フェリスと誤解
お昼すぎごろだろうか、千博達はそれぞれ案内された部屋で汚れていた服を着替えてやっとくつろぐことができていた。城の見張り番の待機部屋を借りた千博は部屋のベットに寝転んで寝ようかと思っていたが旅行先でもなかなか寝られないくらいなのでただごろごろしていた。
「あー、暇だな。泊めてもらってる身だからうろうろするのも気が引けるしなあ…。」
そう呟いて暇を持て余し始めた千博のもとへコンコンとドアをノックする音がなった。
「ん?ラッセルかな。どうぞ、鍵
あいてるよ。」
「失礼する。」
「へ?」
ラッセルの声じゃないぞ?女の子の声だ。千博は起き上がって身構えた。
「貴方がチヒロ殿だな?私はフェリス・ジヒベールだ。少し話がしたいのだがいいか?」
凛とした雰囲気の女の子だ。年は自分と同じくらいだろうか。女の子にしては背の高いほうだと思うがその分足が長くスタイルも良い。紅い髪を後ろで束ねた様子は当に薔薇の様に可憐だった。胸当ての様なものをつけていて、腰にはレイピアを携えていた。
「……すまない。無理にとは言わない。出来ればでいいんだが。」
なかなか答えない千博を見て都合が悪いのかと思ったようだ。
「あ!ごめん、大丈夫だよ。で、話って何だ?」
答えるとフェリスと名乗った女の子の顔がぱっと明るくなる。
「本当か⁈ それならまず聞きたいのだが身長2mの大男を一撃で倒したというのは本当なのか?」
「え?何でそのことを…」
「本当なんだな⁈ 凄い、一体どうやって倒したのだ?」
「それは…」
千博は昨日の出来事を一部始終フェリスに話した。
「………と、まあこんな感じなんだけど…。」
「………嘘をつくな。」
「え?」
何かこの子怒ってないか⁇正直に話したつもりなんだけどな…。
「謙遜することはない。急に力が強くなるなんて聞いたこともないぞ。何か武術の心得があるのだろう?」
「いや…何もしたこと無いけど。」
そう言うとフェリスの目は怒りの炎を宿してチヒロを睨んだ。
「なぜ教えてくれないのだ?人に話してはいけない武術なのか?それとも何だ、私などには教えても仕方がないと言うのか?」
「いや!違うって!俺にも分からないけど本当に急に……」
弁明しようとするが千博がそれ以上喋るのをフェリスは許さなかった。
フェリスの腰のレイピアが千博の喉もとに向けられていたからだ。
「な⁈ ちょ、やめろって!」
「ええい!うるさい‼︎ そこまで言うなら着いてこい、チヒロ!私の実力とくと味わうがいい。」
そう言うとフェリスは千博を引っ張っ城の外へ連れ出した。フェリスの剣幕に押されてされるがままに連れられて行くとそこには沢山の兵士がいた。
「ここは…兵士の訓練場か?」
周りでは鎧をつけた騎士、槍をつく兵士、模擬剣で互いに闘う兵士などが訓練に励んでいる。
「よお、フェリス!誰だそいつ?」
そのうちの1人がフェリスに話しかけるがそれには答えずフェリスは怒ったまま兵士に言った。
「模擬剣を2本もってこい!今からこいつと決闘するっ‼︎ 」
この兵士もこれまたフェリスの剣幕には敵わず間も無く刃の無いレイピアと両刃の剣を持ってきた。剣を兵士に渡される時ぼそっと言われた。
「兄ちゃん、あんた何したんだ?こんなに怒ったフェリスなんてほんとに久しぶりだぞ。」
「お、俺にはさっぱり…。何か気に触る事でも言ったのかな?」
「そうか…大変だな。」
「はい……。」
「…………死ぬなよ。」
「ん?」
聞き違いだよな?模擬剣で死ぬ事なんて流石に………あるのか?いや、待て。俺まだ17だぞ?まだ死ねないって!と、そんな事を考えているうちにもどんどん準備は進められついに審判まで出てきた。
「剣で闘ったことはあるな?これは決闘だが周りを配慮して今回は魔法の使用は禁止だ。いいな?」
「ああ、構わない。」
「え?何?魔法?」
「よし、それでは……始め‼︎ 」
急な魔法という単語に千博が気をとられているうちに試合が始まる。
「いくぞ、覚悟しろ‼︎ 」
「はあ⁈ 無理だって!」
剣など学校の授業で竹刀くらいしか握ったことの無い千博にフェリスのレイピアが向けられる。取りあえず両手で剣をもって構える。くそ、闘うしかないのか。女の子相手ってのも嫌だけどしょうがない。何とか死なないように頑張ろう。そう覚悟を決めて千博は向かってくる薔薇の様な乙女の繰り出す棘に立ち向かう。