到着とユリア女王
「バルト宰相、クロード近衛隊長、及び恩人方の帰還!」
緊張感のある声と共に4人は女王の前へ進み出て片膝をつく。
「御苦労であったぞ。バルト宰相、クロード近衛隊長。同盟の方は上手くいきそうかな?」
快活な美しい声だ。自信に満ち溢れている印象をうける。
「ばっちりでございます。それもこれも彼らのおかげでございまして。」
「ふむ、何かあった様だな。何があったのだ、クロード?」
「う…、その…途中で山賊に襲われまして…」
「お前がおったのにか?」
「…面目ございません。」
しょんぼりと項垂れるクロードさんを見て笑っていた女王がついに話しかけてきた。
「貴公達が彼らを助けてくれたのだな。礼を言うぞ。」
「い、いえ!困っている人は放っておけないので。」
「そ、そうです。当然の事をしたまでですよ。」
いや、ラッセル。お前は償いじゃなかったっけ?胸を張ってそう言ったラッセルに心の中でつっこむ。
「それは素晴らしいな。で、どうして我が国に来たのだ?」
「それは…」
「それは私から説明しましょう。」
言いかけた声がバルトさんに遮られる。
「彼らは理由があって帰る所がないのです。ですからこの国に住まわせて差し上げようと思い私が連れて参りました。」
「理由?どんな理由なのだ?」
女王がラッセルの方を向く。
「………。」
ラッセルは答えるのに戸惑っている様だった。無理もない。ラッセルはバルトさんとクロードさんを襲った山賊の一員だったのだから。
「彼は偶然山道を通りかかっていたのですが、チヒロ殿と一緒に我々を助けてくれたのです。」
「……!」
クロードさんがラッセルに助け舟を出した。あんなに疑っていたのに今は信頼してくれたんだな。驚いて目を丸くするラッセルを見ながらしみじみ思った。
「ほう、では貴公も山道を歩いていたのかな?」
「あ、いえ。実は俺……」
「彼は誘拐されたかもしれないのです。気付いたら全く知らない国に1人!可哀想な話でしょう?」
また遮られた。お喋りが好きなのかな?さっきからまともに女王様と会話してない…。
「誘拐?それは大変であったな。だがもう安心だ。この国にいれば心配はない。好きなだけいるといい。」
「あ、有難うございます。」
「そういえば貴公達の名を聞いていなかったな。さあ、顔をあげて教えてくれまいか?」
「ラッセルって言います!」
「真中千博です。」
顔をあげてみて千博は一瞬固まった。口もあいていたかもしれない。小さな顔。ほのかに赤い唇。透き通るような白い肌。銀色の長い髪は肩までより少し長い。
「ふむ、ラッセルにチヒロだな。覚えたぞ。私はユリア・カーリン。この国の女王だ。よろしくな。」
「………超美人」
「ああ………。」
「?どうしたのだ?」
ポカンとしていた2人はその言葉にはっと気がつく。
「……あ!すいません。こちらこそよろしくお願いします!」
「うむ。では今日の所はとりあえず城に泊まってくれるか?明日までには2人の住める所を探しておくから。」
「え、ほんとですか⁈ ありがとうございます!」
やった!とりあえず今日はゆっくりできそうだな。これまで一睡もしていない千博は全身の緊張がとけるのを感じた。
「部屋は…そうだ。メイド長!適当な所を選んで案内してやれ。」
「分かりました、女王様。」
スカートの裾を持って一礼するとメイド長と呼ばれた人は千博とラッセルの前まで来て後に着いて来るよう言った。
「さあ、こちらへどうぞ。ご案内致しますね。」
城に泊まれるなんてすげーついてるな、貴重な体験だ!心を踊らせながら着いて行く千博とラッセルを見送るとユリア女王は残った2人に向かってにっこりと笑いかける。
「お前達はまだ残ってもらうぞ?さあ、同盟の報告をしてもらおうか。それとチヒロとラッセルとあったことも聞きたいな。」
「あー、…はは。ですよね。」
千博とラッセルを追って扉に行こうとしていたバルト宰相が引きつった笑顔とともに答え、クロード近衛隊長がため息をつく。
「まだ休めそうにないですね…。」
「早く寝たかった…」
ぼそぼそ呟く2人など気にもせず冒険の話を一刻でも早く聞きたい女王様だった。