出発とお城
バルトさんは宰相だった。どうやら馬車で隣の国に行った帰り道に襲われたらしい。そういえばあと一人いたような…
「やっと取り返せました。すいません、待たせてしまって。」
「お、帰ってきたか。」
「あ。」
そうだった、護衛の男もいたんだった。手には剣を持っている。
「本当に取り返してきてくれたのか?それはありがたい。」
護衛の男は千博達を見て意外そうな顔をしてみせる。
「当たり前だ!そう言っただろ?」
ラッセルが食ってかかった。
「いや、もし君達が駄目だったら私が行かなくてはならなかったからな。まあ、礼を言っておく。」
「てめぇ…」
「まあ良いじゃないか、ラッセル。ちゃんと取り返してこれたんだから。」
納得いかなそうな顔のラッセルを静めて千博は質問する。
「そういえば何をしてたんですか?」
「ああ、これを探していたんだ。」
護衛の男は手に持った剣を見せる。鞘に収まった立派な両手剣だ。柄には水晶のような透明な宝石が埋めこんである。
「立派な剣ですね。わざわざ探しに行くなんて、とても大切な物なんですか?」
「それはそうだ。騎士にとって剣は命も同然。簡単に失って良い物ではないからな。まあ、理由はそれだけじゃないんだが。」
騎士道を重んじる人なんだな。少し頭が固そうだけど良い人のようだ。
「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったですね。真中千博と言います。よろしくお願いします。」
思い出して千博は自己紹介した。
「私はクロードと言う。それにしてもマナカチヒロ…。変わった名前だな。出身は何処で?」
「日本です。」
「ニッポン?聞いたことがない。余程の辺境から来られたのだな。どうしてゼウシアへ?」
うーん、日本て辺境かな?俺はゼウシア王国の方が聞いた事ないんだけど。あ、もしかして極東の国ってやつかな。そんな事を考えながら千博は答える。
「それがよく分かんなくて。今日起きて気付いたらここの国にいたんです。」
「何?それは大変だ!誘拐ではないか⁈」
「それでは行く当てもないだろう。やはり我が国の城へ来るといい。君は恩人だからな。丁重にもてなすぞ。」
バルトさんにそう言われたし、今できることといったらやはり情報収集くらいでもあるからラッセルと2人でお言葉に甘えることにした。
「幸い城まではそんなに遠くはない。明日の昼までには歩いてでも着くさ。」
「すぐに出発しますか?」
「うむ、今なら我が国の近衛隊長に加えて2人も助っ人がいるからな。心配はなさそうだ。」
そうしてバルトさんとクロードさんに連れられ、千博とラッセルはゼウシア王国へ向かって歩き出した。
あれから何時間歩いただろう。太陽は既に千博達のほぼ真上まできている。元気なのはクロードさんだけで後の3人はへとへとだった。
「まだ着きませんかね?」
力を振り絞ってラッセルがバルトさんに尋ねる。
「あ、あと少しのはずだ。」
「何で曖昧なんすか…。」
「い、いや!もう着く…はず…」
「……。」
半信半疑で疑うラッセルにバルトさんは戸惑っている。うん、俺も少し不安だな。と思っていると
「見えたぞ。あれが私達の城だ。」
ついに城が見えてきた。とても大きい城だ。城の下には城下町が広がっている。城下町に入って行くと人の数がかなり多く、休日のテーマパーク並に賑わっていた。昨日山から見た町とは活気も規模も桁違いだ。先程からいろんな店の人が客寄せをしている。その先にある城は本当に大きい。西洋の城を見るのは初めてだが、この城はかなり大きい方に入るのではないだろうか。日本の城の5倍くらいの広さがありそうだ。大きな門に守られており、見張り用の塔もある。窓はステンドグラスが使われておりガラスの一枚一枚の絵は神秘的でとても華々しい。
「………!」
思わず絶句する2人をよそにバルト宰相とクロードは門番と入城の手続きをしている。
「ほら、行きますぞ。」
「え?あ!は、はい!ほら、ラッセル、行くぞ!」
千博はラッセルを引っ張って2人に着いて行く。城の中庭を通って城の中へ入ると大勢のメイドや執事が並んで出迎えた。驚きの連続に既に千博達は喋ることを忘れ目だけを働かせていた。そして先に進んでいくと両開きの大きな扉の前で2人が立ち止まった。
「いまから女王陛下にお目見えする。失礼の無い様にするのだぞ。分かったな?」
「え⁈ 女王様ですか⁈ 」
嘘だろ⁈ いきなり女王様なんて言われても実感わかないって!ていうか俺もろ部屋着だし。既にアウトでしょ!
「さあさあ、行きますぞ。」
「ちょ、待ってって…」
千博の心の準備をする間もなく、大きな扉は開かれる。