とか無理あると思うんですけど」
『もちろん手加減いたしますよ』
ビビるカナコさん。彼女らがかましているのをよく見てますからね、無理もない。
『先手は譲ります。どうぞ』
「強者の余裕……センセイ、お願いします」
「なんじゃそら」
確かに地力では悠里が圧倒的と思われる。ティ-ナとウィスカは魔法剣士みたいなスタイルでしょうし。魔法なしでどこまでやれるのか。あんまり活躍させてあげられないし、羽を伸ばすと思ってのびのび励んでくれればいい。怪我しない限りで。
あの、飛ばしすぎじゃない? カナコさん置いてきぼりですけど。
「ま、あんな感じですかね」
「ああ、ああ。あんなに動いちゃ見えちゃうって」
「リラちゃんは特にそうですねぇ」
「わかっててこんなの着せたのぉ!?」
海辺で楽しむとしたら後は何でしょう。いくつか試作もしてきましたが。
「師匠。あの、アレ。乗り物みたいなの作ってたろう。アレ、乗りたいなぁ」
「ベリルさんのあの運転を体験させておいて?」
「もう文句を言われない程度の運転にはなったろぉ?」
水上バイクみたいなものはでっち上げた。テレビで見たものほどスピ-ドは出せないつくりにしたので、ベリルさんに運転させても問題は無い、かもしれない。バナナボ-トを牽かせる気にはならないが。
「そもそも、皆さん泳げるんでしょうか? 故郷に海がない人たちばかりですよね?」
「湖ぐらいならなんとか。しかし、このだだっ広い海という場所では下手したら戻ってこれなくなるわけか」
「わ、私はこんな脚ですので」
浮かべるだけなら浮き輪なんかも作ってみたんですが。せっかくだし試してみようか。
「どうです、浅瀬まででも」
「そ、それはつまり、その布を肌につけた状態になるということですよね?」
私たちがハレンチみたいな感じになるので勘弁してください。
少し無理矢理だった気もするが、結局王女さまも流されるまま水着にお着替え。王子さまとメイドまでも巻き込んで。三人が三人とも恥じらいが抜けない。ま、水の中に入っちまえば同じですよ。
「ふゎ、ああ、冷たい。揺れます、は、離さないでぇ」
「はい、しっかり掴んでおりますよ」
王女さまの身体を浮き輪に通し、脚が浮くところまで持って、いこうと思ったら私があっぷあっぷ。ま、まずい。こっちが溺れる。
「大丈夫ですか? ベルさまのほうが沈みそうですっ」
情けないが王子さまとメイドさんに浮き輪の保持は任せて私はゴ-グルをつけて海中へ。慎重に過ぎるかもしれませんがクラゲとかがいるかもしれないし、万が一があっても血清などの処置は出来ない。フソウやハロルでその辺り聞いておくべきだった。
王子さまの思ったよりもがっしりした脚と、王女さまのほっそりとした脚と、メイドさんの思ったよりももっちりした脚が視界に入る。ほう、なかなか。
あ、水質がいいから私が何やってるかもバレそうだな。
「ぶはぁ、戻りました」
「何をやっていらっしゃったんですか?」
「海中の危険を調べておりました。大丈夫、心置きなく海を満喫できますよ」




