2100.5.19 召集
召集メールを“定期便”に乗せることができたのは夕方になってからだった。ずいぶん遅いんじゃないか、と思われるかもしれんが、実際は解散宣言してからたった数時間後のことだ。解散してから仕事を受領してるんであるし、その時間を考慮したら、むしろ異様に早いほうであろうと思う。そして、こんなムチャぶりに応じられたのが、アキラ、マーチ、ミラの身軽な三人だけだったのも、頷ける話ではないかと思う。
鋸南町のロビーに、「ナンかあると予想してたんだ!」と満足げに微笑みながらまずエルフ姿のアキラが最初に来て、それから約二時間後に白忍者マーチとセーラー服のミラが合流したのだった。
申し訳なくて(?)笑ってしまうことに、遊びたいざかりの年少二人組は、(マーチのたっての希望で、)直近の“街道ロビー”に観光がてら、お泊りしようとしていたとのことだ(笑)。
そこに俺のメールが割り込むように送り届けられたものだから、そしてミラが真面目に応じたものだから、マーチも渋々やって来ざるをえなかった――そんな状況だったらしい。俺は笑いを堪えてきゃつめの首をロックし、嫌がる頭をワシワシとなでてやったのだった。勢い余って耳をカミカミする。「うひゃあ!」アッハハッ、そのうち埋め合わせして、やるからな!
一方アダルト組(エマ、ヨコヅナ、トノ)は、さすがに、それぞれの現世にて所用が溜まっていたのだろう、『遅れる。(もしくは)無理かも』の返信が、夜中に着信されたのだった。
年長組の安定感がないのは残念だったが、でも――
メンツを見まわす。
ともかく、要のアキラがいる。都合よくマーチがいる。そして、かかせないミラがいる。必要最低限な要員が揃っていることに、ひとまず満足したのだった。
さぁテキパキやろう。案件の内容と所見、そして作戦の説明だ。
「当該のダンジョンは“鋸南町→鴨川市”。正確に、トノ歓迎ケイビングのコースの、ピッタリ真逆だ」
少し芝居がかった口調でしゃべってみたのだが――マーチ&ミラ、二人の入隊は半年ほど前。今となっては、これくらいではもう、驚いてくれなくなったのが何となく寂しい。
えへんッ。話を続ける。
「土地勘は頭に残ってると思う。その点は期待してるぞ。で――」
「そのゾーンアウトした間抜けですよ、誰すか?」
俺は大いに苦い顔させられたのだった。なんだか課長になった気分である。
「マーチ、いま言おうとしてただろが。まあ言うけどさ、お前んトコの人間だ。γ世界政府の、それも相当な高官の息子さん、だとのことだ」
顔写真を示し、その名前も口に出したが、そんな上級国民なぞマーチはまったく知らない様子。まったく期待してなかったからどうでもよかったが、それより問題なのが――
「γ人、というのが、厄介ですね」と、まこと意を汲んでくれる優等生、ミラの指摘だったのでした。
ミラに口を尖らかすマーチではあるが、そんなだからそう言われちゃうんだぞ、と言いたい。……ケンカすんなよ?
俺は優しい目をミラに向けた。
「作戦だが、明日は二手に分かれて行動する。一組目はショウ&ミコのパーティ」
ついでマーチに期待の目を向ける。
「そしてマーチ&ミラのパーティだ」
俺は声を強めて続けた。
「この二組で“陰陽の策”を発動させる。詳細を説明する――」
一時間後。
マーチとミラは、おそらく初めてといっていい単独行動を指示されて、嬉しさと緊張感に顔を輝かせていた。
とくにマーチは、アキラから激励もされて、機嫌をすっかり元に戻している。それどころか今や有頂天だ。
「ようやっと実力を認められたぜ! 昇級のチャーンス!!!」鼻息が荒い。
俺はこっそりと嘆息するのだ。
こんなところが本当、根っからのγ人の由縁だよなぁ、と思うのだった。