表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

2100.5.20 房総砂漠

 一時間後。富山(とみさん)を右手に見る辺りで、この世界がその様相を、大胆に変化させていることに気づかされた。

 県道が、ざっくりと、喰われたようになくなっていたのだ。

 森の中である。今、前方に見えているのは、まるで部屋の真ん中から窓を通して見るような、そんな明るい青空だ。

 意を決し、進んで――緑が切れ、いきなり広がる空間を、目を丸くして眺めやる。

「……」

 一言で表現すれば、全層雪崩のあと、だった。それも大規模な――おそらく房総半島全域にわたっているのだろう、凄まじい()()()()()()()だった。

 アスファルト道路の噛み切られた跡、つまり、()()()の始まる端まで注意して近づき、(地形的に)見下ろすと、目測50m下から、飴色した硬そうな岩盤が、地平のかなたまで、一面に――右も左も、視界いっぱいに、広々と広がっている。色彩的に、緑の一つ、黒泥の一つもない。

「これは……」()()が口ごもる。俺は顔を前に向けたまま答えた。

「陸地の、砂漠化だろう。緑は失われ、沃土は砂に変えられたんだ」腰に手をおく。推量を続ける。

「このステージの主役、事件の当事者が、この要因になっているとしか考えられない。γ世界の政府高官、その息子殿の()()のステージだから、γ(ガンマ)()()()が、他世界のそれを圧して、ここに現出したんだろう。すなわち、()()()だ」

「でも、岩盤じゃ――」そこまで呟いてから気づく。「そうか……」

 俺は頷く。

「そう。ステージは、旅人が渚を出た瞬間に生じる。出現した瞬間、大砂漠はその砂を、斜面の下に、“底”へと、()()()()()()()()()()()()んだろう。いまごろ鴨川市は、砂の津波に埋もれてるんじゃないかな。

 で、残されたのが、この露わになった地表というわけだ。表面は、たぶん海抜数メートルのレベルなんじゃないかな」

 こんなんじゃ、土地勘も何もあったもんじゃない。第二パーティは大丈夫か……?

 頭をぽりぽりかく。

「とにかく、俺らは進むしかない。岩盤に下りよう。――この段差の“崖”は、今、“天井(ルーフ)”になってるんだから注意してな」

「ラジャ」


 技術を尽くして飴色の岩盤に降り立つ。(へばりつく!)

 とにかく打ち込んでみて、アンカーが十二分に固着することを確かめる。そこでようやく、安堵の息をついたのだった。

「意外と、この世界では、行動は自由そうですね」バディがこれも明るい声をかけてくる。

「だな……」

 たしかに分厚い植生や、アスファルト道路に縛られずに済むのは、大きな利点だった。これだったらどの方向にでも行けるだろう。

「――」

 改めて、房総半島、表層に立ってはじめて見るその光景は、一言、圧巻だった。

 平均300mの、今は岩質むき出しの、細い三角錐のような千葉の山々が、岩盤の世界にニョキニョキと生えている。シュールであり……なんか、別の星にいるみたい。

「――」

 そして、正面奥に見えるのが、そう、あれが、房総のマッターホルン――伊予ヶ岳!

 ふいに、ドウッ――と、乾いた、荒野の熱い風が正面から吹き付けてくる。砂の匂いがし、汗がにじんだ。

「行こう」

 俺らは先に進みはじめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ